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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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国書の正しい使い方

 明玉が麟国からの国書を受け取って数日。麟国の帝都・龍台では不穏な「口封じ」が行われていた。華鳳が捕らえた三人の賊が、廷尉ていいによる拷問の最中に、揃って不審な死を遂げたのである。


 中郎軍の屯所。脩晟しゅうせいと華鳳は、机に広げられた「雲紋鳳凰図」の布を前に、冷徹な視線を交わしていた。

「……大将、聞きましたか。偽銀貨の件で掴まえた奴らが全滅だそうです」

「ふん、この時期にか。敵も相当焦っていると見えるな」

「拷問の最中に誤って死なせた、と。辻褄だけは合わせてありますが、あまりに出来過ぎです」


 脩晟は鳳凰図を指先でなぞった。

「廷尉は『賊の自作』として処理したが、華鳳、お主はどう見る」

「偽物なわけがねえ。鳳凰図にはしょう家の一部しか知らぬ隠し絵柄がいくつかある。こいつは、紛れもなく本物だ」

「なるほどな。……となれば、背後にいるのは相当な大物か。鍾家そのものが深く噛んでいる可能性も捨てきれん」

 二人の武人の間に、重苦しい沈黙が流れる。脩晟は意を決したように華鳳を見据えた。


「華鳳。……いや、華鳳殿。お主を見込んで頼みがある」

「なんだなんだ、改まって」

「お主を中郎軍に籍を置いたまま、脩璃付きの護衛武官に任じたい。俺の直感が言っている……あやつをこのまま野放しにするのは危険すぎる、とな」

 華鳳は一瞬驚いた顔をしたが、脩晟の真剣な眼差しに頷いた。

「分かった。大将の直感、信じるとしようじゃねえか」


 ◇


 同じ頃。北方の銀盤宮では、明玉と相国・玄奉師げんほうしが、執務室で火花(?)を散らしていた。


「いやぁ、それにしてもこの『紙』という代物、便利ですねぇ〜。文化の中心、麟国の面目躍如といったところですぅ〜」

 独特の間延びした口調で喋るのは、鵬国の相国・玄奉師である。二十代半ばの、一見すると涼やかな好青年だが、口を開いた瞬間に周囲の評価が急降下するという特異な人物だ。しかしその実体は、凄まじい権謀術数を駆使し、奸臣・明鵠めいこくから国を守り抜く超一級の食わせ者であった。


「あのねぇ、奉師。今は紙の品質を褒めている場合じゃないでしょ?」

「ですがねぇ、明玉様。既成概念を覆す発明品を創り出すというのは、もはや国力の差なんですよぉ〜」

 のらりくらりとかわす奉師に、明玉は眉を吊り上げた。

「じゃあなによ。あんたにだってできるでしょ、相国なんだから!」

「ハッハッハ! それを言うなら明玉様も同罪でしょうぉ〜。しかし、この脩璃様というお方……本当にこれをお創りになったんでしょうかねぇ?」

「うさん臭いわよね。第一、七歳でしょ。まだ子供じゃない!」

「おやおや、それは明玉様も他人のことは言えませんねぇ〜」

 奉師の笑い声に、明玉のこめかみに青筋が浮かぶ。


 怒りを飲み込み、明玉は国内の治水資料に目を落とした。

「……やはり、この地域に水路を築く必要がありそうだわ。でも、予算が……」

 そう。国の金は明鵠が好き勝手に使い込み、正当な国家事業に回る予算は皆無だった。だが、奉師は不敵な笑みを浮かべた。


「明玉様、ご安心をぉ。今回は、予算をいくらでも『もぎ取って』これますよぉ〜」

「……それは、どういう意味よ!!」

 詰め寄った明玉が奉師の胸倉を掴み、激しく揺さぶる。首を捻挫せんばかりに前後に振られながら、奉師は指差した。


「そ、その手に持っている国書に……書いてある通りですよぉ〜……」

 明玉は慌てて国書を凝視した。そこには――

『――入婿を五年後とする。よろしく準備万端整えるべし』


 ハッとした明玉が顔を上げると、奉師がニヤリと笑った。

「ええ、そうです。麟国の皇子をお迎えするための『準備』ですよ。これを名目にすれば、叔父上も表立って予算を削ることはできません。堤防も、水路も、何もかも『皇子をお迎えするためのインフラ整備』と言い張れば良いのですぅ〜」


 明玉は国書を握りしめ、窓の外を向いて不敵に微笑んだ。

「……あの子が本当に神童かは知らないけれど。その名前、今は骨までしゃぶらせてもらうわよ」

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