二人との出会い
残酷な描写があります。
鵬国で明玉と奉師が密かに施策を始めて、半年が過ぎた。
明玉は時折、城外へ足を運び、開墾の進捗をその目で確かめていた。
「奉師、今日はこの一帯を見てくるわ」
地図を指差す明玉に、奉師は資料から目を上げずに応えた。
「お気をつけてぇ。そろそろ、鼻の利くバカがちょっかいを出してくる頃ですから。……信と貫は、必ずお連れくださいねぇ」
「わかってるわ。じゃあね!」
颯爽と部屋を出ていく明玉。その足取りには、一国の命運を担う者としての力強さが宿っていた。
宮殿の厩舎では、二人の屈強な青年が栗毛の馬を丹念に手入れしていた。奉師が口にした「信」と「貫」である。彼らと明玉の絆は、二年前の凄惨な事件にまで遡る。
当時、郊外を視察中だった明玉の護衛が、林に潜む一団を捕らえた。それは飢えと重税に耐えかね、国外逃亡を図ろうとした民たちだった。鵬国の法では、無断の国外逃亡は極刑に値する。
引き立てられた十名の民は、ボロをまとい、骨が浮き出るほど痩せ細っていた。明玉は、握りしめた馬鞭が震えるのを止められなかった。
その中で、二人の少年だけがギラついた眼光で明玉を睨みつけていた。一人が隙を突いて明玉に飛びかかろうとし、護衛に組み伏せられる。それを見たもう一人が護衛を突き飛ばし、二人して明玉を人質に取った。
「動くな! 俺たちを逃がさなきゃ、この女の命はないぞ!」
信と名乗った少年の叫びに、護衛たちが剣の柄に手をかける。だが、王女を盾にされては手出しができない。
「……逃げた先で、どうするつもりなの?」
明玉の静かな問いに、信は声を震わせた。
「ここじゃもう、人間として生きていけねえんだよ!」
「だから俺たちは、みんなでこの国を捨てるんだ!」
貫の叫びは、鵬国の歪んだ統治への悲鳴そのものだった。明玉は目を閉じ、力を抜いた。
「……わかったわ。すべては、私たちの不徳。みんなを解放しなさい!」
明玉の峻烈な命令に、護衛たちは困惑しながらも道を空けた。信と貫は驚きつつも、為政者への不信感を拭えぬまま、仲間と共に再びあてなき逃避行へと消えていった。
だが、悲劇は三日後に訪れた。
叔父の明鵠が、明玉を広場へ呼び出したのだ。そこには、後ろ手に縛られ、泥に塗れたあの流民たちが転がされていた。
「明玉! 王女でありながら国法を曲げるとは何事か。国外逃亡の共犯、その罪を骨に刻んでくれる!」
明鵠が合図を送ると、処刑人が斧を振り上げた。
「止めて――!!」
明玉の絶叫も虚しく、一人の首が飛んだ。地獄のような阿鼻叫喚の中、次々と民が物言わぬ肉塊に変えられていく。明鵠はそれを愉悦の表情で眺めていた。
最後に、信と貫の番が来た。明玉は走り出し、斧を構えた兵士を突き飛ばすと、二人を小さな腕で抱きかかえた。
「これ以上は、絶対にさせない!!」
「退け、明玉。国法は絶対だ!」
兵士が再び斧を掲げる。死の刃が振り下ろされる直前、明玉は死に物狂いで叫んだ。
「叔父上! この二人は死罪にできません! 彼らはすでに民ではなく、私の『下僕』です!」
鵬国の法では、王族に従事する者は国命による移動が許される。明玉は窮余の策で、法をこじつけたのだ。
「戯言を! 認めんぞ!」
激昂する明鵠の背後から、ひょうひょうとした声が響いた。
「認めますぅ〜。はい、そこの二人。明玉様の下僕として採用決定〜」
現れたのは奉師だった。
「人材の登用権は相国の私にありますぅ。文句、ありますぅ?」
奉師の悠然とした態度に、明鵠は苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨て、去っていった。
兵が去り、奉師は縄を解かれた信と貫の前に膝を突いた。
「……家族を失った悲しみは、計り知れません。ですが、どうか私に力を貸してくれないか。これ以上、あのような暴君に民を殺させないために」
いつものふざけた口調ではない、奉師の真摯な響き。明玉はその場に泣き崩れるしかなかった。奉師はそっと明玉の頭を撫で、
「姫も、よく戦いましたね」
と、優しくその心を解きほぐした。
◇
現在。馬小屋に現れた明玉に、信と貫が深く頭を下げた。
「姫様、お待ちしておりました。お供いたします!」
「お願いね、二人とも。……さあ、行くわよ!」
かつて絶望に満ちていた二人の瞳には、今や明玉への絶対の忠誠と、国を変える希望が宿っていた。三人の駆る馬が、開墾地へと力強く走り去っていった。
気が付けば書き始めてちょうど1カ月。最初はもっとゆっくり書いて行こうと思いきや、読んでくださる人が徐々に増えてきている事についうれしくなり、なんとかほぼ毎日更新できました。
何ら節目でもありませんが、今後ともお付き合いいただければ嬉しいです。




