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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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悪辣(あくらつ)な計略

 脩璃しゅりが早朝に破玉はぎょくあおと接触していた頃、張俊ちょうしゅんもまた闇に紛れて動いていた。

 彼が向かったのは、臨光りんこうの片隅にある、朝靄に包まれた古びた飯屋だった。裏口から厨房へ入ると、年老いた主人が独り、黙々と仕込みをしていた。

「よぉ、じいさん。精が出るな」

「……お前か。こんな早くに来るとは、『仕事つとめ』の話か?」

「ああ。繋ぎだ。明日、いつもの場所に集まれとの命だ。いん門瓢もんぴょうが失脚した。いよいよ御開帳ごかいちょうだぜ」

「ほう、急だな……分かった。すぐに仲間に伝えてくる」

 主人は店を張俊に預け、足早に出ていった。その背後を、影のように破玉の者が追っているとも知らずに。


 ◇


 朝食後、宿の食堂。

 青からの報告を受けた脩璃が席に戻ると、オユンの目が鋭く光った。

「少年、あの青年は何者だ? さっきお主に何を囁いていた?」

「え? ああ、ただの知り合いですよ」

「ふん、嘘が下手だな。……まあよい。川賊のアジトを見つけたのだろう? 我も行くぞ。連れて行かねば暴れてやる!」

 脩璃は溜息をつき、やれやれと肩をすくめた。「……分かりました。でも、無茶はしないでくださいよ」


 一行は地図を頼りに、臨光郊外の断崖へと向かった。木々に隠された洞窟の入り口には、見張りが二人立っている。

「あれが巣穴だね」

 脩璃たちが様子を伺っていると、背後の藪から青がさわやかに姿を現した。

「修君。役所から兵五十がこちらに向かっているよ。率いるのは代理の陳秦ちんしん。陽明君も一緒だ」

「なら、先手を打たないとね。……みんな、ちょっと集まって」

 脩璃が耳打ちした「作戦」を聞き、華鳳かほう慧軻けいかが呆れた顔を見せる。

「坊、相変わらずあくどいことを考えるもんだな」

「……最高ですね。やりましょう」

 青だけが楽しげにクスクスと笑っていた。


 ◇


 洞窟の前。欠伸をしていた見張りの前に、慧軻が血相を変えて飛び出した。

「一大事だ! お頭に伝えてくれ、役所の兵がこっちへ向かってる!」

「なんだと!? 貴様は誰だ!」

「飯屋のじいさんに頼まれた慧軻だ! ほら、もう追っ手が来てるぞ!」

 慧軻が指差した先には、華鳳とオユンが悠然と歩いてくる姿があった。

「ほう、ここが鼠の巣か。密告者の話通りだな!」

 華鳳がわざとらしく大声で叫ぶと、見張りは顔を青くして洞窟へ駆け込んだ。


 すぐさま十人ほどの川賊が飛び出してきたが、華鳳とオユンの敵ではなかった。

 華鳳が剣を振るう横で、オユンが豪快に拳を叩き込む。

「次は誰じゃ! 鵬の男は歯応えがないのう!」

 彼女の鮮やかな足技で剣を弾き飛ばされた男たちが、恐怖に顔を引き攣らせる。そこへ、洞窟から二回りほど大きな体躯の男――川賊の頭が現れた。

「野郎ども、総出で血祭りに上げろ!」


 二十人の川賊に包囲された華鳳は、ニヤリと笑って一人の手下を指差した。

「おう、礼を言うぜ。お前が教えてくれたおかげで、ここを突き止められた」

 その一言で、現場の空気が凍りついた。

「……なに!? お前、裏切ったのか!」

 頭が激昂し、指差された手下は弁明の間もなく仲間に斬り殺された。すかさずオユンが別の男を指差す。

「いや、その男ではない! こっちの男だったな!」

「貴様もか!」

 次々と仲間を疑い、殺し合う川賊たち。もともと義理も信頼もない連中だ。アジトがバレたという現実が、華鳳たちの嘘を真実へと変えていく。


 極め付けに、華鳳がかしらを指差した。

「ああ、悪いな。本当の裏切り者はお前たちの『頭』だよ。手下を差し出す代わりに、自分だけ減刑される約束だったよな?」

「て、テメェ……お頭ぁ!!」

 怒りの矛先はついに首領へと向かった。


 凄まじい同士討ちが始まった。

 首領は大男らしい剛腕で手下をなぎ倒したが、数に押され、最後は無数の刃に沈んだ。生き残ったのは、息も絶え絶えな十人足らず。

 そこへ、脩璃が静かに歩み出た。

「川賊諸君。もはや包囲されている。大人しく捕縛されなさい」


 抵抗する気力すら残っていない川賊たちは、その場にへたり込んだ。慧軻と青が手際よく縄をかけていく。

 血の匂いが漂う断崖に、勝利の静寂が訪れた。

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