処断と創生
残酷な描写があります。
脩璃はさらに言葉を継いだ。
「これより、欧稜厳旗下の兵士は一時的に華鳳の指揮下へと編入し、銀盤宮へ移動させる。稜厳、そなたもこれに従え。以上だ」
非情な沙汰に、相俊が食ってかかろうとする。それを制して、脩璃は彼に一通の書状を差し出した。
「相俊。あなたには別途、重大な任務を命じます。この書状を柏陽長城の岳紫苑殿へ届けてほしい。これは欧殿の今後に関わる、極めて大事な役目です。……受けてくれますか?」
稜厳の今後――。その言葉に、相俊の目に光が戻った。脩璃は真剣な眼差しで「悪いようにはしないと約束しましょう」と付け加える。
沈黙の中、稜厳が短く「おい相俊、頼んだぜ」と声をかけた。
「……御意。仰せのままに」
相俊は深く頭を下げ、書状を受け取った。こうして、脩璃たちは反逆者と稜厳を連れ、太原の銀盤宮へと帰還した。
◇
銀盤宮に戻った脩璃は、息つく暇もなく奉師へ反逆者らの審判の準備を命じた。
奉師の仕事は驚異的な速さだった。翌日には全ての書類が整えられていたのである。出陣中、陽明が早馬で逐一取り調べの情報を送っていた連携の賜物だった。
かつて奉師が死を覚悟したあの刑場。今度は脩璃が審判を下す番となった。
引き立てられた大貴族たちは、後ろ手に縛られ、震えながら脩璃の前に座らされた。法務を司る司空が、彼ら一族の死罪を宣告すると、刑場は罵声と泣き声で騒然となった。
脩璃はその喧騒を一喝で静めると、冷徹に、だが慈悲を込めた宣言を下した。
「謀反の主導者は死罪とし、領地と私財を全て没収する。ただし――その一族への死罪は免じ、家名を剥奪するに留める」
「家名の剥奪」とは貴族からの追放を意味する。民と同じく自ら働かねば生きていけないこの処分は、誇り高い貴族には死にも等しい。だが、そこには脩璃の深い配慮が隠されていた。
大太鼓の音が止み、執行人の斧が振り下ろされる。粛々と刑は執行され、謀反の芽は摘み取られた。
◇
刑の執行からわずか一日。奉師は既に、没収した領地を直轄地として管理する官吏と軍を派遣していた。
次に脩璃が着手したのは「産業の創生」だった。
小麦の連作障害を避けるための休耕地を利用し、黄花が見つけ出した「綿花」の栽培を開始。さらに北部では、寒冷地でも育つ「亜麻」の生産を命じた。
脩璃の狙いは、単なる農作物ではなかった。
「麟国が『紙』を制するなら、鵬国は『文房具』を制するべきだ」
草原地帯を持つ鵬国には、筆の材料となる獣毛と、接着剤となる膠が豊富にある。そこに、亜麻の実から絞った油を燃やして作る「煤」を混ぜれば、高品質な「墨」ができる。
麟国で作られる紙に対し、それを書き彩る筆と墨を鵬国が供給する。持続可能なこのエコシステムこそが、民を潤す鍵になると確信していた。
そして、その加工作業の担い手として、没落した元貴族の一族を雇用する計画だ。貧困者救済と労働力の確保を両立させる、合理的な策だった。
◇
さらに脩璃は、未知の産業「ガラス」についても構想を明かした。
玄河で採れる珪砂を高温で溶かして作る透明な器。この世界にはまだ存在しない贅沢品だ。
「どうしてそんなことまでご存知なのですか……」
目を白黒させる奉師に、陽明は苦笑するしかない。しかし、この高度な技術を任せられる責任者が不足していた。
奉師は思案げに顎をさすると、意を決したように切り出した。
「あのぅ~脩璃様ぁ。私に一週間ほど休暇をいただけませんでしょうかぁ。その責任者に心当たりのある御仁がおりましてぇ……。私が直接、口説き落として参ります」
奉師の不敵な笑みに、脩璃は許可を出した。奉師は即座に旅装束に着替え、銀盤宮を飛び出していった。果たして、奉師が連れてくる「逸材」とは誰なのか。
早朝、出かける際には鈴虫の音。帰りには煌々と満月が輝き、ふと道端に目をやると彼岸花が黄色い光を浴びている。
秋ですね。




