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自由と停滞


[「で、お前が聞きたいことは何だ?」

「あ、実は先日ですね……。」



私はこの間の訓練時にあったことについて話す。


もちろんイル隊長さんにフルボッコにされた件……ではなく、彼女がラケルの存在について感づいていた、その件である。



「雷光の隊長?……名前は言えるか?」



その表情からどうやらキュミラスさんは名前は分かっているのかというのと、言っていい相手なのかと両方の意味で尋ねているらしい。

結構こういうところ子供相手でもきっちり筋は通すんだよね。流石だ。



「はい。イル隊長さんです。ご存知ですか?」

「ああ。まだ直接話したりしたことはないがな。彼女なら……なるほど。」



どうやら知り合いってわけじゃないみたいだけど、思い当たる節はあるらしい。



「確か、竜人の血をひいている女性だろう?」

「ご存知でしたか。」

「一応はな。特に彼女の場合見た目に現れる程血が濃いから目立つしな。ふむ、古代種の勘だろうか?ん、そうなると…なかなか理屈で説明するのも難しい……。」



あ、キュミラスさんが研究者モードに入っちゃった。目の前に誰かいる時はあまりこーゆーことにはならないっぽいんだけど、珍しいな。

豪快な見た目に反して、キュミラスさんは気遣いのできる大人の男性だ。

だからこそ、目の前に誰かいる状態で考え込んでしまう今の状況はめったに見られない光景なのだ。

こうやってうんうん考えている様子を見ると、ヒューナさんと親子だなぁと、思う。


それにしてもあの傭兵団、上位精霊のルダ様がくっついてる人に、古代種の血と勘を受け継いだ人に、亡国で最強騎士った人に……なんか強くね?むしろ最強じゃね?

まあ、そりゃうちの国も優遇するよね。敵に回したくないわ。


そんな風に考えていると、いつの間にかキュミラスさんが私の方をじっと眺めていることに気づく。な、なんだろう。もう考えはまとまりましたか?



「どうしました?」

「いや……改めて思ったんだが……お前も国とかの型にはめられるより、あの傭兵団とか、うちの娘みたいにある程度自由の利く環境の方が向いてるかも、と思ってな。」



そのキュミラスさんの言葉に、私は一瞬目の前が白くなる。


え、え、え、何、それ。

もしかして……私見捨てられた?


呆然とする私の表情に気づいたのか、キュミラスさんはまたまた珍しく慌てた様子でフォローに入る。



「変な勘違いをするんじゃない。わかりやすい例で言えば、そうだな、ローズなんかも本当は国にじっとしているような器じゃない。時々突拍子もないことをしてくれる。」

「あー……。」



まあ、あの短時間関わっただけでもローズ隊長さんはちょっと型破りというか。そんな印象はあった。

魔導師団の部隊長ではあるが、肉弾戦もいける。思い切りもいい。

なんというか……魔法もできる戦闘民族というか。



「それでも、この国に仕えてくれる。非常にありがたいことだ。」



穏やかな表情で話すキュミラスさん。心からの言葉だということが私にもわかる。




「彼女も、貴族や騎士階級の出身ではない。時には傭兵もしていたと聞く。それ故の自由な発想や思い切りの良さに時に驚かされるのだ。」

「…そうゆうのって、学校だけじゃ中々学ぶ機会無いですよね。」

「ああ。だからこそ、国にじっとしている奴ばかりではだめなのだ。伝統は大事だが、そればかりではいけない。少しずつでも変わっていかなければならない。同じ方法がずっと通用するはずはない。」

「はい。」

「お前やローズなんかは、その辺が優れていると思うんだがな。だからこそ、王都に縛り付けておくのはもったいない気がするのだ。外で色々見て、それを国に持ち帰る。そういう者がいないと国に新しい風は吹かず、停滞し、やがて滅びるだけだ。ウィチードのように。」

「……。」




もしかしたらだけど、私の場合もしかしたら前世の記憶や経験も影響しているのかもしれない。自分じゃよくわからないけれど。

前世で当たり前だと思っていたことが、この世界では全然違うってこともこれまでさんざん経験したから。

まあ、それがこの世界では『新しい発想』ととらえられるのかもしれないけれど。



「役に立てますかね。」

「ふふ、期待しているぞ。どんな国にも終わりはある…が、ウィチードはいい反面教師だ。あれ程の国でも瓦解するのは一瞬だった。それから私たちは学ばねばならん。」



きっとキュミラスさんも、精霊さんたちから色々聞いているに違いない。

まだ詳細は聞けていないが、ルダ様もそういう光景を見ていたはずだ。それこそ誰よりも身近で。




「と言っても、気の早い話だな。上級学校にもまだ入ったばかりのお前には。」

「あ、え、はい。」

「ふふ。とはいえ、卒業前から軍に籍を置く奴もいる。まあ、それに関しては今更だな。」



キュミラスさんの言う通り、上級学校に上がる前から半ば軍属のような子もいる。それこそディアンやメイギス先輩のように。

二人とも元気にしてるかな。上級学校に行きながら騎士団にも行ってるとか、上級学校に上がった今ならわかる。ハードスケジュールすぎ。マジ尊敬するわ。



「で、お前が知りたいのは、竜人についてか?」

「あ、はい。竜人種って流石によくわからなくて。」



私が出会った竜人の血をひく人は二人。

しかも、二人とも純血ではないらしい。


他の種族も純血種は珍しいけど、竜人については聞いたことない。

むしろ、混血の人でも今まで二人って……非常に少ないのだ。



「竜人はな……かつて人間と竜が交わったと言われているが、詳細は不明だ。お前、長い体をして魔力で空を飛ぶ『龍』と、竜騎士達が使役する翼をもつ『竜』がいるのを知っているか?」

「あ、はい。」



知っているも何も……簡単にですが調べましたから。しかも片方については実際に見ましたから。




「竜人がどちらの血をひいているかはわかっていない。身近な竜は翼をもつ『竜』だが、角があったりするのはむしろ魔力で飛ぶ『龍』だ。ブレスについては翼を持つ『竜』については確認されているが、魔力で飛ぶ『龍』についてはよくわかっていない。」

「つまり謎の種族ってことですね。」

「そういうことだ。元々種族としての人口が少ない上に例の人口減少…それ以前より竜人族は……まあ、子供ができにくいという特性があったらしい。」



内容が内容なせいか少しばかり口篭るキュミラスさん。まあ、子供……しかも女の子にはちょっと言いづらいよね。



「イル隊長に会ったから、竜に興味を持ったのか?」

「え、あ、それもあるんですけど、あのですね、卒業前にみんなで町に行った時、龍を……魔力で飛ぶ龍を見たんです。」

「なんだと!それは運がいいな!!」



珍しく目を輝かせてそう叫ぶキュミラスさん。

すぐに彼は照れたように咳ばらいをし、いつもの調子に戻るが目の奥の好奇心は隠せない。


それからやんわりだが、次々と質問を飛ばしてくるキュミラスさんの様子を見ながら、私はやっぱり親子だなぁ…と強く感じるのだった。


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