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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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新たな鵬国王

 処刑台の上。死を以て責任を果たそうとする奉師と、彼を救おうとする赤の攻防が続いていた。

 その時、明鵠めいこくが自らバチを握り、処刑の合図となる大太鼓を連打した。処刑人がニヤリと笑い、大斧を振りかぶる。

「やらせるか!」

 赤が電光石火の早業で剣を抜き、斧の柄を真っ二つに叩き斬った。呆然とする処刑人を蹴り飛ばすと、赤は奉師の首根っこを掴み、無理やり処刑台の端へと引きずっていく。

 周囲を明鵠の兵たちが包囲する。圧倒的な多勢に、さすがの赤も討ち死にの覚悟を固めた――その時だった。


 地を揺るがす轟音と共に、千のひづめの音が処刑場に響き渡った。

「間に合ったか……!」

 赤の額から、安堵の汗が流れる。最前列で白馬を駆るのは、麟国第五皇子・麟脩璃。陽明の率いる騎馬隊が、風となって戦場に乱入したのだ。


 三日三晩、休むことなく馬を走らせた一団の気迫に、明鵠の歩兵たちは戦意を喪失した。馬上から、脩璃の声が響き渡る。

「私は麟国第五皇子、麟脩璃! 皇帝の命を受け、鵬国へ入婿に参った。道をあけよ!」

 陽明が「封国親書」を高々と掲げると、その四瑞獣の紋章を見た官吏や兵士たちは、一斉に武器を捨てて平伏した。

 逃げ惑う明鵠は、赤の手によって無惨に捕らえられた。

「明鵠を収監せよ。奉師が入っていた、あの牢へな」

 脩璃の冷徹な命令に、獄吏たちが我先に明鵠を引き立てていった。


 ◇


 脩璃は馬を降り、血の色の処刑台へと歩を進めた。

「赤。破玉の者たち。見事な働きだった」

 膝を突く赤たちへ、脩璃は深々と頭を下げた。王が自ら配下に頭を下げる光景に、破玉の精鋭たちは「もったいなきお言葉……」と声を震わせた。

 そして脩璃は、いまだ台の上で両手をついたままの奉師の前にしゃがみ込み、目線を合わせた。

「貴方が、玄相国ですね」


 やせ細った奉師の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。

「……はい。不肖、玄奉師にございます。王よ、お願いがございます。どうか、この私に死罪をお与えください!」

 額を床に叩きつける奉師に、駆けつけた明玉が絶叫した。

「奉師! なぜそんなことを! せっかく新しい夜明けが来たのに!」

「姫様……王として、過去の悪政を裁き、民に正義を示す必要があります。そのためには、相国たる私の首を捧げるのが、最も道理に適っているのです」


 静まり返る処刑場。誰もが奉師の覚悟に言葉を失う中、脩璃の怒号が爆ぜた。

「――この、愚か者が!!」

 その声の鋭さに、軍馬さえもが驚いて跳ねた。脩璃は奉師の肩を掴み、かつて彼の父が放ったのと奇しくも同じ言葉を投げかけた。

「貴方が一生をかけて学んできたものは、その程度のものですか? 命を捨てて『道理』を示すのが学問だというなら、それは文字の奴隷だ!」

 奉師の時が止まった。目の前の少年が、かつての父と重なる。


「大事なのは、これからどうすべきかを考えることだと、僕は親友に教わりました。相国。貴方の命は、死ぬためではなく、この国を民が住みやすい国に作り変えるために使ってください。……僕に、力を貸してくれますか?」


 静寂の後、奉師は子供のように声を上げて泣いた。父に諭され、真の学問を志したあの日のように。

 こうして、鵬国の長き冬は終わりを告げた。


 ◇


 数日後。銀盤宮の一室で、脩璃と明玉は晴れ姿を整えていた。

 危篤の紫明王が「二人の婚礼の姿を見たい」と願ったためである。

 紫明がかつて纏った王の正装に身を包んだ脩璃。体格にはまだ不釣り合いだが、その背負う覚悟は、衣装の重さに勝っていた。

 扉が開く。そこには、煌びやかな花嫁衣装を纏った明玉が立っていた。

「いかがでしょうか、脩璃様」

 頬を赤らめる彼女に、中身は大人の脩璃は微笑んだ。

「綺麗ですよ、明玉。……あ、そうだ。これ、君に返さないと」


 脩璃が取り出したのは、かつて彼女が国を救うために手放した、父の形見の翡翠の櫛だった。

「あ……ああ……!」

 髪にさされた櫛の冷たさに、明玉の目に喜びの涙が溢れる。


 二人の晴れ姿をその目に焼き付けた紫明王は、安心したように満足げな笑みを浮かべ、その三日後、静かに、安らかにその生涯を閉じた。

 おおとりの翼は折れず。新たな王と王妃の手によって、国は再び大空へと羽ばたき始めた。

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