出逢い
拙い物語ですがお暇にどうぞ。
「ようこそ。迷子のお嬢さん?宜しければケーキは如何かな?」
優しくて甘くて懐かしくて愛しい味にポロポロと涙がでた。
◇◆◇◆◇◆
気づいたら異世界に召喚されていたなんて最近はよくある話で例のごとく私も気づいたら異世界にいた。
召喚補正なのかなんなのか力は強くなってるし魔法というのが存在していて魔力があるから魔法も使える。
最初森で目が覚めた時は見たことのない生き物がいて死ぬのが怖くて泣きじゃくった。
良い大人でも対して中身なんてそんな成長していない。
環境が大人にさせてるだけで、こんな独りぼっちの世界で泣くのを我慢したって無駄なことだ。
「おーい!ユ・ミ・リ・ア~!!大丈夫かー?」
大声で叫んで来るのは冒険者でこの森に来ていたキールだ。
たぶん年下なんだろうけど日本人は幼く見えるようで妹だと言って世話をやいてくれている。
『大丈夫。ありがとう。』
こっちの言葉は解るけど話すのは難しい。
日本語で話しても通じるのにすらすら喋ろうとすると途端に相手に伝わらない。
簡単な言葉しか変換できないのだろうか?まぁ良いけど。
キールは森で倒れていた私を助けてくれた。
生きる知恵をくれた。
きっとこの人が居なかったら死んでるんだろう。
「ユミリア?大丈夫か?帰ろうか?」
綺麗な黒髪が風に揺れているその瞳は青色で心配で堪らないといった顔をしてくれる。
『ありがとう。大丈夫』
片言でしか伝わらない会話ににこにこしてくれて優しくていつか恩を返したい。
この世界に来て一年私の世界はこの森とキールの家だ。
キールは冒険者の仕事なんて手伝わなくていいと言ってるけどどうせ力と魔力があるなら覚えておいて損はないでしょう?っていうと困ったように戦いかたや魔法を教えてくれるようになった。
「ユミリア?あのな俺ギルドに行かないといけなくて……本当は嫌なんだけど……一年無視してたらここまで来るってあっちも怒り始めちゃってな……1人にするのは心配で心配で死んじゃいそうなんだけど…3日だけ家を開けるから頼んでいいか?」
犬の耳があったらしょぼーんと垂れてそうな顔をしてうるうるとこっちを見つめてくる。
『私のせいで行けなかった?ごめん。わたし、もし仕事邪魔してるならどっか魔力もちが働けるとこ紹介をお願「そんなのダメだ!!!!!」…え?………っ』
私が家にいることで仕事に支障が出てるなら出ていこうと思った。
でもその言葉を発した瞬間ピリピリと肌が裂けそうなぐらいにキールは怒る。私そんな外に出せないぐらい弱いのか?それとももしかしてこの世界の人間じゃないとばれている?…だから面倒を見てくれて……監視されていた………?色んな考えが浮かんで消える。
そしてキールを見つめると私より叫んだ自分に驚いたように呆然としていた。
「ち、違うんだ怒ったのはユミリアにじゃない。出ていくって言われて寂しくて……ユミリアの料理もおはようって言葉も無くなるって思ったら嫌で…一緒にいて欲しいなって…」
言われてキョトンとなる。
もしかしたらキールは家族が欲しくてやっとできた妹のような私が出ていくって言って引き留めたくなったのかもしれない。
ならもうちょいお世話になってもバチは当たらないだろうか?
『キール、ありがとうごめんなさい。一緒に居てくれる?』
「あ、あぁ!!もちろんだ!!」
にっこりと嬉しそうに笑うキールはキラキラしていて好きだ。
「じゃぁ、行ってくるな!本当に大丈夫か?なんかあったらネックレスに願えば俺は来れるからな!もう今日は家から出なくて良いからな!!」
『うん。大丈夫。小さな魔物なら倒せるしこの家は魔物近づけない!大丈夫。』
「そうだな。……ユミリア」
うん?と首を傾げると手をぎゅっと握ってきた。
「帰ってきたら居ないなんてしないよな?」
『……しないよ。私待ってる。』
そうだよなってにかっと笑って頭を撫でて元気にキールは森を出ていった。
『さてと、私何をしよう?』
キールと住むようになってからご飯作りだけでも大変だったのだ。
本当に同じ人間か?ってぐらいにたくさん食べる。
美味しい美味しい言ってくれる姿は嬉しくて凝っていくのだけど。
そうだ、果物を取りに行こう。
最初に落とされた周りには果物があってそれでキールが来るまでの数日は生きていれたのだ。
キールが帰ってくる前にデザート作っとこう。
リックを背負っててくてくと歩いていく。
確かこの辺だよなぁ……と森を進んでいると懐かしい匂いがした。
『……甘いものの匂い?…』
誘われるように道を進んでいくと可愛らしいケーキ屋さんのような建物がある。
初めてキール以外の家を見た。
人も……居るのだろうか?
チリンチリンッ
可愛らしい音を鳴らして扉があく。
「おや?いらっしゃいませ。可愛いお嬢さん。」
扉を開けると金髪に翠の澄んだ瞳を持つお兄さんがたっていた。
執事のような格好をしていて料理を作ってる。
『……ごめんなさい。私お客じゃないんです。果物を取りに行こうとしてたら甘い匂いがして……』
「あぁ、迷子かな?」
目を細めて微笑んでくるお兄さんに首を傾げる。
『え、いや、私帰り道解りますよ?』
「それって君の家かい?」
『……いえ。面倒を見てくれている人の家です。』
そうだ。あの家はキールの家であって私の家ではない。
そう思った途端に迷子なんだなぁと悲しくなってきた。
まぁ、そんな事は些細な事だねと目の前のお兄さんはウインクしてくる。
「ようこそ。迷子のお嬢さん?宜しければケーキは如何かな?」
コトンッとカウンターに置かれたケーキに目を奪われる。
美味しそう美味しそうでもこの世界のお金がわからない。
私は何も知らないのだ。
『ごめんなさい。お金がないの。また機会が有ったらお店に来させて貰いますね?』
頭を下げて店を出ていこうとするとぱしっと手を捕まれる。
「レディからお金を取るなんてしませんよ。それに店じゃなくて趣味でやってるんですよここ。めったに客人なんて来ないんで食べてくれると嬉しいなぁ」
にっこりと微笑まれて頷いてしまう。
ケーキが置かれた席に座る。
フォークをさくといれると甘い果物の匂いがふわりと香ってにやにやが止まらない。
ぱくっと口にいれるとふわりと幸せがみちた。
優しくて甘くて懐かしくて愛しい味にポロポロと涙がでた。
『…っ~おいしい、、、』
「…………紅茶もどうぞ。お嬢さん」
にっこりと笑うお兄さんに涙が出ていることを見られるのが恥ずかしくて涙を拭おうとすると手を止められる。
顔が近づいて来てペロッと舌が涙をすくっていった。
一瞬お兄さんの目が赤く染まった気がする。
『………っ、え、あの』
「…あぁ、なんて。甘美な。」
『…え?』
「…………明日も来てくれますか?ケーキ食べて欲しいんですよ。」
目元にキスしたことには触れずににっこりと笑うお兄さんにどうしようと悩むとにこにことしたまた話し出した。
「あんまり世の中について知らないようだし僕で宜しければ教えて差し上げますよ?」
その言葉に思わず飛び付いてしまった。
それから私はこの不思議なケーキ屋さんに通うのだ。
ありがとうございました。