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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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船旅と侵攻の開始

おまたせしました。

 長顕ちょうけんは店に戻るなり、父の代から仕える腹心たちを集めた。

「近頃のモノとカネの動きを、針の穴を通す勢いで調べろ。出所は問わん、平時と違う流れをすべて洗い出すのだ」

 長顕が「官吏への賄賂」ではなく「物流の変動」に目を向けたのは、それが商人の極意だからだ。人の口は嘘をつくが、モノの動きは計画を隠さない。これもひとえに、亡き妹の忘れ形見である斉賢せいけんを、宮廷の毒牙から守り抜くという長顕の執念であった。


 数日後、長顕は膨大な資料を抱えて斉賢の別宅へ向かった。

「気になる動きを見つけました。まずはこれを」

 広げられた資料をまじまじと見つめた斉賢が、眉をひそめる。

「……炭と薪が異常な量だ。それに、大量の木材と縄……」

「お気づきになりましたか。この時期にこれほどの薪は、夜間の松明たいまつを意味します」

 続けて長顕がもう一枚の紙を示した。

飼葉かいばですな。……馬三千頭分。夜間をも問わぬ行軍の準備です」

「三千の兵……。軍でほう王をしいするつもりか?」

「いえ、殺すなら暗殺を選びましょう。これは『通行封鎖』です。脩璃しゅり君がこん国へ深く入った後、玄河げんがの水運と街道を遮断し、退路を断つのが狙いかと」

「袋の鼠にするつもりか……。あいつらの企み、全容を暴く必要がありそうですね」


 ◇


 その頃、脩璃一行は四日の船旅を終え、崑国の要衝・堅城けんじょうに到着していた。

 船旅の間、不慣れな揺れに悶絶していたオユンも三日目には快復し、今は喜々として未知の風景を眺めている。

「オユンの船酔いは、人質事件の罰に違いねえ!」と笑う華鳳かほうの横で、慧軻けいかだけは真剣に船員から積載量や速度を聞き取り、竹簡に記録していた。彼の「輸送調査」という本来の任務は、着実に遂行されていたのである。


 堅城の船着き場。楼船ろうせんから降り立った一行を、崑国の兵士が取り囲んだ。

 黄花おうかが落ち着いて入国書類と、あの「竜頭帆璧りゅうとうはんぺき」を掲げる。

「……これは!?」

 玉璧を見た官吏は顔を強張らせ、慌てて背後の役所へ走り、別の高官を連れて戻ってきた。

「失礼した。この玉璧を持つ方は崑国の貴客。無検査での通行が許されております。ようこそ崑国へ!」

 仰々しい歓迎を受け、一行は首都・昆命こんめいを目指し、陸路へと足を踏み入れた。


 だが、一行の姿が見えなくなるや否や、堅城の長官は冷徹に命じた。

「これより堅城の水運を完全封鎖せよ。桟橋には木枠を組み、一艘の船も出すな。……それと宮中の王様へ伝令を飛ばせ。――『獲物が入った』とな」


 ◇


 同時刻、遥か北方。北狄ほくてき単于ぜんうのゲル。

 大地を埋め尽くす五万の精鋭騎兵が、出陣のときを待っていた。

「父上、準備は整いました。どこから踏み潰しますか?」

 長男のテゥルクの問いに、単于は地図上の「柏陽長城はくようちょうじょう」を剣先で突き刺した。

「ここを落とせば鵬国は終わりだ。そしてここには、あの因縁の男がいる……」

岳紫苑がくしおん……あの老いぼれ将軍ですか」

「老いてなお猛る獅子よ。奴との決着をつける時が来た。ハッハッハ!!」


 「鵬を攻める! 目指すは柏陽長城だ!」

 テゥルクの号令とともに、五万の騎馬が地響きを立てて動き出す。

 崑国に足を踏み入れた脩璃。そして、脩璃不在の鵬国へ迫る北狄の大軍。

 大陸を揺るがす戦乱の嵐が、ついに吹き荒れようとしていた。

次回は11月24日(予定)です。

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