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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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鬼気迫る

残酷な描写があります。ご注意ください。

 翌日、脩璃しゅうりの元に体調を崩した梅花ばいかの代わりとして、見慣れない侍女がやってきた。監視の目が緩んだことをこれ幸いと、脩璃は「四書房へ行く」と言い残し、迷わず城外脱出の地下道へと潜り込んだ。


 西市の通りを歩いていると、店先にいた朱全しゅぜんに呼び止められた。

「これは脩様。今日は何かお探しで?」

「いえ、少し市場の動向を見て回ろうと思いまして」

 そんな当たり障りのない会話を交わしながら店へ入ると、そこには前回と同じく陽明ようめいが座っていた。


「脩君、前回君が言っていた施策を私なりに練り直してみたんだ。少し聞いてもらえるかな?」

 陽明が提示したのは、脩璃の漠然とした案を、現行の法体系や予算規模に合わせて精緻に改良した「実行プラン」だった。

(……驚いたな。俺のアイデアはあくまで現代の知識をなぞっただけだ。だが彼は、この世界の現実に即して、実際に運用できるレベルまで解像度を上げている)

「陽明様、凄いです。僕にはここまで考えられませんでした」

 素直に称賛を送る脩璃に、陽明は照れくさそうに笑った。

「いや、原案は君だ。……脩君、私は君と対等な友人になりたい。どうだろうか?」

 十五歳の将来有望な貴公子が、七歳の子供に深く頭を下げる。脩璃もまた、椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がり、揖礼ゆうれいを返した。


 知己ちきを得た喜びを分かち合った、その直後だった。

 通りの向こうから、肩で息をしながら走ってくる人影が見えた。レンだ。

「――レン!!」

 脩璃の叫びに応えるように、レンが転がるように駆け寄ってきた。


「シュー……すまん。みんなが、あいつらに捕まった……!」

「どういうことだ! 近づくなって言ったじゃないか!!」

 陽明が息を呑むほどの剣幕で、脩璃がレンの肩を掴む。レンは涙を浮かべ、声を振り絞った。

「シューの役に立ちたかったんだ……あいつらが何を運んでるか、もっと詳しく調べようとして……」

 脩璃は言いようのない罪悪感と怒りをグッと飲み込んだ。

「……場所はあの小屋か?」

「ああ」

「行こう!」


 状況を把握しきれない陽明だったが、脩璃の放つ尋常ならざる気迫に押され、反射的に二人の後を追った。


 ◇


 雑木林の小屋の近く。三人が茂みに身を潜め、目にした光景に絶句した。

 小屋の前には、カン、チー、ロン、ドラの四人が折り重なるように倒れていた。粗末な服は、自分たちの返り血でどす黒く染まっている。

 その傍らで、四人の男たちが「汚らわしいゴミでも掃除した」かのような顔で笑いながら、酒を煽っていた。


 その悲惨さに陽明は思わず口を覆ったが、脩璃は目を逸らさなかった。

 その表情は、震えるほどの怒りを湛え、ゾッとするほど冷たく冴えわたっていた。陽明は、凄惨な現場以上に、隣にいる脩璃から放たれる「鬼気」に恐怖を覚えた。


 だが、怒りを抑えられなかったのはレンだった。

「――てめえら、仲間を離しやがれ!!」

 叫びながらレンが物陰から飛び出した。脩璃が制止するよりも早く、レンは男の一人に掴みかかったが、大人との体格差は残酷だった。

「あぁ? なんだ、まだネズミが残ってたか」

 男はレンの髪を掴み、玩具のように吊り上げた。


 これ以上隠れてはいられない。脩璃は物陰から姿を現した。

「そこまでにしろ。その子を離せ」

 七歳の子供の言葉を、男たちは嘲笑で返した。

「なんだぁ、このチビは。いい服着てやがる。礼儀ってもんを教えてやろうか、ええ?」


 男の右手が、懐から何かを取り出し、素早く動いた。

 レンの体が盾になり、脩璃からは何が起きたか見えなかった。だが。

「――あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 レンが絶叫し、その直後、糸が切れた人形のように脱力した。


 男は動かなくなったレンを、脩璃の足元へ投げ捨てた。

 うつ伏せに転がったレン。その背中からは、鮮血が噴き出し、地面を真っ赤に染めていく。


 脩璃の中で、ドクン、と心臓が跳ねた。

 前世の理性が、プツリと音を立てて千切れた。

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