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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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宴会の趣向

 脩璃が慌ただしく政務に精を出していた頃、明玉めいぎょくは先王・紫明の喪に服す行事に追われていた。

 この世界では王族の服喪ふくも期間は約二ヶ月。その間、脩璃はまだ婚姻前ということもあり、王権継承の儀式にのみ参加し、残りの時間をすべて国造りの基盤固めに充てることができた。


 ようやく二人がゆっくりと顔を合わせられるようになった、ある日のこと。脩璃の私室で、明玉がふと問いかけた。

「脩璃、何を考え込んでいるの?」

「うん。入国以来バタバタしてたけど、少し落ち着いてきただろう? 自誠じせい万福まんぷくも合流したことだし、ここらで主要な顔ぶれを集めてうたげを開こうかと思って」

 以前の他人行儀さは消え、二人の時は自然と「様」を外して呼ぶようになっていた。

「それは素敵ね。私も賛成だわ!」

 こうして、脩璃主催の親睦会が開催されることとなった。


 ◇


 実は、脩璃には入国以来の不満があった。それは食生活である。麟国よりも物流が乏しい鵬国の食事は、味付けが極めて単調だったのだ。

 だが、万福が麟国から持ち込んだ「醤油」と「味噌」がすべてを変えた。脩璃は万福と共に、鵬国の豊富な小麦と畜産を活かした「新作」の開発に乗り出した。


 目をつけたのは、今までこの世界では「ゴミ」として捨てられていた鶏ガラと豚骨である。

「小麦がある。豚と鶏がいる。……なら、これしかないだろう」

 一週間、試行錯誤の末、ついに満足のいく逸品――「ラーメン」が完成した。


 ◇


 後日、銀盤宮の大広間に、紫苑しおん奉師ほうし華鳳かほう陽明ようめい李志りし稜厳りょうげん相俊そうしゅんら、鵬国を支える重鎮たちが一堂に会した。

 壇上に立った脩璃は、集まった面々を見渡して晴れやかに宣言した。

「皆さんの尽力により、混乱は収まりつつあります。これから本格的に始まる新しい政の主役は、ここにいる皆さんです。今日は、私と万福が考案した新料理を楽しんでください!」


 まず運ばれたのは、大根のかつら剥きに蒸し鶏を添えた前菜。柑橘のドレッシングが効いた未知の味覚に、会場からどよめきが上がる。続いて運ばれたニンニクの香る「鶏の唐揚げ」には、厳格な李志ですら目を見開き、奉師に至っては皿と口の間で箸が残像を描くほどの勢いで食らいついた。

 豚の角煮が運ばれると、肉を愛する稜厳と相俊が奪い合いを始め、華鳳が箸を出す隙もないほどの熱狂ぶりを見せた。


 そして、宴もたけなわ。〆(しめ)のメインディッシュが姿を現した。

 湯気を立てる二種類の器。「鶏ガラの醤油ラーメン」と「豚骨味噌ラーメン」である。

「……なんじゃ、この芳醇な香りは!」

 紫苑が真っ先にスープを一口啜ると、会場に響き渡る声で絶賛した。続いて麺をズルズルと音を立てて啜り始める。それを見た者たちも次々に続き、広場には麺を啜る快い音が鳴り響いた。

 麟国で一度カステラを口にしたことのある明玉も、デザートの再来に目を輝かせ、頬を染めて至福のひとときに浸っていた。


 ◇


 皆が満足した頃合いを見計らい、脩璃は一歩前へ出た。万福が、使い古された「鶏ガラ」と「豚骨」を盆に乗せて現れる。

「皆さんが堪能したスープの正体は、これです」

 会場がざわめいた。今まで価値がないと捨てられてきた骨。

「創意と工夫があれば、ゴミだと思われていた物もこれほど価値あるものに変わります。……鵬国の未来も同じです。過去の常識に囚われず、隠れた価値を発見し、磨き上げる。新しい時代を切り拓くため、どうか私に皆さんの力を貸してください!」


 静寂の後、割れんばかりの拍手が巻き起こった。明玉は脩璃の背中に、亡き父・先王の幻影が重なるのを見て、そっと涙を拭った。


 感動的な空気で終わるかと思われたその時、酔っ払った紫苑じぃじが酒壺を抱えて絡んできた。

「おい小僮わっぱ! ご託はいいから、ひ孫はいつじゃ? わっはっは!」

 一転して会場は爆笑に包まれ、脩璃と明玉は真っ赤になって顔を見合わせるしかなかった。


 ◇


 その夜、銀盤宮の片隅では。

「ズズズッ……うめぇ! 燈、こっちに飛ばすなよ!」

「気にすんな赤! ……青たちにも食わせてやりたかったな」

 隠密部隊「破玉」の面々も、そして警護の信と貫も。

 脩璃がもたらした熱い一杯を啜りながら、鵬国の夜は更けていった。

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