朋(とも)遠方より来るあり
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奉師が大司馬の意外な一面に衝撃を受けていた頃。稜厳は、脩璃に呼び止められていた。
「稜厳。あなたには、屯田兵のさらに『先』の姿についても知っておいてほしいのです」
「……『先』、でございますか?」
先ほど出鼻をくじかれた陽明が、ここぞとばかりに口を開いた。
「脩璃様は『工兵隊』という新たな兵科を創設したいとお考えなのです」
工兵――聞き慣れぬ言葉に首を傾げる稜厳に、脩璃が穏やかに、だが確かな口調で説明を継いだ。
「戦場で城を築き、道を敷設し、川に橋を架ける戦闘支援の専門部隊です。農地を耕すために水路を引き、建物を造る屯田での経験は、そのまま戦場での工作能力に直結します。そして何より、その指揮には極めて高い戦術的視点が必要になる。……稜厳。北狄との実戦で武名を馳せたあなたにこそ、この部隊を任せたいのです」
稜厳は目を見開いた。薛城での謀反以来、罪悪感に苛まれていた自分に、王は「見せしめ」ではなく「信頼」としての重責を与えようとしている。
「……王様の御期待に沿えるよう、粉骨砕身努力いたします!」
震える声で誓う稜厳の肩に、脩璃は優しく手を置いた。
◇
その夜。稜厳が与えられた屋敷に帰宅すると、妻子や家人、そして相俊が固唾を飲んで待ち構えていた。
「兄貴、しっかりしろよ! 王様に何て言われたんだ?」
詰め寄る相俊。家人たちの顔が迫る圧迫感に、稜厳は椅子から転げ落ちそうになりながら、ポツリと漏らした。
「……屯田兵の指揮を、任された」
「とんでん……? 何すかそれ」
稜厳が脩璃の説明を繰り返すと、家人たちは「首を撥ねられなくてよかった」と胸を撫で下ろし、相俊はニヤリと笑った。
「兄貴に百姓仕事ができるんすかねぇ?」
軽口を叩いて立ち去る相俊だったが、その背中には、稜厳に居場所をくれた王への深い感謝が滲んでいた。
◇
一ヶ月後。紫苑の承認を得て正式に募集が始まると、太原には四千名もの志願者が集まった。
「……というわけじゃ。応募者は四千を超えたぞ」
報告する紫苑に、脩璃が笑いかけた。
「上出来だね、じぃじ」
「そうじゃの、小僮」
奉師の「密告」により、二人の間ではこの呼び名が定着していた。
「しかし小僮、お主もあくどいことを考える。没落した貴族の子弟に『家名復活』という餌を与えて取り込むとは。不満を抑えつつ優秀な人材を選別する、見事な計略じゃな」
紫苑の分析に、脩璃は「とぼけても無駄か」と言わんばかりの悪い顔をして見せた。
吉日、練兵場。
めいめいの服装で整列した四千名の前に、脩璃が立った。跪く稜厳に、王は一振りの剣を授ける。
「欧稜厳を官職『屯田校尉』に任じる。その命に逆らう者あらば、この剣をもって誅すべし。稜厳の命は、我が命なり!」
地を揺るがす咆哮。こうして、鵬国の未来を担う新たな軍が動き出した。
◇
銀盤宮に戻った脩璃を待っていたのは、麟国からの予期せぬ来客だった。
謁見の間で伏していた二人の姿を見た瞬間、脩璃の声が裏返った。
「自誠と……万福!?」
「脩璃様、水臭いぜ! 俺らを置いていくなんてよ!」
「そうですよ。僕が作る飯が恋しくなる頃だと思いましてね」
脩璃は玉座から駆け降り、二人の元へ。三人は固く抱き合った。
聞けば、貴族ではない二人は入国手続きに難航したが、鄭図書令の尽力でようやく辿り着いたという。
「自誠、万福。……二人とも、鵬国で採用するよ!」
驚く二人に、脩璃は続けた。
「今日から自誠は『鄭自誠』、万福は『釈万福』だ。名字をあげる」
二人は一瞬茫然とした後、深々と平伏した。
「「脩璃様にお仕えします!」」
奉師の部下となった自誠と、宮廷料理人となった万福。
新しい国造りのピースが、一つ、また一つとはまっていく。




