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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
77/165

王妃と汗明

お待たせしました。

 時は脩璃しゅりらが昆命こんめいに到着する前日。汗明が旅籠はたごで密談をしていた翌日にさかのぼる。


 その日の朝、汗明は検品に訪れた商人の姿を見て、満足げに頷いた。

「これはこれは大使様。ご依頼の品を揃えて参りました。旅籠の主より命じられました『示現じげん』と申します」

 腰を低くし、揉み手で笑う示現。汗明は即金で代金を支払うと、邪険に手を振って彼を追い払い、献上品を積んだ馬車を阿望宮あぼうきゅうへと走らせた。

 示現はその様子を見届け、人波に紛れるようにして忽然こつぜんとその姿を消した。斉賢せいけんへの報告に向かったのである。


 城内に入った汗明は、賢帥けんすいの部屋を訪れた。

「殿下、昨日はお願いし忘れたことがございまして。実はしょう国王より、王妃様にも献上の品がございます。私のような他国の男が直接後宮へ伺うのは憚られますゆえ、殿下の手からお渡しいただけないでしょうか」

 賢帥は鼻を高くし、「母上への贈り物か。よかろう、俺が責任を持って届けよう」と胸を叩いた。

 汗明は恭しく五つの大きな箱を運び込ませ、蓋を開けさせた。煌びやかな財宝の数々に、賢帥は目を輝かせる。

「鍾国王は、殿下の将来を安じつつも、国に火種――具体的には斉賢殿のような存在――があることを懸念しておられました。ですが、王妃様と殿下には我が鍾国がついている、と……」

 賢帥の顔が喜色に染まる。「それは心強い! 早速、母上にこの品を届けてこよう!」


 ◇


 後宮の最奥。賢帥が運んできた箱を前に、王妃はうっとりと宝石を眺めていた。だが、最後の箱の中身を見た瞬間、彼女の眉がわずかに動いた。

「母上、お気に召しませんか?」

「いいえ、素晴らしいわ。汗明という者は殿下の部屋にいるのね? これだけの進物、直接礼を言いに行きましょう」

 賢帥が嬉々として先触れに走った後、王妃は女官たちをすべて部屋から下がらせた。彼女が手にとったのは、箱の底にあった一本の「玉笛ぎょくてき」。その筒の中に指を差し込むと、小さな布の塊が転がり出た。


 ◇


 賢帥の部屋で、王妃は汗明に拝謁を許した。

「汗明とやら、鍾国王への返礼としてこれを持っていけ」

 女官が運んできたのは、見事な装飾が施された大型の箏――『しつ』であった。

「先の笛の音と、この瑟の音が美しく調和するが如く、両国が末永くよしみを保てるように……との願いを込めてな」

「ははぁ、ありがたき幸せ……っ」

 汗明はわざとらしく涙を拭い、額を床に擦り付けた。


 旅籠に戻った汗明は、すぐさま瑟を検分した。側面の装飾――「龍口りゅうくち」と呼ばれる部分に指をかけると、うっすらと入った筋に沿って木蓋がずれる。中には、丸められた布が入っていた。

 内容を確認した汗明は、不敵な笑みを浮かべた。

(……ククク、やはりこの女、欲の皮が突っ張っている。これならば容易い)


 同じ頃、後宮。王妃もまた、笛の中に隠されていた布を読み終え、暗い部屋で一人、不気味に微笑んでいた。


 ◇


 阿望宮の一角。二人の男が密談していた。

「汗明と王妃、そして賢帥が接触しました。かなりの宝物が献上されましたが、物的証拠はすべて闇の中かと」

「……であろうな。奴らの狙いを、斉賢様に逐一報告せよ」

 命じた男の問いに頷き、報告役の影は夜の闇へと溶けていった。

次回更新は12月6日(予定)です。

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