崑国からの商人
お待たせして申し訳ありません。後書きに今後の予定を書いております。
梁山泊征討の後、脩璃には比較的平穏な――少なくとも、国家を揺るがすような事件のない――政務の日々が続いた。
その間、新たに設立された『万力社』は着実に歩みを進めていた。最初は石炭輸送、次に生活物資の流通。宗興の圧倒的な統率力により、万力社は瞬く間に鵬国の血脈となった。これにより、輸送任務から解放された国軍は、本来の防衛任務に専念できるようになったのである。
新産業による収益は、当初の予想を遥かに上回った。相国の奉師は連日、緩みきった笑顔で朝議に臨んでいたが、その幸福感は長くは続かなかった。
長年の内政荒廃により、国境の城砦や街道はボロボロ。大司馬・紫苑が突きつける軍備拡張の予算案に、利益のほとんどが消えていったからだ。
また、脩璃は一つの決断を下した。「急激な成長は社会の破綻を招く」という前世の経験から、内政への注力を一時緩めることにしたのだ。屯田により耕地は増えたが、それを耕す農民の人口が圧倒的に足りないという、人手不足という壁に突き当たっていたのである。
こうして脩璃が十三歳になった頃。崑国から、奇妙な二人組が鵬国の地を踏んだ。
太原へと続く街道を、煌びやかな衣装を纏った青年が馬で進む。齢は二十を少し過ぎた頃か。その後ろには、いかにも苦労人といった風情の三十男が付き従っていた。
「斉賢様、ようやく太原が見えてきました。……長かった」
「悪くない旅だったじゃないか、示現。『賊の国』だと聞いていたけど、警備も行き届いているしね」
「噂の新王の仕業でしょう。ですが、瑠璃を自国で作っているという話は、いささか眉唾かと」
「だから見に来たんだよ。商人のフリをしてね」
「おっと……失礼しました、坊っちゃん!」
二人は不敵な笑みを交わし、活気溢れる太原の門を潜った。
◇
銀盤宮の私室。脩璃は明玉と共に、万福特製のシュークリームを楽しんでいた。世話を焼くのは、すっかり鵬国に馴染んだ侍女の梅花だ。
「この『しゅーくりーむ』は至高ね、脩璃!」
恍惚の表情を浮かべる明玉。彼女は強引に梅花を椅子に座らせ、三人でお茶会を始めた。そこへ入室を求めたのは、華鳳だった。
「坊、邪魔するぜ。……おっ、シュークリームじゃないか!」
梅花が顔を赤らめながら皿を差し出すと、華鳳は「ありがとうよ、嬢ちゃん」と豪快に頬張った。その様子をニヤニヤと眺める明玉と、鈍感な華鳳を見て首を傾げる脩璃。平和な時間が流れる。
だが、華鳳が持ってきたのは商売の懸案事項だった。
「先日、崑国からの商隊が花香館に来てな。あろうことか、瑠璃の在庫をすべて買い占めていきやがったんだ」
他の商人から不満が出ていると聞き、脩璃は作業所へと足を運んだ。
高くそびえる煙突から石炭の煙が立ち上る工房。職人たちの熱気の中で、李志が汗を拭いながら脩璃を迎えた。
「李志、崑国の商人の様子はどうだった?」
「……どうにも引っかかるのです、脩璃様。彼らは一切値切り交渉をせず、言い値で全てを買い取りました。商人であれば、少しでも安く仕入れたいのが道理。しかも、瑠璃以外の商品には目もくれませんでした」
(金に糸目をつけず、最新技術の結晶である瑠璃だけを狙った、か……)
脩璃は思案した。ただの商売ではない。背後に何らかの国家的な意図を感じる。
「わかった。直接会ってみるよ」
脩璃は熱気に包まれた作業場を後にし、商人の喧騒で溢れかえる『花香館』へと向かった。
店先では店員が押し寄せる客の整理に追われていた。黄花が慌てて脩璃を奥の貴賓室へと案内する。
「崑国の商人は、まもなく次回の納期の相談に参るはずです」
「いい機会だ。ここで待たせてもらうよ」
脩璃は静かに茶を啜りながら、謎の商人――斉賢が姿を現すのを待つのだった。
本日も読んでくださいましてありがとうございました。
少々私事が立て込み始めまして毎日の投稿が難しくなってまいりました。そこで多少前後するかもしれませんが、概ね3日に一度の更新をと考えています。
ご覧いただいている皆さまには恐縮ですが、ご理解くださいますようお願いします。
既に頭の中では今後の物語はできておりますので、途中で執筆が止まることはないと思います。完結までにはいま少し時間がかかるかもしれませんが、お付き下されば幸いです。




