チートと僕のしたいこと
エイタの体に剣が刺さっていくのを、僕はただ見ることしか出来なかった。
エイタが倒れ込む。「あ、ああ……!」
エイタが死んだ……?
「何泣いてんだよ?」
声が聞こえた。その声の主は乙だった。
「死ね」
僕は怒りに任せて顔にパンチを喰らわせた。力で乙が僕に敵わなかった。
そのまま数メートル吹き飛ぶ。
「あんた、救い様のないクズだよ!」
「なんとでもいいやがれ!」乙は再び立ち上がって、衝撃波のような物を放った。まだ動けるのかよ。
「もう、ここからいなくなってくれ」
僕の声は震えていた。
乙に向かって走った。
もう、これでおわりにしよう。
どこからか、そう聞こえた。
そのまま僕は乙に突っ込んでいった。
この拳で!
「お前はぁぁぁ!!!!」
「お前はぁぁぁ!!!!」
乙は衝撃波を出した。
僕は真正面からぶつかる。
一瞬押し返されそうになるものの、僕が競り勝った。そのまま乙に拳をぶつける。
「お前のせいだ」
そう言って、乙は二度と動かなかった。
「エイタ!」
乙の死体など目も暮れず、彼の所へ向かう。
「っ、あ、くそ……」
幸いというべきか、それとも不運か、折れた剣が刺さっていたのは目だった。
「あー、さっきの人だな。多分。目とか全身メチャクチャやられた。情け無いな」
「死なせない。絶対に」
「いや、いいんだ。それより頼みがある」
「なんだ!?なんでも言ってくれ!僕が出来ることなら何でもする!」
「じゃあ、俺を殺してくれないか?」「えっ」僕は絶句した。
「俺はもう駄目だ。だからさ」「嫌だ!!絶対治す!助けてやるから!」
「無理だよ。こんなの」
「うるさい!黙れよ!そんな事言うなよ!そんな、諦めるようなこと言うんじゃないよ!!」
「ごめんな。でも、頼むよ」
そんな事、させない!
僕は『チート能力』を使おうとしたしかし、
『やめて』
「やめろ」
イナとエイタ本人から止められた。
『チートなんてものは、このよにあってはならない。それに』
「多分、君は僕を治せる。だけど
それはしないで欲しい」
「なんでだよ!?」
「俺にはわかるよ。お前は優しい奴だって。だからこそ、ここで終わらせて欲しいんだ」
「ふざけんなよ!僕は貴方に生きていて欲しかったのに!」
涙が止まらなかった。
「ありがとう。本当に。【名も知らない人】」
何よりも、エイタは僕がここにいる事をわからないまま死ぬことが辛かった。
「僕は……ソウタだよ。さよなら」
エイタは微笑むと、静かに息を引き取った。
「あ、ああぁ、うわああああ!!」僕は泣いた。泣き叫んだ。
「ちくしょう……なんで、どうしてこうなるんだよぉおお!!」
***
『おちついた?』
「うん。落ち着きました。もう大丈夫。イナも大変でしょう。僕が弱いばかりに、彼を守れませんでした」
『あなたのせいじゃない』
「いや、僕の責任ですよ。俺がもっと強ければ……!」
『じぶんをせめるのはよくない。あなたはよくやった』
「ありがとう。君のおかげで少し気が楽になったよ」
『とくに、なにもしてない』
「そんなことは無いです。君の言葉がなかったら僕はきっと立ち直れてなかった」
『それと』
「はい?」
『けいごはやめて。うやまわれるみじゃない』
「わかった。イナ」
『そっちのほうがいいや』
「でも、これからどうしよう。外のことなんて全く知らないし」『おなじ。まずはこのせかいのことをしらないとだめかも』
「そうだね……。じゃあとりあえず北の方に向かおうかな」
何もかもが終わり、僕は新たな日常を暮らすことになる。
ーーそんな筈だった。
「うわっ!」
急に地面が揺れ出した。
『じしんだ!』
「マジかよ!早く逃げないと!」
今いるのは研究所の広間のような所。
早く逃げないと死んでしまうかもしれない。
「エイタさん……!ごめん!」
流石に人を背負うのは無理だ。遺体は丁重に弔いたかったが、自分が死んでは元も子もない。
諦めて逃げるしかなかった。
***
「なんでだよ!」
『でぐちが、ふさがれてる……』
既に遅かった。研究所の唯一の出口はもう瓦礫で塞がった後だ。「くそっ!どうにかならないのか!?」
『かんがえてるけど、おもいつかない』
壁を壊すという選択肢は真っ先に除外された。
何故ならこの研究所の壁はとんでもなく硬い。僕では到底破壊できないだろう。
そして、仮にできたとしても、それをする為には相当時間がかかる。
その間に僕らが生き残る可能性は限りなく低い。
「くそっ、こんな所で……」
『…………』
「なあ、イナ」
『なに?』
「ここってさ、どんな世界なんだと思う?」
『わからない。わたしも、はじめてみたから』
「そっか……」
その時だ。
ドォン!!
「えっ!?」
突如天井が崩れ落ちてきた。
ーーいざという時、なぜか人は動けない。
単純に人間の神経の限界なのか?
それとも……
「う、あぁ」
『ばか!なにしてる!』
見かねたイナが僕の体を動かす。
しかしもう遅い。僕は頭上に落ちてくる瓦礫を呆然と眺めていた。
「あっ……」『ソウタ!!』
最後にイナの声が聞こえた。
『おきて……おきてよ……』
イナの声が聞こえたが、体も動かない。
人が死ぬ時、最後まで生きているのは耳だと知った。
ああ、死ぬんだ。
生きてやるって言ってすぐなのに。
そこで意識は完全に途切れた。




