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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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過去の因縁

 これまで数多の修羅場を潜り抜けてきた宗興そうこうである。この程度の傷で怯むはずがなかった。

 だが、今回は違った。背後に潜む「破玉はぎょく」のあまりに音も無き神業への恐怖。そして何より、松明の炎に照らされた目の前の少年から発せられる、敵意とも慈悲ともつかぬ不思議な威圧感に、宗興はかつてない震撼を覚えていた。

「……おみそれしやした。あっしの不調法でやんした。どうか、お静まりくだせぇ」

 脩璃が軽く手を振ると、二本の刃は宗興が感知できぬ速さで闇へと消えた。


「では宗興、改めて申し状を聞こうか」

「へい。この度の始末、あっしの命一つで収めていただきたく。どうか……手下どもの命ばかりはお助けを……」

 脩璃はその言葉を遮るように言い放った。

「おかしなことを言うな。お前もその手下も、これまでそうやって命乞いをする者を殺してきたのではないのか?」

 宗興は屈辱に歯を食いしばり、呻くように語り出した。


 語られたのは、鵬国の腐敗が生んだ悲劇だった。八歳の時、わずかな税の滞納を理由に、目の前で両親を役人に切り殺されたこと。以来、騙し、奪い、生き延びるしかなかったこと。

「あっしもいっぱしの頭を名乗りながら、手下を捨てて自分だけ生き残るなんざぁ、あの仁義もねぇ役人らと同じになっちまいまさぁ。王様、後生だ。あっしの首と引き換えに、奴らを……」


 真一文字に口を結び、じっと聞き入っていた脩璃がおもむろに立ち上がった。稜厳りょうげんの制止を制し、無頼の徒の目の前で腰を下ろすと、深く頭を下げた。

「すまない。お前たちに、これほどの苦労をさせた……」

「王様、何をなされるのですか!」

 狼狽する稜厳を、脩璃は静かに諭した。

「稜厳、『過ちを改めるに憚ることなかれ』だ。国政の過ちは、最後は王である私の責任だ。それが先代の犯した罪であっても」

 宗興は絶句した。憎き役人の頂点に立つ王が、泥にまみれた自分に頭を下げたのだ。

「……王様。あんたってお人は……。あっしらに頭を下げるなんざぁ、しちゃあいけやせんぜ……」

 宗興の頑なな心が、初めて震えた。


「覚悟は決まりました。さあ、見事にあっしの首を叩き落としておくんなせぇ!」

 背を向け、首筋を差し出す宗興。脩璃は稜厳から剣を借り、鋭く振り上げた。

 ――ピュッ!

 空を切る鋭い音。だが、刃は宗興の首筋に触れる直前で、ピタリと止まっていた。

「よし、切った。もうよいぞ、宗興」

 極限の緊張から解放された宗興は、激しく肩で息をした。

「王様……どういうことで……」

「私が切ったのは、宗興、お前の『過去』だ」

 脩璃は何食わぬ顔で剣を返した。

「過去の罪を贖わせるために、お前には生きてもらわねばならない。牢に入れるより、お前という頭領が手下を統率し、世のために働かせる方がよほど有効だ。どうだ、私に力を貸さないか?」


 脩璃の真っ直ぐな瞳に、宗興は「勝てねえな」と心の中で苦笑した。

「……そこまで言われちゃあっしも男だ。ですが王様、一度だけ梁山泊へ帰してください。あっしが手下を説得してまいりやす」

「なら、私も同行しよう」

「「なっ!?」」

 稜厳と宗興の声が重なった。危険すぎると叫ぶ二人に対し、脩璃はニコリと微笑んだ。

「私は、お前を信じると言っただろう?」


 結局、心配でたまらない稜厳も加わり、三人は一艘の小舟で梁山泊へと向かった。

 暗い湖面を進み、辿り着いた根城には、飢えと疲労で倒れ伏す男たちが溢れていた。

「おい、飯だ! 腹いっぱい食え!」

 運び込まれた食料を配り、手下たちを慈愛に満ちた目で見守る宗興。その姿を確認した脩璃は、静かに広間の中央へと進んだ。


 かつての盗賊の玉座。その隣に少年の王が座り、背後には不動明王の如き稜厳が立つ。

 梁山泊の長い夜が、新しい夜明けに向けて動き始めようとしていた。

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