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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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いざ密出国!

 荒廃した村を後にした明玉たちは、残されたわずかな食糧を手に南へと歩き続けた。それから一週間。三人はようやく、鵬国と麟国の国境に位置する商業都市「ぎょう」に辿り着いた。


「ようやく着いたわ……」

 明玉が小さく息を漏らす。かつて銀盤宮で透き通るような白さを誇った肌は黒く日焼けし、頬には泥がこびりついている。その姿はどこから見ても、貧しい農民の娘そのものだった。

 この「暁」に来たのは、公式な入国が叶わぬ今の彼女にとって、商隊の荷駄に紛れて密出国するしか道がなかったからだ。


「手はず通りに。信、貫。めぼしい商隊を探してきて。私たちはここで合流よ」

 明玉は数枚の銀貨を二人に手渡した。

「「承知しました!」」

 二人は影のように街の雑踏へ消えていった。


 暁は、かつての城塞都市の名残で道が迷路のように入り組んでいる。明玉も不慣れな街を歩き回り、麟国の商隊が集まる広場を見つけ出した。だが、どの商人も麟国から来たばかりで、すぐには戻らぬという。

 不首尾のまま鐘楼の下で合流した三人は、物置の陰で身を寄せ合って夜を明かした。そんな日々が五日続いた。


 六日目の朝。広場に新しい商隊が現れた。明日にも麟国へ帰るという。明玉はすぐさまその商人に接触した。

 汚いなりをした明玉を鼻であしらっていた商人だったが、彼女の「密出国をしたい」という意図を察した途端、強欲な顔に変わった。

「一人、銀貨三百枚だ。払えねえなら余所へ行きな」


 三枚、ではない。三百枚。今の明玉にそんな大金はない。だが、一つだけ「金」に変えられる物があった。父・紫明から贈られた翡翠の櫛。最高級の硬玉で作られた逸品である。

 明玉は葛藤した。だが、形見と故郷を天秤にかけるほど、彼女は幼くはなかった。

「……これで、どう?」

 差し出された翡翠の美しさに、商人の目がぎらりと光った。交渉は成立した。


 鐘楼に戻り、信と貫に報告すると、二人は驚愕した。

「姫様、どうやって工面したんですか。まさか……あの大切にしていた櫛を!?」

 声を荒らげた貫を、信が慌てて制する。

「いいのよ。所詮は櫛だもの。……ただの、物だわ」

 そう言って無理に微笑む明玉の横顔を見て、二人は拳を握りしめ、言葉を飲み込むしかなかった。


 翌朝、三人は商人の指示通り、酸欠になりそうなほど狭い荷駄の奥に押し込まれた。検問の兵士が槍の柄で荷を叩くたび、心臓が止まりそうになる。門を出て三十分。ようやく解放されたときには、三人は埃まみれで汗だくになっていた。


 さらに数日の旅を経て、一行はついに麟国側の国境都市「しょう」へと至る。だが、ここで予想外の事態が起きた。麟国の検問は、鵬国のそれとは比較にならぬほど厳格だったのだ。

 焦った商人は役人の気を逸らそうと饒舌に喋りかけたが、かえってそれが麟国兵の不審を招いた。


「……そこの荷を開けろ。入念にだ」

 兵士の鋭い声。絶体絶命だと悟った瞬間、信が動いた。

「うわあああ!」

 突然、荷の隙間から飛び出した信が、目にも止まらぬ速さで駆け出したのだ。

「逃げたぞ! 追え!」

 兵士たちの注意が信に集中し、一斉に彼を追いかけていく。その隙に、貫が明玉の手を強く引いた。

「今です! 行きましょう!」

 人混みを縫い、二人は必死の思いで検問所を脱した。


「貫! 信はどうなるの! 戻らなきゃ!」

 明玉が震える声で迫る。しかし、貫は彼女の手を離すと、鋼のような意志を宿した瞳で真っ直ぐに明玉を見据えた。

「姫様。姫様の目的は、麟国に入り、国を救う助力を得ること。そのためなら、俺も信も命を捨てる覚悟です。……あいつの覚悟を、無駄にしないでください!」


 明玉は言葉を失った。涙が、日焼けした頬を伝って泥とともに落ちていく。

 友を、家臣を一人失い、それでも彼女は前へ進まねばならなかった。その背負ったものの重さが、今の明玉の唯一の「王女の証」であった。

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