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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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父と子、そして兄弟の確執

お待たせしました。

 阿望宮あぼうきゅうの城門をくぐった斉賢せいけんを、示現じげんが静かに待ち構えていた。

「斉賢様、お疲れ様でございました」

「ああ……。ここに来ると、いつもあいつ(賢帥)から嫌味を言われる」

 不貞腐れたように吐き捨てる斉賢を、示現は哀れむような目で見つめた。

「さあ、馬車へ。お屋敷へ戻りましょう」

 二人の乗った馬車は、宮殿を離れ、活気あふれる昆命こんめいの商業地区へと向かった。


 斉賢は皇子でありながら、宮中には住んでいない。その理由は、彼の出生にあった。

 母は「昆命の牡丹姫」と謳われた商家の大変な美人であった。噂を聞きつけた現国王・賢志こんけんしが無理やり後宮に納め、彼女は「牡丹妃」となった。

 だが、その美しさは正妃の激しい嫉妬を招く。牡丹妃が長男である斉賢を産むと、正妃の憎悪は殺意へと変わった。正妃はしょう国の姫という立場を利用して卑劣な陰謀を巡らせ、斉賢を次男に、自らの子である賢帥を長男へと格付けを書き換えさせたのである。

 さらに牡丹妃は地位を剥奪されて実家へと追放された。当時十歳だった斉賢が見たのは、実家に戻り平穏を取り戻したはずの母が、鍾国由来の「解明不能な毒」によって吐血し、絶命する姿だった。

(あの王妃と賢帥……そしてそれを見過ごした馬鹿親父を、俺は一生許さない)

 斉賢が商人としての顔の下に隠し持っているのは、燃え盛るような復讐心であった。


 馬車の中で、斉賢が声を潜めた。

「示現。あの『竜頭帆璧』をほう王に渡したのは、馬鹿親父の命令だったんだ」

「……なんと。あれほどの至宝を、ただの交易の証として渡すはずがないと思っておりましたが」

「そうだ。親父は、脩璃しゅり君をこの国へ誘き寄せようとしている。狙いはまだ見えないが、碌なことじゃないはずだ」

「ならば、早急に探りを入れましょう」


 馬車は、昆命でも指折りの大商家「黄鶴老舗こうかくろうほ」の前で止まった。

 出迎えたのは、斉賢の叔父であり当主の長顕ちょうけんだ。穏やかな風貌だが、一代で店を巨大化させた、その眼光は鋭い。

「叔父上。私は皇子などという飾りを捨て去りたいと言っているのに、わざわざ出迎えなど」

「斉賢様。滅多なことを仰るものではありません。あの方(王妃)の耳に入れば命がいくつあっても足りませぬよ」


 斉賢の居室へと場所を移し、三人は密談を始めた。

「叔父上。実は、父上の命で鵬王に帆璧を渡してきました」

「鵬王、麟脩璃……。噂に聞く、瑠璃や木綿で大陸の経済を揺るがす若き天才ですな」

 斉賢は、花香館で出会った少年のこと、そして彼が語った「民主主義」という異端の思想について話した。

 聞き終えた長顕は、驚愕に目を見開いた。

「……民主主義、ですか。王が民に仕える。それを十を少し過ぎた少年が口にされるとは。末恐ろしい。我が国もそのような方が頂点におれば、斉賢様がこれほど辛酸を舐めることもなかったでしょうに」

 長顕が本音を漏らすと、三人は顔を見合わせ、声を殺して笑い合った。


「だが叔父上、問題は帆璧です。親父がなぜそこまでして鵬王を呼び寄せたのか、その真意を探る必要があります」

「承知いたしました。私の商網ネットワークをフル稼働させ、宮中の動きを洗いましょう」

 長顕は力強く頷き、影のように部屋を辞した。


 崑国という巨大な迷宮。その深淵で、仇敵たちが仕掛ける罠。

 斉賢は窓の外の夜景を眺めながら、遠く玄河を下ってくるであろう少年の姿を思い浮かべていた。

次回は11月21日(予定)です。

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