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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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闇夜の烏(カラス)

 脩璃しゅりの部屋には、華鳳かほう慧軻けいかが集まっていた。話題は自ずと、先ほど街で見かけた因縁の男・張俊ちょうしゅんのことになった。

「しかし野郎、こんなところで何をしてやがんでしょうね」

「足を洗ったとは思えないかな、慧軻?」

「いいえ。あの目はまだ盗人の目です。それも、以前よりずっと濁っていやがる」

 華鳳が腕を組み、窓の外を睨む。

「問題は川賊との関わりだな。慧軻の勘が正しければ、奴は商人の荷を品定めする『目利き』として川賊と通じているはずだ」

(あるいは、役所の内通者と川賊を繋ぐ橋渡しか……)

 脩璃は、張俊にも破玉はぎょくの監視をつけるよう命じた。


 ◇


 時は少し遡る。臨光尹りんこういんの執務室。

 代理に任命された陳秦ちんしんは、誇らしげに尹の椅子に座っていた。

「門瓢の若造が手を焼いていた川賊を、ここで一気に始末すれば私の手柄。ついでに奴らとの関係を知る者も口封じができるというもの……」

 陳秦は含み笑いを浮かべ、腹心の衛兵・さいを呼び寄せた。

「二日後、いつもの場所に集まるよう、今夜張俊に伝えろ。いいな」

 二人の密談を、天井裏から破玉のみどりがじっと見守っていた。


 ◇


 深夜、宿の部屋で知らせを待つ脩璃のもとに、人相を変えた緑が現れた。

「尹代理の陳秦が動きました。衛兵の蔡に命じ、今夜、張俊へ接触を図ります。二日後、どこかに集結する手筈のようです」

「ご苦労。緑、引き続き頼む」

 脩璃は、用意していた四つの銀貨の巾着を差し出した。

「いつも面倒をかけている。事件が解決したらこれでゆっくり休んでおくれ」

 緑は一瞬驚いたように目を見開いたが、柔らかな笑みを浮かべて闇に消えた。それを見ていた華鳳が、茶化すように言う。

「坊も人心掌握が上手くなったな。で、俺にはないのか?」

「華鳳には、銀盤宮に『とっておきの宝物』を用意してあるよ」

 脩璃が意味深に微笑むと、華鳳は「へっ、楽しみにしてるぜ」と鼻を鳴らした。


 ◇


 同じ頃。衛兵の蔡は、顔なじみの警備兵と挨拶を交わしながら、手慣れた様子で深夜の街を歩いていた。彼が辿り着いたのは、張俊の潜伏先だ。

 その様子を監視していた破玉のあおは、蔡が部屋に入ると同時に屋根へ飛び、驚くべき行動に出た。

「ふんっ……」

 青が呼吸を整えると、その肩からポキポキと異音が響く。彼は自ら関節を外し、常人では通り抜け不可能な屋根裏の隙間へ、まるでたこのように滑り込んで見せたのだ。


 屋根裏で息を潜める青の耳に、酒を酌み交わす二人の声が届く。

「陳秦様からの伝言だ。二日後、いつもの場所に集まれとよ」

「分かった、川賊の連中にも繋ぎをつけておく。……しかし、門瓢のガキがいなくなって、ようやく陳秦様が実権を握られたか。こりゃ愉快だ」

 張俊は卑屈な笑みを浮かべ、さらに続けた。

「あの王のガキ――麟脩璃りんしゅりに、特大の復讐をしてやるのさ。俺の人生を滅茶苦茶にした報いをな……」

 張俊の瞳に、揺れる灯火が怨念のように映り込んでいた。


 ◇


 翌朝。宿の井戸で顔を洗う脩璃の背後に、一人の青年が立った。

「早朝から少年が顔を洗う姿は、絵になりますねぇ」

「褒めても何も出ませんよ」

 すれ違いざま、青年――破玉の青は、手品のような手際で脩璃の掌に紙片を滑り込ませた。

「昨夜、カラスの巣に怪しい風が吹きましてね。明晩、群れが動くようです」

「……そうですか。ならば、一羽残らず駆除する必要がありますね」


 部屋に戻り、紙片を広げた脩璃は、蔡と張俊の密談、そして背後の陳秦の陰謀を確信した。

「二日後の夜……決戦だね」

 少年の瞳には、もはや迷いはなかった。

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