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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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脩璃の初陣

 前国王・鵬紫明ほうしめいの逝去が国中に布告された、その日の夜。銀盤宮は深い喪失感と、新体制への慌ただしさに包まれていた。

 そんな中、密かに一つの「事件」が起こる。


「……明鵠めいこく様……、明鵠様……」

 銀盤宮の地下牢。微かな呼び声に、うなだれていた男が顔を上げた。

「……何者だ。お、お主は、圭角けいかくか!」

「お気づきになられましたか。なんと、おいたわしいお姿……」

 側近であった圭角は、涙を浮かべて牢の格子に縋った。

「ご安心ください。今すぐここからお出しいたします」

 圭角が合図を送ると、背後に控えていた男が手際よく錠前を外した。カチリ、と短い金属音が響き、重い扉が開く。

 圭角に支えられ、明鵠は闇に紛れて牢から忽然と姿を消した――。


 ◇


 同じ頃。脩璃は一日の政務を終え、自室で明玉、陽明、華鳳とお茶を囲んでいた。

「……脩璃様」

 部屋の外から、静かに名を呼ぶ声がする。

破玉はぎょくか。入りなさい」

 脩璃が器を置くと同時に、華鳳の背後に膝立ちの影が現れた。

「その様子だと、無事に『ネズミ』は穴から出たようだね」

「は。一点の疑いも持たず、逃走いたしました」

「よし、そのまま尾行を。泳がせて、仲間をすべて炙り出すんだ」

 承知いたしました、という声と共に影は消えた。陽明が怪訝そうな顔で口を開く。

「さて、明鵠はどれほどの兵を集められるでしょうか。死に体の男に、従う者がいるとは思えませんが……」

 脩璃は隣の明玉を見たが、彼女は少し困ったように首を振った。

「それなら、奉師ほうしに聞いた方が確実だと思います。彼なら、旧勢力の力関係を隅々まで把握していますから」

「そうだね。じゃあ、みんなで相国に会いに行こうか」

 脩璃は軽やかに椅子から立ち上がり、療養中の奉師の部屋へと向かった。


 ◇


 奉師の部屋を訪ねると、彼は脩璃の姿を見るなり慌てて平伏した。

「王のおなりとは露知らず、失礼いたしましたぁ……」

 脩璃はクスクスと笑い、彼の手を取った。

「いいよ、奉師。そんなに畏まらなくて。僕のことは今まで通り呼んでよ。その代わり、僕も君を『奉師』と呼ぶけどね」

「いやぁ~助かりますぅ~。刑場での脩璃様はぁ、まるで亡き父上のようでぇ~、正直ビビりまくっておりましたからぁ~」

 途端に、いつもの「とぼけた奉師」が戻ってきた。その一変ぶりに陽明と華鳳は絶句したが、明玉だけは「いつもの奉師だ」と安心したように微笑んだ。


 だが、陽明が明鵠の脱獄を伝えた瞬間、奉師の空気が一変した。

 とぼけたオーラが消え、底知れぬ智謀の徒としての「ダーク奉師」が顔を出す。

「脩璃様ぁ……動揺されていないところを見るとぉ……」

 奉師はギラリとした眼光を脩璃に向け、ニヤリと口角を上げた。

「仕組みましたねぇ?」

「さあて、何のことかな」

 窓の外を見遣るとぼけた脩璃に、奉師は愉快そうに額を叩いた。

「明鵠はやはりアホウですねぇ。すべて王の手の平の上だとも気づかずに……。集まる兵力は、せいぜい五千といったところでしょう」

「構成は?」

 華鳳の問いに、奉師は即座に答える。

「騎兵千、歩兵三千、残りは周辺の山賊や盗賊をかき集めて千、というところでしょうなぁ」

「正規軍が同調する恐れは?」

 陽明の懸念を、奉師は一蹴した。

「それはありません。軍を統括する大司馬だいしば岳紫苑がくしおん殿は厳格な名臣です。彼がいる限り、軍が逆賊に貸す肩はありません」

 奉師は地図を広げ、太原に近い「せつ」の地を指し示した。

「脩璃様。ここで反乱軍を一気に叩き、旧勢力を一網打尽……。ついでに領内の野盗も掃除するおつもりでしょう? フッフフ、お人使いが荒いことでぇ……」


 ◇


 数週間後。太原の郊外を、明鵠の一団が駆け抜けていた。

「明鵠様、この先のせつ城を拠点としましょう。私の領地ならば安心です」

 逃走を助けた圭角が、酒を勧めながらそそのかす。

「うむ! さすがは圭角だ。儂に従う者がまだこれほどおるとは、頼もしいぞ!」

 明鵠は気を大きくし、各地の豪族へ向けて挙兵のげきを飛ばした。

 圭角のような旧勢力にとって、他国の、しかも子供である脩璃が王に君臨することは我慢ならなかったのだ。自分たちの利権を脅かす「異分子」を排除すべく、時代に取り残された者たちが明鵠のもとへ集まってきた。


 だが、彼らの予測はあまりに甘かった。

 脩璃の基盤は脆弱であり、派兵には数ヶ月を要するだろう――そう高を括っていた彼らの前に、驚くべき速さで「王の軍勢」が現れたのだ。


 軍の先頭に立つのは、黄金の甲冑を纏った少年王・脩璃。

 王自らが軍を率い、民に姿をさらしながら行軍する姿は、かつての鵬国にはなかった光景だった。その威風堂々たる姿に、民は驚き、兵たちの士気はかつてないほどに高まった。


 騎兵二千、歩兵二千、弓兵千。

 五千の精鋭が、反乱軍の立てこもる薛城を瞬く間に包囲した。

「……さて。ネズミ狩りを始めようか」

 城を見上げる脩璃の瞳には、一切の迷いはなかった。

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