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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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刺客の襲撃

残酷な表現があります。

 国境都市・ぎょうへ向かう街道の只中に、旅人が休息をとる小さな広場がある。以前、明玉が密出国の商隊を探した思い出の場所だ。脩璃の一団も、ここで馬を休めることにした。

 水飲み場に馬を繋ぎ、その場を離れようとした刹那――飼葉かいばを担いだ老人が、ふらりと馬に近づいてきた。

 脩璃はその一挙手一投足に、鋭い違和感を覚える。老人の死角で、左手を腰の剣の鞘に添えた。

 案の定、老人は飼葉の中から隠し持っていた剣を抜き放ち、脩璃の傍らにいた明玉へ向けて一閃を放った。


 だが、脩璃の動きの方が速かった。

 鞘を前方に突き出し、引き絞る。滑り出した柄を右手が捉えた。


 ――宗円流抜刀術「つばめ


 円を描くような軌道で振り下ろされた白刃が、老人の剣を力任せに叩き落とす。直後、背後に控えていた破玉の「とう」が飛び出し、老人を瞬時に組み伏せた。

 それと同時に、休息していた商人たちが一斉に武器を抜き、こちらへ襲いかかってくる。広場にいた旅人は、すべて明鵠めいこくの放った刺客だったのだ。


「フン、待ち伏せか」

 華鳳かほうが猛嵐のごとく踏み込んだ。一閃、二閃。襲いくる刺客を次々と斬り伏せ、返り血を拭うことすらなく剣を納める。

「破玉の者! 周辺に必ず仲間がいるはずだ。我らの位置を完全に秘匿せよ!」

 脩璃の号令とともに、周囲から「ザッ」という風切り音が響く。破玉の面々が残党の追跡に散ったのだ。

 拘束されていた老人は、絶望したように口から血を吐き、自害した。毒を飲んだのだろう。


「脩璃様、失態を……。刺客をこれほど近づけてしまいました」

 燈が膝を突き、謝罪する。

「いや、助かったよ。ありがとう」

 脩璃は労いの言葉をかけるが、その隣で明玉は呆然と立ち尽くしていた。襲撃の恐怖以上に、脩璃が剣を抜いた瞬間の、凛として美しい姿に心を奪われていたのだ。


 ◇


 遺体を調べたが、有用な情報は得られなかった。

「坊、どうする? 暁にはもっと多くの刺客が網を張ってるぜ」

 華鳳の問いに、脩璃は考え込んだ。そこへ、暁の調査を終えた破玉の「青」「藍」「紫」が現れ、跪いた。

「赤の指示により、暁周辺を調査いたしました。敵の警戒網は予想以上に厚くございます」

 三人の報告を聞いた脩璃は、月を仰ぎ、決断を下した。


「……敵はまだ、僕たちの正確な位置を特定できていないはずだ。このまま暁に入れば、飛んで火にいる夏の虫になる。そこで――『影』を走らせよう」

「影、ですか?」

 陽明ようめいが聞き返す。

「囮だよ。僕たちの格好をさせた五人を太原たいげんへ走らせる。敵がそっちに食いついている間に、僕たちは間道を抜け、最短距離で一気に銀盤宮を制圧する」

「しかし脩璃様、それでは護衛が手薄になり、あまりに危険です!」

「時間を浪費すれば、奉師や信の仲間たちの命が危ない。ここは一気に勝負を決めるべきだ」

 脩璃の断固とした意志に、陽明も最後には首を縦に振った。


 ◇


 夜陰に紛れ、五頭の馬が暁の郊外を猛スピードで駆け抜けていった。街道に潜んでいた刺客たちが、その動きを捉える。

「あれだ! 殺す標的は五人、目的地は太原。間違いない、追え!」

 二十名ほどの刺客が馬を飛ばし、五人の背中を追い始める。一時間の追跡の末、刺客の頭目は挟み撃ちを仕掛けようと、別動隊に合図を送った。


 だが、次の瞬間。

 前方の進路を塞いだはずの別動隊十名が、首を失った「死体」となって馬上から転げ落ちた。

「なに……!?」

 頭目が絶叫したときには、自らの背後にいた手下七名の喉元にも、深々と苦無くないが突き刺さっていた。

「あ……っ」

 振り返った頭目の視界に、武官風の青年――「破玉の赤」が剣を振り抜く姿が映る。それが、彼がこの世で最後に見た光景となった。


 ◇


 その惨劇を、小高い丘から冷徹に眺める者がいた。明鵠の懐刀、頭巾の男である。

 彼は去りゆく「五人」が偽物であることを即座に見抜き、本命の行方を追った。そして数時間後、暁の裏道にある古びた小屋に、脩璃たちが身を隠すのを確認した。

 頭巾の男は三十名の精鋭を引き連れ、小屋を包囲した。


「焼き払え」

 冷酷な命令とともに火が放たれ、小屋は瞬く間に紅蓮の炎に包まれた。

 火勢が収まった頃、焼死体を確認しようと男が足を踏み出す。その瞬間、炎の向こう側から苦無が飛来した。

 男は剣でそれを弾き飛ばすが、その先には、剣を手にした華鳳が不敵な笑みを浮かべて立っていた。左右には燈、黄、青、藍。破玉の精鋭が勢揃いしている。


「よう。随分と派手な焚き火だな、隠密さんよ」

 華鳳の挑発に、頭巾の男が低く笑う。

 月下に照らされた暁の郊外。影と陰、最強同士の死闘が、静かに幕を開けた。

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