表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
62/165

白い玉璧

すみません玉璧の漢字を間違えていました。修正しています。

 歓談スペースで茶を啜る脩璃の視界に、一際けばけばしい一団が飛び込んできた。

 先頭を歩くのは、見るも鮮やかな意匠を凝らした衣装を纏う青年。その後ろを、いかにも「お付き」といった風情の苦労人そうな男が従っている。

 青年は自由奔放な振る舞いを見せつつも、その一挙手一投足には隠しきれない気品が漂っていた。

(……商人には見えないな。どこかの貴族か、あるいは)


 脩璃が観察を続けていると、青年が不意にこちらを向いた。

(あっ、目が合った……)

 脩璃は慌てて視線を茶器へ落としたが、時すでに遅し。青年は扇子をパタパタと鳴らしながら近づくと、隣の椅子にストンと腰を下ろした。


「ねえ君、さっき僕を見ていたよね?」

「あ……はい。素敵な衣装だと思いまして」

「ほう! 君はなかなか見る目があるねえ。あそこにいる示現じげんなどは小言ばかりで、私の感性を一向に理解しようとしないのだよ。まったく、君を弟子にしたいぐらいだね!」

「光栄です……」

「で、君は何者だい?」

「……ここの店主が姉でして。商売の修行をしろと言われているんです」


 斉賢さいけんと名乗った青年は、扇子で口元を隠し、細めた瞳でじっと脩璃を見つめた。

「私はこん国から来た商人でね。噂の瑠璃ガラスを買い占めに来たのだよ。……お金なら心配いらない」

 示現が差し出した大箱には、目も眩むような黄金が詰まっていた。東夷とういとの交易で財を成したという。

 斉賢は身振り手振りを交え、異国の風習や荒波を越える過酷さを喜々として語り始めた。脩璃はその型破りな語り口に、不思議と好感を抱き始めていた。


「坊ちゃん、支払いが済みました。……随分とお話が弾んでいるようで」

 近づいてきた番頭・示現に対し、斉賢は胸を張った。

「示現、このしゅう君はお前よりよっぽど商売の才能があるぞ! しかも私の衣装を褒めてくれた!」

「坊ちゃん……その衣装のどこが素晴らしいと? 目がチカチカします。修君、どうか悪い影響を受けないでくださいね」

 そんな軽妙なやり取りの後、示現が探るような視線を脩璃に向けた。

「ところで修君。鵬国はここ数年で劇的な発展を遂げたと聞くが……一体何があったのですかな?」


 脩璃は「姉から聞いた話」として、新王の親政と産業の興隆を説明した。示現は感銘を受けたように額に汗を浮かべて聞き入っていたが、斉賢だけは余裕の表情で問いを投げた。

「王によってまつりごとがコロコロ変わる。……それは、本当に良いことなのかな?」

 示現が「なんて不敬な!」と慌てふためく中、斉賢の視線が鋭さを増す。

「君はどう思う? 修君」


「……確かに、王にすべてを委ねる形は不安定かもしれません。例えば、民が自ら政を行うという形もあるでしょう」

「なに!? 詳しく聞かせたまえ!」

 斉賢の食いつきに、脩璃は前世の歴史――フランス革命をモデルにした民主主義への移行を、一つの「寓話」として語った。


「君は舟なり、庶人は水なり。水すなわち舟を載せ、水すなわち舟を覆す……か」

 斉賢は目を閉じ、数秒の沈黙ののち、晴れやかな顔で立ち上がった。

「修君、君の話は実に面白い。こんなに心を揺さぶられたのは初めてだよ。礼をさせてくれ」

 斉賢は懐からてのひらサイズの白い玉璧ぎょくへきを取り出し、強引に脩璃の手に握らせた。

「高価すぎて受け取れません!」

「気にするな。ここにある瑠璃は、元はすべて君の物だろう? それに比べれば石ころのようなものさ。では、また会おう!」


 颯爽と去りゆく一団を見送りながら、脩璃は呆然と立ち尽くした。

 店を出た示現が、低い声で斉賢に尋ねる。

「あの玉璧を渡してもよろしかったので? あれは崑国の……」

「構わんよ。それより示現、あの少年……いや、『鵬国王』は格別だったな」

 示現が足を止める。「若、まさか気づいて……?」

「ああ。王権そのものを否定する考え。あれは王族の端くれが持つ発想ではない。私と同じ、狂った魂の持ち主だよ」

 斉賢は不敵な笑みを浮かべ、太原の大通りを闊歩した。

「面白い。あのバカ親父と戦えば、どちらが勝つか見ものだ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ