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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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川賊の顛末

お待たせしました。

 洞窟の前。縄をかけられた川賊たちが、恨めしげに地面に座らされていた。

「誰の情報で荷を襲っていた?」

 少年の問いに、一人の川賊が鼻を鳴らしてそっぽを向く。すると慧軻けいかが、今まで見せたことのない「裏社会の顔」でその男の顎を掴み、自分の方へ向けさせた。

「強情を張るのは盗賊の華だがね……。俺の前でそれを突き通せるかな?」

 梁山泊のかしらを支えてきた慧軻の殺気は、三流の盗賊を震え上がらせるには十分だった。

「ひいっ! 言う、言うよ! 飯屋の親父から情報を買ってたんだ。それだけだ、信じてくれ!」

 慧軻が満足げに「だそうですぜ、修様」と微笑む。脩璃しゅりは林の闇へ向かって声を張った。

張俊ちょうしゅんと飯屋の主人の身柄を拘束してほしい!」

 ガサッ、と茂みが揺れ、あおが姿を現す。「修君、緑と藍が向かったよ」


 ◇


 その頃。陳秦ちんしんは意気揚々と馬を駆り、背後の陽明ようめいに胸を張った。

「御史大夫様、前任の門瓢もんぴょうが手を焼いた川賊も、私の手にかかればこの通り。じきにアジトですぞ」

「さすがは陳秦殿。門瓢殿にはない『手際の良さ』をお持ちだ」

 白々しい陽明の追従に、陳秦は鼻を高くして高笑いした。


 洞窟が見える角まで来ると、偵察に出たさいが戻ってきた。

「川賊らしき二名が入り口を見張っています!」

「よし、かかれ! 一人も逃すな!」

 陳秦の号令で兵が突撃する。すると、洞窟の中から脩璃が縛り上げた川賊を引きずり出して現れた。

「あ、ご苦労様です。もう捕まえておきましたよ!」

 拍子抜けした兵たちが立ち往生する。焦ったのは陳秦だ。自分の手柄にするはずが、正体不明の商人に先を越されては面目が立たない。

「……何をしている! 奴らも川賊の一味に違いない、構わぬ、殺せ!」

 蔡の扇動で兵たちが槍を構えたその時、陽明が馬を飛ばして脩璃の前に立ちはだかった。

「待て! 既に捕縛されている者に刃を向ける必要はない!」


「御史大夫殿、血迷われたか!」

 陳秦が馬を寄せて嘲笑う。

「御史台に官吏の監察権はあっても、兵の指揮権はない。今、この場の王は私だ。――者共、やれ!」

 兵たちが迷いを見せつつも陳秦に従おうとした瞬間。陽明が懐から一通の絹布を掲げた。

「勅命である! 『臨光の全軍指揮権を、一時晏陽明あんようめいに委ねる。――脩璃』。……これを見ても退かぬか!」

 その名を目にした瞬間、兵たちは一斉に跪いた。陳秦は落馬せんばかりに慌てて地を這い、勅書を凝視して絶望の呻きを漏らした。


 ◇


 同時刻、臨光の街。

 酒に酔いしれていた張俊は、扉を叩く音にふらふらと立ち上がった。扉を開けると、そこには仁王立ちする巨漢――破玉のあいがいた。

「……あ?」

 酔いが醒めるより早く、藍の当て身が張俊の意識を刈り取った。


 繁華街の飯屋でも、裏木戸から逃げようとした店主の老人が、待ち構えていたみどりの一撃で沈んでいた。


 ◇


 役所の庭。川賊の生き残りと、引き立てられた張俊、飯屋の主人が一堂に会した。

 陽明による峻烈な糾問が始まる。

「川賊に情報を流していたのは誰だ?」

「飯屋の親父だ」

 川賊が答え、次に店主の老人が震えながら白状した。

「……張俊という男に頼まれました」

 蔡が「私が張俊を捕らえてまいります!」と席を立とうとするのを、陽明は冷ややかに制した。

「必要ない。もうそこにいる」

 引き出された張俊は、死神を見るような目で蔡と陳秦を指差した。

「……情報をくれたのは、その衛兵の蔡だ。そいつは、陳秦の旦那の命令で動いてたんだよ!」

 張俊の唇に、道連れにしてやったと言わんばかりの邪悪な笑みが浮かぶ。


 その時、罷免されたはずの門瓢が静かに姿を現した。

「陳秦、蔡……。役人の本分を忘れ、民の血を啜るとは」

「黙れ若造!」

 陳秦が叫んだ。

「お前のような名門のガキに、私が今の地位を築くまでの泥水を啜る苦労がわかるか!」

 吠える陳秦を、陽明は憐れみの目で見下ろした。

「地位を得ることが目的になった時、あなたの道は潰えていたのだ。……連れて行け」


 沈みゆく夕日を背に、陳秦と蔡は兵士たちに引き立てられていった。

 臨光を蝕んでいた毒が、今、完全に浄化されたのである。

次回の更新は11月12日です。

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