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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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梁山泊の主

 婚儀の余韻も冷めぬ中、脩璃しゅりは直ちに冠山かんざんへ調査員を派遣した。結果、石炭の埋蔵量は予想を遥かに上回ることが判明。脩璃は麓の貧しい村々に採掘を依頼し、農業に適さない岩山地帯に「鉱山」という新たな産業と雇用を創出した。

 燃料が木炭から石炭へ切り替わると、炉の火力は飛躍的に上昇した。これに李志りしたちの技術革新が加わり、瑠璃るりの加工精度は「工芸」の域から「芸術」の域へと進化したのである。


 一方、朱全しゅぜんの元へ戻っていた黄花おうかが、大量の注文を抱えて太原たいげんへ舞い戻った。

 事の起こりは麟国りんこくである。秀史しゅうしが持ち帰った切子の美しさは国中を震撼させ、さらに鶯妃おうひが身につけた瑠璃の首飾りが後宮の貴婦人たちの欲望に火をつけたのだ。

 黄花は即座に太原に拠点を築き、巨大な商館『太原花香館たいげんかこうかん』を建設。開店するや否や、各国の商人が雲霞のごとく押し寄せ、太原は未曾有の活況を呈した。


 だが、金が集まれば泥棒も集まる。物流を狙う賊の動きを察知した脩璃は、破玉はぎょくを使って賊を一掃。最後に残ったのが、天然の要塞「梁山泊りょうざんぱく」に陣取る大物・宗興そうこうであった。


 ◇


 脩璃の眼下には、統一された鎧と槍を揃えた屯田兵三千と、正規軍三万が居並んでいた。

「屯田兵にとってはこれが初陣だ。世の者たちに、お前たちの真の力を見せてやれ!」

 脩璃の檄に、兵たちが地を揺らすときの声を上げる。誰より血気盛んなのは将軍・稜厳りょうげんだ。耕作と訓練の日々に飢えていた武人の魂が、今まさに燃え上がっていた。


 二週間の行軍の末、辿り着いた梁山泊は、広大な湖に浮かぶ孤島の城であった。

 この地は河川の氾濫が絶えず、放置された湿地帯となっていた。脩璃の真の目的は、賊の討伐を大義名分とした「大規模治水事業」にある。

「湖を堤防で囲い、水位を上げろ。梁山泊を水攻めにしつつ、下流の氾濫を抑える調整池を造る」

 稜厳率いる屯田兵は、耕作で培った土木能力を遺憾なく発揮した。賊の反撃を封じ込める圧倒的な包囲網の中で、わずか二ヶ月で巨大な堤防が完成した。


 ◇


 梁山泊の頭領・宗興は、額の汗を拭った。当初の情報では兵数百のはずが、現れたのは三万を超える大軍。破玉による情報封鎖が完璧に機能していたのだ。

「親分、あいつら何してやんでしょう?」

 攻めてこず、ただ黙々と土を盛る官軍。二ヶ月後、その意味を悟った時には手遅れだった。

 湖の水位は上昇し、根城は完全に水没。食糧も尽き、部下たちは飢えで次々と倒れていく。


(……これまでか)

 覚悟を決めた宗興は、夜陰に乗じて一艘の小舟で岸へと渡った。


 松明の炎が揺れる本陣。鎧を脱いだ軽装の脩璃が、悠然と椅子に座っていた。

「お初にお目にかかりやす。あっしが梁山泊の宗興という半端者でござんす」

 膝をつく宗興。だが、子供と侮った一瞬の怒りが顔に出た。

 刹那――宗興の左右の首筋に、冷たい鋼の感触が走った。

「動くな」

 松明に照らされた短刀が二本。皮一枚を切り裂き、一筋の血が刃を伝う。背後に立つ影の気配に、宗興は全身の毛穴が逆立つのを感じた。


「宗興とやら、命を捨てに来たのは分かっています。ですが、あなたのその命、私が買い取ると言ったらどうしますか?」

 少年の王は、冷徹なまでの静寂を纏い、動じぬ瞳で宗興を見据えた。

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