決着
広間に集まる幹部連中の視線は、宗興の隣に座る少年の王に集中していた。
「お前たち、よく耐えてくれた。俺に従ったばかりに、ひどい空腹を味わわせちまったな」
宗興が手下に頭を下げると、幹部の一人が慌てて制した。
「頭、顔を上げてください。俺たちはあんたに付いて行くと決めたんだ」
「すまねぇ……」
涙ぐむ宗興。だが、空気を切り裂くような嘲笑が飛んだ。
「で、頭。そちらにいらっしゃる『お坊ちゃん』はどちらさんで?」
武闘派で知られる張俊が、不敵な笑みを浮かべて脩璃を小馬鹿にする。
「おい、俺の客人だ。無礼は許さんぞ!」
宗興のドスの効いた一喝に、並み居る無頼漢たちが背筋を正す。しかし、宗興の座を狙う張俊だけは止まらなかった。
「ガキが客人だと? 笑わせるな。俺たちをここまで追い込んだ張本人が、どの面下げてここにいやがる!」
「張俊、下がれと言っている!」
宗興の再三の制止も、野心に燃える男には届かない。張俊は自らの武勇を誇示し、一気に下克上を果たそうと目論んでいた。
宗興は淡々と、自分の命と引き換えに皆を救おうとした経緯を説明した。涙を流す者、膝の上で拳を握りしめる者が続出する中、やはり沈黙を破ったのは張俊だった。
「納得いかねえ。俺は死んでも、こんなクソガキの軍門に下るつもりはねえ!」
その瞬間、稜厳が脩璃の前に立ち塞がり、剣の柄に手をかけた。だが、脩璃がその手を静かに制した。
「なら、どうするつもりだ?」
脩璃の冷徹な視線が張俊を射抜く。
「死ねぇ!」
逆上した張俊が、隠し持っていた短刀を抜き放ち、猛然と脩璃へ突き出した。稜厳は脩璃に手を抑えられて剣を抜けず、咄嗟に肉壁になろうとした。
――ドスッ!
鈍い音が響き、脩璃の目の前で宗興が背中を向けた。
「うっ……」
張俊の刃は、宗興の腹部を深く貫いていた。
「お、お主……!」
驚愕する稜厳の前で、宗興は苦痛に顔を歪めながらも、張俊を殴り飛ばした。
「面目……ござんせん、王様。命に代えてもお守りすると……約束しやしたから……」
身を挺して主を守ったその姿に、稜厳の武人としての魂が激昂した。
「貴様、許さん!」
稜厳がかつての「北狄の死神」と呼ばれた頃の殺気を爆発させ、剣を抜き放とうとしたその時――。
「稜厳!!!!!!」
広間を震わせる脩璃の怒声が響いた。あまりの気迫に、誰もが呼吸を忘れた。
「稜厳、その剣を私に」
「は、はい……!」
呆然としたまま、稜厳は吸い寄せられるように愛剣を差し出した。
「張俊。お前は二つの過ちを犯した。一つは、己の頭に刃を向けたこと。もう一つは――この私を怒らせたことだ」
脩璃は宗興の肩に優しく触れた。
「約束を果たしてくれてありがとう、宗興。次は私が、君への約束を果たす番だ」
脩璃が振り返った瞬間、かつて山賊を一人で壊滅させた時の凄まじい殺気が解放された。
一歩、また一歩。近づいてくる子供が、張俊の目には飢えた虎に見えていた。
「くそ、食らいやがれ!」
死に物狂いの連撃。だが、脩璃は円を描くような歩法で、すべての刃を紙一重でかわしていく。張俊の攻撃は右足の踏み込みが起点であることを見抜いていた。
張俊の振りが焦りで大きくなった刹那、脩璃の剣が閃光となって走った。
「あがっ!?」
鋭く薙がれた刃が、張俊の右ふくらはぎを斬り裂いた。崩れ落ちる張俊。勝負は一瞬で決した。
「テメー、よくも頭に手を出しやがったな!」
「いっぱしを気取ってんじゃねえぞ!」
今度は、宗興の忠実な手下たちが怒涛の如く張俊へ襲いかかった。
壮絶なリンチを横目に、脩璃は先ほどまでの殺気を霧散させ、いつもの少年の顔に戻っていた。
「王様、あんた……一体何者でござんすか?」
「さてね。ただの鵬国の王だよ」
あどけない笑顔で答える脩璃。
幹部たちが宗興の前に膝をつき、抱拳手を捧げた。
「頭、俺たちはあんたに惚れてる。地獄まで付いていくぜ!」
「……お前ら、ありがとうよ……」
宗興は安堵したように、そのまま静かに意識を失った。




