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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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決着

 広間に集まる幹部連中の視線は、宗興そうこうの隣に座る少年の王に集中していた。

「お前たち、よく耐えてくれた。俺に従ったばかりに、ひどい空腹を味わわせちまったな」

 宗興が手下に頭を下げると、幹部の一人が慌てて制した。

「頭、顔を上げてください。俺たちはあんたに付いて行くと決めたんだ」

「すまねぇ……」

 涙ぐむ宗興。だが、空気を切り裂くような嘲笑が飛んだ。

「で、頭。そちらにいらっしゃる『お坊ちゃん』はどちらさんで?」

 武闘派で知られる張俊ちょうしゅんが、不敵な笑みを浮かべて脩璃しゅりを小馬鹿にする。

「おい、俺の客人だ。無礼は許さんぞ!」

 宗興のドスの効いた一喝に、並み居る無頼漢たちが背筋を正す。しかし、宗興の座を狙う張俊だけは止まらなかった。

「ガキが客人だと? 笑わせるな。俺たちをここまで追い込んだ張本人が、どの面下げてここにいやがる!」


「張俊、下がれと言っている!」

 宗興の再三の制止も、野心に燃える男には届かない。張俊は自らの武勇を誇示し、一気に下克上を果たそうと目論んでいた。

 宗興は淡々と、自分の命と引き換えに皆を救おうとした経緯を説明した。涙を流す者、膝の上で拳を握りしめる者が続出する中、やはり沈黙を破ったのは張俊だった。

「納得いかねえ。俺は死んでも、こんなクソガキの軍門に下るつもりはねえ!」


 その瞬間、稜厳りょうげんが脩璃の前に立ち塞がり、剣の柄に手をかけた。だが、脩璃がその手を静かに制した。

「なら、どうするつもりだ?」

 脩璃の冷徹な視線が張俊を射抜く。

「死ねぇ!」

 逆上した張俊が、隠し持っていた短刀を抜き放ち、猛然と脩璃へ突き出した。稜厳は脩璃に手を抑えられて剣を抜けず、咄嗟に肉壁になろうとした。

 ――ドスッ!

 鈍い音が響き、脩璃の目の前で宗興が背中を向けた。

「うっ……」

 張俊の刃は、宗興の腹部を深く貫いていた。

「お、お主……!」

 驚愕する稜厳の前で、宗興は苦痛に顔を歪めながらも、張俊を殴り飛ばした。

「面目……ござんせん、王様。命に代えてもお守りすると……約束しやしたから……」


 身を挺して主を守ったその姿に、稜厳の武人としての魂が激昂した。

「貴様、許さん!」

 稜厳がかつての「北狄の死神」と呼ばれた頃の殺気を爆発させ、剣を抜き放とうとしたその時――。

「稜厳!!!!!!」

 広間を震わせる脩璃の怒声が響いた。あまりの気迫に、誰もが呼吸を忘れた。

「稜厳、その剣を私に」

「は、はい……!」

 呆然としたまま、稜厳は吸い寄せられるように愛剣を差し出した。


「張俊。お前は二つの過ちを犯した。一つは、己のかしらに刃を向けたこと。もう一つは――この私を怒らせたことだ」

 脩璃は宗興の肩に優しく触れた。

「約束を果たしてくれてありがとう、宗興。次は私が、君への約束を果たす番だ」

 脩璃が振り返った瞬間、かつて山賊を一人で壊滅させた時の凄まじい殺気が解放された。

 一歩、また一歩。近づいてくる子供が、張俊の目には飢えた虎に見えていた。

「くそ、食らいやがれ!」

 死に物狂いの連撃。だが、脩璃は円を描くような歩法で、すべての刃を紙一重でかわしていく。張俊の攻撃は右足の踏み込みが起点であることを見抜いていた。


 張俊の振りが焦りで大きくなった刹那、脩璃の剣が閃光となって走った。

「あがっ!?」

 鋭く薙がれた刃が、張俊の右ふくらはぎを斬り裂いた。崩れ落ちる張俊。勝負は一瞬で決した。

「テメー、よくも頭に手を出しやがったな!」

「いっぱしを気取ってんじゃねえぞ!」

 今度は、宗興の忠実な手下たちが怒涛の如く張俊へ襲いかかった。

 壮絶なリンチを横目に、脩璃は先ほどまでの殺気を霧散させ、いつもの少年の顔に戻っていた。


「王様、あんた……一体何者でござんすか?」

「さてね。ただの鵬国の王だよ」

 あどけない笑顔で答える脩璃。

 幹部たちが宗興の前に膝をつき、抱拳手ほうけんしゅを捧げた。

「頭、俺たちはあんたに惚れてる。地獄まで付いていくぜ!」

「……お前ら、ありがとうよ……」

 宗興は安堵したように、そのまま静かに意識を失った。

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