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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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宗興への処分とあたらなる陰謀

 宗興そうこうが意識を取り戻したのは二時間後のことだった。梁山泊の寝所で目を開けると、そこには心配そうに覗き込む稜厳りょうげんと、少年の王がいた。

「……あっしは……?」

「気がついたか! 二時間ほど眠っておったのだぞ」

 初対面の険悪さが嘘のように、稜厳が安堵の声をかける。脩璃しゅりもまた、宗興の傍らに寄り添い、優しくその手を握った。

「無理はしなくていい。まずは、君が元気になることが先決だよ」

 宗興は何も言わず、ただ深く、感謝を込めて目を閉じた。


 国軍の陣営へ戻る道すがら、脩璃は梁山泊の複雑な構造に目を見張った。内部は迷宮のように入り組み、まさしく湖上の城郭と呼ぶべき要塞であった。

(力攻めをしなくて正解だったな……)

 広間へ出ると、待ち構えていた幹部連中が一斉に膝をつき、抱拳手ほうけんしゅで礼を捧げた。宗興の目覚めを伝えると、「王様に感謝します!」という怒涛のような唱和が響く。


 船着場へ向かおうとした時、背後から腹に包帯を巻いた宗興が、手下の肩を借りて現れた。

「王様……一つ、伺いたいことがござんす。こいつらの事……やはり牢に入れるおつもりで?」

 脩璃は足を止め、振り返った。

「逮捕もしないし、牢にも入れない。だが、無罪放免というわけにもいかない。――刑期は十年間だ」

 宗興が歯を食いしばる。「その刑、あっしがすべて代わりに受けるわけには……」

「話は最後まで聞いてほしい。十年間の『仕事』に従事してもらう、という意味だよ」

「仕事……?」


 脩璃は、新産業の物流を担う『運送業』の構想を語った。賊としての土地勘と腕力を、今度は商品の護衛と輸送に転換させる。略奪を「信頼」に変え、給金で民として自立させるのだ。

「度肝を抜く敗北」と「命懸けの信頼」を植え付けられた男たちに、異論はなかった。

「……おいテメーら、聞いたか! 王様の下で十年、勤め上げるんだ!」

「「へい!!」」

 湖畔に響く野太い返事。こうして三ヶ月に及ぶ梁山泊征討は、一人の死者も出さぬまま、最強の輸送集団の誕生という形で幕を閉じた。


 ◇


 時を同じくして、しょう国では不穏な噂が流れていた。

「……あの昌延しょうえん皇子が、生きているらしい」

「十数年前に消えたはずでは。今さら戻れば、丞相が黙っておらぬぞ……」


 鍾国の首都・寿楼じゅろう。長楽宮の奥深くで、丞相・魏封ぎふうは苛立ちとともに指を鳴らしていた。

「……昌延が生きておれば、即座に葬らねばならん。それに鵬国の一件、麟国の皇子めが邪魔をしてくれた……」

 魏封は、片腕を失った覆面の男にある物を託した。それは、婚儀の返礼品として鵬国から贈られたばかりの、瑠璃るりの切子であった。

「これを持って北へ向かえ。そして――」

 密命を帯びた男は、闇へと消えた。


 ◇


 さらに悲劇はりん国をも襲う。

 皇太子・秀史しゅうしの幼き子が、早朝に急死したのだ。廷尉ていいが調査に乗り出すも、不審な点は見当たらず「自然死」として処理された。しかし、宮中では暗殺を疑う囁きが絶えなかった。

 

 征討を終え、銀盤宮に帰還した脩璃を迎えたのは、陽明ようめいの沈痛な報告だった。

「……秀史様のご子息が、お亡くなりになりました」

 脩璃は言葉を失った。脳裏に浮かぶのは、兄に抱かれていた無邪気な赤子の姿。

「……兄様の悲しみは、どれほどだろうか」

 深まる秋の気配とともに、六国を包む運命の歯車が大きく狂い始めていた。


 ◇


 数日後。脩璃は反対する司空しくうを「刑罰は更生のためにある」と説得し、正式に宗興たちの処遇を決定した。

 謁見の間。居並ぶ官吏たちの前で、宗興ら幹部が平伏する。

「面を上げよ」

 玉座に座る脩璃の声。司空が読み上げたみことのりにより、彼らは罪人から、鵬国の物流を支える組織へと生まれ変わった。

 その名は――万力社まんりきしゃ

 後に歴史家が「真の平等の実践」と讃えた、王と無頼漢の奇妙な共闘がここから始まったのである。


これより物語の後半に移ります。あとしばらくお付き合いください。毎日の更新がどこまで続けられるか・・・ボソ。

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