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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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戦闘開始

 黒雲が月を覆い、辺りは漆黒の闇に沈んでいた。

 その静寂を縫うように、一人の男が戦場を駆けていく。目指すは丘の奥に鎮座する脩璃の本陣。男が巧みに警備の目を盗み、木々の間を抜けようとしたその刹那、首筋に冷たい鉄の感触が走った。


「何者だ。ここで何をしている」

 背後からの冷徹な問いに、男は両手を上げた。

「待て、俺は敵じゃない! 王様に反乱軍の情報を持ってきたんだ」

「……何のために」

「それは、王様に直接話す……!」

 一触即発の空気が流れる中、闇からぬらりと華鳳かほうが姿を現した。

「もういい、とう。退け」

 華鳳の言葉と共に刃が離れ、背後の気配は一瞬でかき消えた。

「ふぇ~……あんな化け物が王様を守ってんのか。こりゃ兄貴の言う通り、勝てるわけねぇわ」

 男が首の繋がっている幸運に安堵していると、華鳳が鋭い威圧を放った。

「で、お前は何者だ」

「お、俺は……欧稜厳おうりょうげん様の配下、相俊そうしゅんって者でさぁ」


 ◇


 相俊は、屈強な兵士に囲まれた本陣の天幕へと引き立てられた。

 中に入ると、そこには子供と青年の二人が並んで座っていた。相俊は「もし俺が刺客だったらどうするんだ」と華鳳に皮肉を言ったが、脩璃はフフと笑った。

「その心配はありませんよ」

 脩璃が小さく手を打つと、虚空から「破玉」の面々が音もなく現れ、脩璃と陽明を囲んだ。その圧倒的な練度を目の当たりにした相俊は、目の前の「子供」こそが真の王であることを悟り、その場に平伏した。


 相俊は城内の様子を語った後、顔を上げて脩璃に懇願した。

「……王様。どうか、兄貴――欧稜厳様の罪をお許しください。お願いします!」

「あなたと稜厳殿の絆について、詳しく教えてもらえますか?」

 脩璃の問いに、相俊は十五年前の記憶を辿り始めた。


 当時、北狄ほくてきの侵攻により両親を目の前で殺された幼き相俊。絶望の中で彼を救い出したのが、若き日の稜厳だった。以来、相俊は稜厳の軍の中で育ち、実の親よりも長く彼と共に戦場を駆けてきたという。

「俺にとっちゃ、兄貴は親も同然でさ。今までの恩を返せるなら、俺は何だってします。だから……どうか……!」

 地面に額を擦りつけ、肩を震わせる相俊。


 その話を聞いていた脩璃は――冷静ではいられなかった。

 大きな瞳に涙を湛え、鼻水を垂らしながら「グスングスン」と派手に嗚咽を漏らしていたのだ。陽明は「ああ、また始まった……」と半ば呆れ顔になり、華鳳も「坊はこういう話に弱すぎるんだよな」と苦笑しながら頷いた。


 ようやく落ち着きを取り戻した脩璃は、目を腫らしながらも力強く言った。

「相俊さんの話を聞いて、一つ思いついたことがあります。……協力してくれますね?」


 ◇


 翌昼過ぎ。薛城せつじょうの城門が開き、反乱軍が続々と打って出てきた。稜厳を牢に追いやった功名心あふれる若手貴族たちが、全軍を率いて決戦を挑んできたのだ。

 敵の動きを見て、華鳳が鼻で笑った。

「今回の指揮官は素人だな。こっちの陣形を無視して、猪みたいに突っ込んでくるぜ」

「じゃあ、予定通りの作戦でいこうか」

 脩璃の合図と共に、戦いの火蓋が切られた。


 反乱軍の先鋒を担う山賊崩れの荒くれ者たちが、蛮勇を振るって襲いかかる。脩璃の歩兵部隊はあえてそれを受け、戦列を後退させながら丘の方へと敵を誘い込んだ。

「敵が引いたぞ! 追え!」

 勝利を確信した敵指揮官は、後続の歩兵をすべて戦線に投入した。


 敵の密度が限界まで高まった瞬間、脩璃の歩兵が「強固な壁」へと変じた。

 押し留められ、密集した敵兵の頭上に、脩璃の合図で「矢の雨」が降り注いだ。丘の影に潜んでいた千の弓隊による一斉射撃である。

 逃げ場のない敵兵たちは次々と倒れ、戦列は混乱を極めた。

「今だ! 太鼓を鳴らせ!」

 脩璃の歩兵陣が凹形に変化し、敵の両翼を包み込むように圧迫し始める。


 だが、脩璃はあえて敵を完全には包囲しなかった。

 宗円流兵法、――「囲師いしには必ずく」。

 完全に逃げ道を断てば、敵は死に物狂いの「死兵」となり、こちらの被害も増える。あえて逃げ道(闕)を見せることで、敵の戦意を「抵抗」から「逃走」へと向けさせたのだ。


 戦線が伸び、指揮系統が崩壊した隙を突き、千の騎馬隊がくさびのように敵本陣へ突入した。反乱軍の指揮官はなす術もなく討ち取られ、軍は一気に崩壊した。


 この戦場で、相俊は稜厳の兵を率いつつ、戦況を冷静に見極めていた。脩璃の軍とは矛を交えず、隙を見ていち早く兵を引き上げ、城へと戻ったのである。

 こうして、反乱軍は半数近い二千人の死傷者を出し、脩璃の圧倒的な勝利で幕を閉じた。

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