決意とその先の未来
脩璃は、静寂に包まれた部屋の中央で膝を突いていた。
聞こえるのは己の呼吸音のみ。一時間以上、微動だにせず自らの内面と向き合い続けていた。
その別室では、皇帝・秀邦と太子・秀史が、脩璃への処遇を巡って議論を交わしていた。
「父上、脩璃への沙汰はいかがなさるおつもりですか?」
「……うむ」
秀邦は目を閉じ、重い溜息をついた。
「無断での城外脱出。本来なら厳罰だが、あ奴はまだ七歳だ。これを安易に許せば、皇子の安全を脅かす前例となりかねん。……何より、報告にある『賊の斬首』。七歳の子供がやってのける業ではない。一体、あ奴は何の渦中にいるのだ」
「まあ、そこは父上の血を引いたゆえの『腕白』でしょう」
「……余が悪いと言うのか?」
秀邦のジト目に、秀史は苦笑いで応えた。
そこへ、尚書令・晏応明の拝謁が報じられた。
「応明、火急の用とは何だ?」
「脩璃様が賊を討たれた件にございます。……実は、その場に我が息子・陽明もおりまして」
応明は、陽明から聞いた事の顛末を詳らかに報告した。『通史』の書写、孤児たちとの出会い、そして驚くべき「貧困者救済の施策」。
その高度な統治哲学に、秀邦と秀史は驚愕し、思わず唸り声を上げた。
すべてを話し終えた応明が、静かに頭を下げた。
「陛下、一つ進言がございます。脩璃様への罰――その執行を、五年後に先送りになさいませ」
「……五年後だと? その真意は」
「鵬国への入婿にございます。あの大荒れの国を救えるのは、脩璃様をおいて他におりませぬ」
鵬国。国王は病弱で世継ぎがなく、治安悪化と深刻な不作に喘ぐ隣国。一年ほど前、麟国に「婿」を求める内儀が届いていた。秀邦は四男の脩清(病弱)や、他の息子たちの適性を考えてきたが、いずれも決定打に欠けていた。
だが今、応明の進言を聞き、秀邦の霧が晴れた。
(四書房で見せたあの才知。そして今回の行動力……。あ奴なら、死に体の国すら再建しかねん)
「決まり、ですね。父上」
「……ああ。尚書令、そなたの言葉で決断がついた」
秀邦が力強く頷くと、応明はさらに続けた。
「恐悦至極に存じます。……つきましては、我が息子・陽明。成人し、脩璃様に生涯仕えたいと申しております。あれを、脩璃様の近侍としてお付けください」
「ほう、応明の秘蔵っ子を出すか。……いよいよ、巣立ちの時というわけだな」
◇
再び、静寂の部屋。
秀邦の前に、脩璃が深々と頭を垂れていた。
「脩璃。お前の過ちを、自ら述べよ」
威厳に満ちた父の問いに、脩璃は真っ直ぐに答えた。
「……興味本位で禁を破り、己の力不足を顧みず、結果として守るべき人々を死なせました。そして、怒りに支配され、人を手にかけました」
沈黙が流れる。秀邦は、逃げずに己の罪を認める息子の眼差しを、ただじっと見据えた。
「ならば、その罪をどう償うつもりだ?」
「友・陽明が教えてくれました。今の自分に何ができるかを考えろ、と。……奪った命の重さに、一生をかけて向き合う。そのための道を探し続けたいと思います」
秀邦は、かすかに口角を上げた。
「……ならば、申し渡す。そなたへの処罰は五年の猶予を与える。これより五年間、そなたがいかに成長し、いかなる償いの道を示すか。それを見極めた上で、最後の沙汰を下すものとする」
脩璃は額を床に突き、平伏した。
「ははっ、ありがたき幸せに存じます」
部屋を出た秀邦は、控えていた秀史と応明に向かって、心底嬉しそうに笑った。
「あやつには、いい友ができたようだな。……なぁ、応明」
その頃、脩璃は床に額をつけたまま、宇都宮隆としての決意を新たにしていた。
(執行猶予付きの有罪判決、か。……五年の間に、俺はこの世界の『現実』を変えるシステムを構築してみせる。レンたちの犠牲を、絶対に無駄にはしない)
明日は所用のため更新できません。できれば明後日更新します。あくまでできれば……




