再会
なんとか間に合いました!
皇帝・秀邦からの沙汰が下ってから、脩璃は一ヶ月の間、自室で謹慎の日々を送っていた。
その間、彼はただ漫然と過ごしていたわけではない。宇都宮隆としての記憶を総動員し、この世界の現状に即した「統治のあり方」を模索していた。王権による中央集権、あるいは民主的な合議制……歴史の奔流を辿り、どうすればこの地で持続可能な政が可能なのか、比較検討を繰り返していたのである。
一方、秀邦は今回の騒動の「遠因」を作ったもう一人の皇子――脩奏にも、きっちりと落とし前をつけさせようとしていた。
執金吾の捜査により、彼が祠の場所を教えたことが露見。詰問に対し、脩奏は悪びれる様子もなく「吾輩が教えた」と自供した。秀邦は頭を抱え、太子・秀史は天を仰いだ。
「謹慎などさせても、あやつは喜んで研究に没頭するだけでしょう」
秀史の進言により、罰は「最も嫌がること」に決定した。
数日後。秀史から中郎軍への「軍務(事務職)」半年間の出向を命じられた瞬間、脩奏の顔は恐怖に引き攣った。
「脳筋の群れに放り込まれるのだけは、嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫する脩奏の襟首を、背後に立つ三男・脩晟がニヤリと笑って掴み上げる。抵抗虚しく、奇人皇子はそのままずるずると引きずられていった。
◇
都の騒動がようやく落ち着きを見せた頃。謹慎を終えた脩璃は、秀史の執務室へと呼び出された。
「よく来たな、脩璃。随分と清々しい顔をしているじゃないか」
「はい。今後のため、しっかりと自分と向き合うことができました」
迷いの晴れた弟の表情に、秀史は安堵した。
「今日はお前に引き合わせたい者がいる。これからの教育係であり、相談役ともなる男だ。――入ってまいれ!」
扉が開き、一人の青年がしずしずと入室した。
「彼は尚書令・晏応明殿のご子息だ。さあ、挨拶を」
青年は顔を伏せたまま脩璃の前で片膝を突き、凛とした声で告げた。
「ただ今より、脩璃様にお仕えいたします」
聞き覚えのあるその声に、脩璃は堪えきれず青年の手を両手で包み込んだ。
「陽明さん。……これからも、よろしくね」
陽明が顔を上げ、短く、だが力強く「はい!」と答えた。
「それにしても陽明さんも人が悪い。あんなに出会っていたのに、尚書令の息子さんだなんて一言も言わないんだから」
「それはお互い様でございます、脩璃様」
苦笑し合う二人の様子を、秀史は微笑ましく見守っていた。
歓談の最中、陽明がふと思い出したように居住まいを正した。
「……ところで、私も一つ罪を犯しました。その罰をどう償えばよいでしょうか」
「罪? 陽明さんにそんなものありましたっけ?」
「――あの山小屋で、恐れ多くも皇子を打ちました」
申し訳なさそうに項垂れる陽明を見て、脩璃はクスクスと笑い出した。
「兄上。もし、相手が皇子でなかった場合は罪になりますか?」
「いや、正当な諫言であれば罪には問わんな」
「だそうですよ。安心してください、陽明さん。あの時、僕はただの『シュー』でした。皇子を名乗る前の僕を打ったのですから、罪ではありません」
理屈のような、だが優しさに満ちたその答えに、秀史も「なるほど」と膝を打った。
「でも、陽明さん。もし僕がまた道を踏み外そうとしたときは、躊躇わずに諫めてほしい。たとえ、もう一度頬を打つことになっても、ね」
脩璃の真剣な言葉に、陽明は深く瞳を閉じ、次いで強い決意を宿して目を開けた。
「承知いたしました。……では早速。私のことは呼び捨てで願います。『さん』付けは臣下の礼を損なうゆえ、厳禁です!」
「えっ、あ、はい。……すみません」
「それ! その答え方も、即刻改めていただきます!」
陽明の熱血指導(?)に、三人は顔を見合わせて笑い合った。
ひとしきり笑った後、秀史がいたずらっぽくウインクをした。
「脩璃。お前の教育のため、父上が『尚書令の自宅に通って学ぶ』よう手配された。陽明と共に、五年間しっかり政を学んでこい」
脩璃が首を傾げると、陽明が耳元でささやいた。
(……尚書令の屋敷は城外にあります。つまり、正式な許可を得て『外歩き』ができるということです)
「あ……っ!」
ぱっと顔を輝かせる脩璃に、秀史は笑った。
「礼なら父上に申し上げろ。全て、お前の成長を考えられてのことだ」
闇雲に城を抜け出すのではなく、信頼できる供を連れ、堂々と民の暮らしを肌で感じる。それが「五年後」に再建を託される若き王への、秀邦なりの期待であった。




