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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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ある奴婢(ぬひ)との出会い

お待たせしました。

 堅城けんじょうを出て陸路を一日。一行が到着した次の街もまた、運び込まれた荷と人で溢れかえっていた。初めて見る「文明的な喧騒」に目を丸くするオユン。だが、馬車の手綱を握る華鳳かほうの目だけは鋭く、絶えず背後の気配を探っていた。


 その深夜。宿のベッドで横になっていた脩璃しゅりは、耳元に届くかすかな声に目を開けた。

「脩璃様……むらさきです」

「どうした。こんな夜中に」

「華鳳殿もお気づきですが、この宿は見張られています。人数は二人」

「……偵察か。僕たちの正体は、堅城に入った時点で割れているようだね。ありがとう、紫。下がっていいよ」

 紫が闇に消えると、隣で寝ていた陽明ようめいも身を起こした。

「仕組まれた旅、というわけですか」

「だろうね。でも、ここで引くわけにはいかない。明日を待とう」

 脩璃は小さく笑い、再び目を閉じた。


 翌朝、食堂は商人たちのどよめきに包まれていた。

「堅城の水運が止まったらしいぞ!」「関所もすべて封鎖だ。ほうへは帰れん!」

 耳に入った情報に、陽明が脩璃を見た。

「予感的中、ですね」

 そこへ慧軻けいかが息を切らして駆け込んできた。

「修様! 鵬に続く道がすべて塞がれやがった!」

 脩璃は落ち着いて茶を飲み干すと、不敵に笑った。

「虎穴に入らずんば虎子を得ず。斉賢せいけんという男が何を企んでいるのか、直接拝みに行こうじゃないか」


 ◇


 馬車は再び街道を進み、日没を過ぎて次の街へ。夜間に閉ざされた城門も、あの「竜頭帆璧りゅうとうはんぺき」を見せれば、兵士たちは震え上がって道を開けた。


 翌昼、街の広場を通りかかった際、人だかりに興味をそそられたオユンが脩璃を強引に引っ張っていった。

「修、あれを見ろ! なぜ彼らは鎖に繋がれている?」

 最前列で脩璃が目にしたのは、鉄の枷で繋がれた三人の姿だった。二十歳ほどの青年と、まだ幼い子供が二人。

 その前に立った商人が、揉み手で声を張り上げる。

「さあ見てらっしゃい! こちらは希少な鵬国育ちの奴婢ぬひでございます! 育ちのいい若者に、素直な農村の子供。今なら三人まとめて金二十四枚でいかがかな!」


 鵬国出身――。

 その言葉に、脩璃の顔から血の気が引いた。自分が命がけで禁じたはずの人身売買。その犠牲者が、今、目の前で商品として晒されている。

 震える脩璃の肩に、陽明がそっと手を置いた。

「……修様、彼らを買い取りましょう」

 華鳳もまた、痛々しいほどに拳を握りしめる脩璃の背中を押し、商人に詰め寄った。

「おい、このガキ共じゃ大して働けねえだろうが。金八枚、三人合わせて二十四枚だ。それで手を打て!」


 商談は成立し、三人の枷が外された。

 馬車に戻った一行を見て、留守番をしていた黄花おうかと慧軻が天を仰いだ。

「……旅の仲間が増えましたね、お坊ちゃん」


 ◇


 広場の隅で、三人に話を聞くことにした。年長の青年は「げん」と名乗り、子供たちはケン、コンと震えながら答えた。

「なぜ、奴婢に……?」

 脩璃の問いに、阮は消え入るような声で語り出した。

「十年前、北狄ほくてきの軍が村に攻めてきました。家は焼かれ、家族は目の前で殺され……。逃げ延びましたが、食い詰めていた五年前、あの商人に拾われたのです。……今でも、あの火の海を思い出すと体が震えます」

 阮の細い肩が小刻みに揺れ、瞳に涙が溜まっていく。


 それを聞いた脩璃もまた、溢れる涙を拭おうともせず、阮の体を優しく、だが力強く抱きしめた。

「……ごめんね。僕の力不足だ。でも、もう大丈夫だから。二度と離さないよ」

 王としての悔恨と、友としての慈愛。脩璃の呟きは、阮にだけ届くほど小さな、けれど確かな誓いだった。


 その様子を、尋常ならざる表情で見つめていたのはオユンだった。

 彼女の同胞が、この青年の日常を奪い、人生を狂わせた。握りしめた彼女の拳は、やり場のない怒りと羞恥に震え、血が滲むほどに食い込んでいた。

次回の更新は11月27日(予定)です。

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