抱きしめられたい抱きしめたい【声劇台本】
抱きしめられたい抱きしめたい
アリス:
博士:
V:
ヨシオ:
くろ:
博士:コミュニケーションとは、個体間の媒体を通した情報伝達手段である。
媒体とは、多くの場合、言語であるが、それが文字なのか、音なのか、
そんな事は問題ではない。
重要なのは、個体間で情報がやり取りされていると言う事である。
くろ:人は、理念の為に争い、血を流し、死んでゆく。
しかし、理念は?
理念は、触れる事も、血を流す事も、抱きしめる事も、キスする事もできない。
どれ程までに想いをささげ、尽くしたところで、理念は報いてくれるのか?
理念の為に血を流し、死んだとしても、果たして理念は、
私たちの為に泣いてくれるだろうか?
ヨシオ:アリス。今日も元気かい?
今日は、何についてお話しようか?
アリス:あら?今日はどうしたの?元気がないみたいだけど…
ヨシオ:気付いたかい?やっぱりアリスはすごいや。なんでもお見通しなんだね。
アリス:私にだったら、話してくれるわよね。
ヨシオ:もちろんだよ。実はね・・・
博士:「アリス」コンピュータープログラムの名前だ。
一定の会話パターンを打ち込まれ、ランダムで再生するこのソフトは、
使用者に、まるで実際に会話してるかのような錯覚を起こさせる
アリス:今日もいっぱいお話したわね。
ヨシオ;アリスには、つい、なんでも話しちゃうからね。
…アリスだけだよ。僕の話をこうして聞いてくれるのは。
アリス:ありがとう。嬉しいわ
博士:永遠に会話しつづけられるこのソフトは、ネットを通して世界中に広まった。
「会話」。疑似体験であったとしても、人々はそれを必要としたのだ。
くろ:テニス・野球・サッカー…別に何でもいい。
一人でも、練習したければどうしたらいい?
適当な壁を見つけて、それに向って投げればいい。
跳ね返ってくる。
返ってきたボールを受け止める。
もう一度投げる。
また、跳ね返ってくる。
また、受け止める。
何度だって繰り返せばいい。一人でだって、テニスも野球もサッカーもできる。
それを、そう認識できるのであれば、それに満足してればいい。
別に誰も咎めはしないし、止めたりもしない。
いつまでだって、好きなだけやっていればいい。
V:忘れるな。忘れるな。11月5日を。火薬陰謀事件を。
その陰謀と反逆をどうして忘れてよいものか?
私たちの愛した理念とは?こんなにもおろかな事だったのか?
偽りの真実など、私は愛する事などできない。
本物の真実の為ならば、私は名前を捨て、漆黒に身を包み、
仮面を被る事もしよう。
崇高なる理念の為ならば、この手を血に染め、犯罪者の汚名を着、
この命をも投げ打とう
忘れるな。忘れるな。例え、痛めつけられ、奪われ、脅されようとも、
けして奪えないものがあるという事を
アリス:Vは誰?
ヨシオ:最近、世間をにぎわしている犯罪者だよ。
アリス:Vは誰?
ヨシオ:ガイ・フォークスの仮面の男だよ。
アリス:Vは誰?
ヨシオ:黒い衣装をまとった…最近、その事ばかりなんだね
くろ:Vは誰?Vは誰?Vは誰?
仮面の男?犯罪者?ガイ・フォークスの生まれ変わり?
只の、勘違い野郎さ。
自分を偉大な革命家と勘違いした、ただのいかれポンチさ。
現実を見れていない、ただの夢想家だ!!ニュースで聞くのはV・V・V!!!
もう、うんざりだ。何処へ行っても同じ言葉。同じ話題。同じ内容。
博士:言葉は人類の発明の中で、最も偉大なものだ。
火の発明より、時間の発見より、道具を使えるようになった事よりも。
言葉があるから、人は過去の業績を蓄える事ができる。
他人に何かを伝える事ができる。
考える事ができるのも、言葉があるおかげだ。
V:言葉に頼るあまり、人は触れる事をやめた。
見る事をしなくなった。
感じる事をあきらめた。
大切なのは、心だ。
言葉は、ただの道具でしかない。道具に振り回されてはいけない。
道具は、道具でしかないのだ。
くろ:いつだって人間は道具に振り回されてきた。
夜の闇を照らしてきたのは火だ。暖かさを与えてくれたのも火だ。
かわりに、薪をくべねばならなくなった。
風に消されぬように見張らなければならなくなった。
核が戦争をなくしたというのなら、核が人を支配してるって事になる。
戦争をしたいのか?
戦争をしなければ、人は本質には近づけないとでも?
やっぱりお前は只の人殺しだ。
ヨシオ:アリス、今日も綺麗だね
アリス:あら、ヨシオ。嬉しいわ
ヨシオ:アリス、今日もかわいいね
アリス:あら、ヨシオ。嬉しいわ
ヨシオ:アリス、今日も…
アリス:あら、ヨシオ。嬉しいわ
ヨシオ:アリス、…
アリス:あら、ヨシオ。今日はなんについて、お話しする?
ヨシオ:アリス…?
アリス:あら、ヨシオ。今日はなんについて、お話しする?
博士:一人だけで狭い部屋の中に閉じ込めておくと、最初は壁に向って話し始める。
次に黙る。
刺激が欲しくなって、自分の体を痛めつけだす。
皮がえぐれ、血が滴り落ちたとしても、やめる事はない。
むしろ、快感を覚えているのかもしれない。
自分が生きているという事を確認できる唯一の手段なのだから。
V:人が生まれてきたことには、意味があるはずだ。
使命があるはずだ。
目的があるはずだ。
人の存在を何故否定する。
人の存在を否定する事で、自分は偉くなったつもりか?
そんなに、自分が大切か?
自分だけしか愛せないのか?
くろ:人は自分しか愛する事なんて、できやしない。
奇麗事を言うつもりなんてないね。
自分だけが可愛いんだ。
誰かの為に死んで、そいつは泣いてくれるかもしれないけど、
その涙なんて嘘っぱちだ
「あぁ、自分が死ぬんじゃなくて良かった」心の中ではそう思っている
誰かの為に?
はぁ、わらわせる
今時、誰かの為になんていう奴は、よっぽどの嘘つきか、
大馬鹿野郎くらいのもんだ
ヨシオ:君の事が好きだよ。アリス
アリス:私もあなたのことが好きよ
ヨシオ:僕にとって、かけがえのない存在だよ。アリス
アリス:私にもかけがえのない存在だわ
ヨシオ:大好きだよ。アリス
アリス:私も大好きよ
ヨシオ:…君の方からは、しゃべって来てくれないんだね
アリス:…今日はなんについて、お話しする?
ヨシオ:アリス?
アリス:あら、ヨシオ。今日はなんについて、お話しする?
ヨシオ:……
アリス:あら?今日はどうしたの?元気がないみたいだけど…
博士:私は考える。だから私は存在する。
私は存在していても、果たして、そこに他人は存在しているのだろうか?
私が、只、夢を見ているだけなのかもしれない。
蝶が、私になったという、夢を見ているだけなのかもしれない
くろ:さぁ!ウサギだ!ウサギがいるぞ!!
時計をもったウサギだ!!
見逃すな!!追いかけろ!!あいつは、すばしっこいぞ!!
ははは
今いるそこが、現実なんて、誰も保障してくれやしないんだ!!
ははは
さぁ、アリス!!不思議の国のお出ましだぁ!!
V:逃げるな
現実から目をそむけるな
自分にだけは嘘はつくな
くろ:あんたは、矛盾してんだよ!!
V:それでも、私は…
博士:ガイ・フォークス。
ガイ・フォークスっと。1605年にイギリスで発覚した火薬陰謀事件の実行責任者。
立派なひげをたくわえた、赤毛の男っと。
くろ:壊してしまいたかったのは?議事堂か?貴族か?体制か?社会か?
それとも、どうしようもない自分か?
理想にちっとも近づけない、おのれか?
逃げてるのは誰だ?
現実から目をそむけているのは誰だ?
自分に嘘をついているのは一体、誰だ!?
奇麗事を言って、いい気になって、責任から逃げ回って、
必死に他人のせいにして、
お前は一体なんなんだ!? 何様だ!?
V:それでも、私は…
ヨシオ:小さい頃、世界の中心は僕なんだと思っていた。
僕は、誰にでもなれた。
正義のヒーローにだってなれたし、
大冒険にだっていけた。
僕は、特別な存在なんだと思っていたし、世界は驚きに満ちていた
博士:世界はいつだって驚きに満ちている。
人が知っている事なんて、世界のほんのわずかでしかない
ほんのわずかしか知らないのに、ついつい私たちはそれが
世界の全てだと勘違いしてしまう。
世界の全てを知ったとなると、
世界はなんとも、つまらないものになってしまう
ヨシオ:綺麗なものが好きだ。
優しいものが好きだ。
強いものが好きだ。
気高いものが好きだ。
好きなものだけ見ていたい。
好きなものに囲まれていたい。
V:自分の周りを、自分の世界を、自分の好きなものだけで埋め尽くす事が
できたとしたら、
それは、きっと、素晴らしい事に違いないのだけれど・・・
でも・・・もしも、自分が押しのけて、捨ててしまったものの中に
今はそう思っていなくても、
自分にとってかけがえなく、何よりも大切になるものがあったとしたら?
自分から、大切なものを捨てるなんて…
博士:人は、望む、望まざるに、かかわらず、かわる。かわってしまう。
どんなに大切だと思えたことも、いつか移りゆき、大切だと思えなくなる。
永遠に固執する事は、愚かだ。
ヨシオ:…このままじゃ、ダメだ。
今のままじゃ、ダメだ。
わかってる。わっかてるんだ・・・
アリス:あら?今日はどうしたの?元気がないみたいだけど…
ヨシオ:・・・ただのプログラムのくせに
アリス:好きよ・・・ヨシオ
ヨシオ:もう、僕に構わないでよ・・・
アリス:あなたが大切よ・・・ヨシオ
ヨシオ:どうして・・・どうして、君は僕を・・・
アリス:今のままの、あなたが、私は大好きよ
ヨシオ:もう、僕に構わないでくれよ・・・
くろ:彼女のことばが信じられないのか?
君の望んだもの、全て与えてくれているのに
ヨシオ:只のプログラムだ!!壁に向って話しているのとかわらない!!
くろ:別に、現実だからって、これと、何か、変わるというのかい?
生身の人間だって、ありきたりな言葉だけを話してるじゃないか?
プログラムと何が違う?
ヨシオ:プログラムと人間は、違う!!
くろ:へぇ?どこが?
V:大切なのは心だ。
ヨシオ:そう。心だ!!人間には心がある。
くろ:現実の人間と、ちゃんと関われないお前が、心と心のつながりを求める。
お笑いだねぇ!!お前には心というものがわかっているのか?
ヨシオ:わからないかもしれない。
それでも、このままじゃ・・・・
くろ:奇麗事はやめにして、お前は一体、何を、望んでいるんだ?
ヨシオ:僕の望み・・・僕の望みは・・・
くろ:君の望み。奇麗事じゃなくて、君が、心から望んでいる事。
君が口にすることをためらっている事を。
ヨシオ:別に、ためらってなど・・・
くろ:ためらっている。君はためらっているさ
ためらっているからこそ、いつも、ふざけた事ばかり言っているんだ
ヨシオ:・・・
くろ:ためらわずに言ってみればいい。
どうせ他人なんて、君の言う事なんて聞いてはいない。
聞いていないんだったら、怖がらなくたっていいじゃないか
言ってみろよ・・・さぁ!・・・君は何を望むんだ!!
V:人は、理念の為に争い、血を流し、死んでゆく。
しかし、理念は?
理念は、触れる事も、血を流す事も、抱きしめる事も、キスする事も・・・
ヨシオ:何にもできないなんて嫌だ!!僕は、触れて欲しい!
抱きしめて欲しい!! キスしたい!!
嫌だよ!!そんなの!!!寂しすぎるじゃないか!!
僕は誰かを感じていたい。誰かとつながっていたい!
誰かに感じてもらいたい!
一人で生きて、一人で死ぬなんて、そんなの、悲しすぎる!!
くろ:・・・なんだ。お前も、結局あいつと同じか。
寂しがりやで、弱虫で、矛盾ばっか抱えてて、
それでも、高望み、ばーっかりの、あいつと同じか
ヨシオ:そうかもしれない。
そうなのかもしれない。
でもあいつは、あいつだって、必死で世界とつながろうと、もがいてただけだ!!
くろ:あ~あ、うぜぇ。うぜぇ。
いい気になった馬鹿が、また一人増えただけか。
・・・あ~お前もういいや。消えてよ。さっさと
アリス:さようなら・・・ヨシオ
ヨシオ:アリス!?
くろ:お前の望みに、彼女はいらないだろう?
くだんねぇ現実って奴で、さっさと、もがいてろ
アリス:さようなら・・・ヨシオ
ヨシオ:まって、行かないで。アリス!!
くろ:さっ・・・行こうか。アリス
アリス:はい・・・マスター
ヨシオ:行かないで!!アリス!! 置いてかないで!! 一人にしないで!! アリス!!
間
博士:コミュニケーションとは、個体間の情報のやり取りを意味する。
重要なのは、個体間で情報がやり取りされてるという事である
V:大切なのは、心だ。
言葉は、只の道具でしかない。道具に振り回されてはいけない。
道具は、道具でしかない
博士:世界の全てを知った時、伝えるべき情報は消滅した。
それでも、人間は「会話」を必要とした
V:誰かに何かを伝えなければならない。
人間には産まれてきた目的があるのだ
自分を愛するのと同じように他人を愛して欲しい
世界とのつながりを感じられるはずだ
ヨシオ:どこいっちゃったんだよぅ・・・・アリス
博士:世界はこんなに素晴らしいのに、なんともくだらない
V:勇気をもって、生きて欲しい。
勇気をもって、一歩を踏み出して欲しい
それがどんなに、恐ろしい事なのかはわかるが、
自分の世界にこもる事はもう、やめにしよう
ヨシオ:一人は嫌だ。一人は嫌だ。一人は嫌だ。・・・・・・・
寂しい。寂しい。寂しい。寂しい。・・・・・・・さびしぃよぉ
一人ぼっちは、やだよ。
だれか、僕を愛して・・・
僕に、ふれて・・・
V:目を開けて、見てごらん。
世界はこんなにも素晴らしい。
アリス:こんにちは。今日はなんについてお話しする?
あなたの、話し、とっても面白いわ。
あら?何を落ち込んでいるの?何か、悲しい事があったの?
アリスにだったら、話し、してくれるわよね。
あなたが好きよ。……だぁいすき!!