失われた技術と知識
「結局は、今の魔法技術の殆どはウィチードの頃から進化していない……むしろ退化している。」
苦々しげにそう吐き捨てるのはキュミラスさん。
正直、珍しい姿だ。
……いや、私ごときがキュミラスさんの何を知ってるんだと言われればそれまでなんだけど。
私は今、魔導師団にあるキュミラスさんの執務室……というか、研究室みたいなところに来ている。
最初は私が来ていいのか、とビビリ気味だったけど、お菓子につられました。はい。
奥様お手製というチーズケーキが特に美味しい。お店レベルかそれ以上だわ。
そしてきっとヒューナさんを見る限り、奥様美人だわ。きっと間違いないわ。美人で料理上手の奥様か……うらやましい限りだ…。
……話を戻そう。
まあ、でもそれくらい普段のキュミラスさんは穏やかで、理知的で思慮深く、この人取り乱したり怒ったりすることあるの?と思ってしまう程の人なのだ。
そんな人が非常に険しい顔で愚痴をこぼしているのだ……うーん、やっぱり珍しいと思ってしまう。
「ウィチードの魔道具の話は知っているか?」
「あ、はい。王の秘宝ですよね。」
「ああ。…そうだな、以前は内容が内容だから子供向けじゃないと思って話題には敢えてしなかったのだが……。」
「あー、まぁ……。」
うん、キュミラスさんがそう判断するのも無理はない。
「と言っても、お前の事だからどうせ授業でやった内容以上に調べているだろう?」
「え、なんでわかったんですか?」
「ふっ、お前と会って何年経ったと思ってるんだ。」
全てお見通しと言わんばかりに微笑まれて私はぐっと言葉に詰まる。
おっしゃる通り、授業ではほんの概要にしか触れなかったその『王の秘宝』であるが、私は当然のようにその詳細な内容を後で調べていた。
あれは……去年の頭くらいかな?歴史の授業でちらっと『ウィチードの王の秘宝』について触れる機会があったのだ。
まあ、簡単に先生が説明しただけで、クラスメイト……特に女の子たちはすっごく嫌そうな顔をしていたのを覚えている。
なんたって、強大な魔力を持つ王の肉体を、魔道具として加工するのだから。
「ウィチードの王は、死後その肉体の一部を魔道具として遺す。まあ、現存すると言われているのは一部だがな。」
「ウィチード崩壊の時に壊されたり、持ち去られたんでしたっけ?しっかし、肉体を魔道具にするとか……なんでそんなこと始めたんですかねー。」
「なんでって……ああ、そうか。去年までのお前じゃそれ以上の情報は見れなかったか。」
1人納得しているキュミラスさんの反応から私は即座に理解する。
「資料室ですか。」
「その通りだ。そのあたりの記録は上級学校より先に行かなければ開示されない内容だな。流石に一般に流していい情報ではない。まあ、後で調べてみろ。」
まあ、魔導王国と言われたウィチードの秘宝の資料だもんね。
名前にも秘宝って付いてるし……その割には授業で習う位に存在は知られてるけど……まあ一般人には縁遠いものであるのはいろんな意味で間違いない。
「ウィチード王家は、元々神官の家系だ。おそらく、元となる技術は王家となる前から持っていたのだろう。それを更に発展したのが秘宝を作る技術なんだろうな。」
「なるほど。でもウィチードってがっつり世襲ですよね。」
「そうだ。ずっと同じ一族が王位を独占し続けた。滅亡するその時まで絶えることなく、だ。少なくとも記録にある限りはな。」
「そこが凄い。よく絶えなかったですねー。」
私のむかーしの知識を掘り起してみても、王家は王家でもずっと同じ家系というのは結構少なかった覚えがある。途中その家系が絶えたり、権力闘争で負けて違う一族が台頭したり、王家の血が絶えたので傍系や分家の人間が養子に入ったり…と。
だがウィチードに関してはそうじゃないというのだ。
完全にその一族だけで王位を廻していた。これってすごい事だよね。
しかも、その強力な魔道具の素体となれるほどの人材を何十代にもわたって輩出し続けるという離れ業。
よく途中でポンコツな跡取りが出なかったねー。そこも凄い。
そんな私の疑問にキュミラスさんは、これは私の仮説だが、と前置きしてから言葉を続ける。
「何らかの力が働いていたと考えている。神やそれに準ずるほどの強大な何かの力が。」
「…。」
「精霊からの断片的な情報や残っている記録を継ぎ足すとそうとしか考えられない。まあ、それでも流石に最後のウィチード王……63代目となるその王の力はさほどでもなかったという。」
周辺諸国の連合軍から成る討伐隊に倒された最後の王。
彼は王都陥落後しばらく幽閉の身となり、残った王家の者とともに処刑されたという。
「私はそれを討伐隊の力が突出していたというよりは、ウィチードの力が落ちていたと考えている。個としても、集団としてもだ。おそらくその頃にはその加護が消えかけていたのだろう。」
おお、キュミラスさんがいつもより饒舌だ。
「まあ、それでも60代目の王カーナーは十大秘宝に数えられる秘宝を遺している。しかし、彼の前の王はしばらくほどんど功績も無く、魔道具もパっとしない王が続いている。きっとその頃には……。」
そればかりか、非常にノリノリである。
……意外とキュミラスさん、オタク気質なのだろうか。出会って六年目にして判明した衝撃の事実である。
「しかし、そんな時代の魔法技術でさえ、今より高度なのだ。特に魔道具の技術に関しては、な。尤も当時は今よりずっと思い切ったことができたというのもあるかもしれんが。」
「まあ、確かに今肉体の一部を魔道具にするなんて、色々無理がありますよね。技術的にも、人道的にも。」
「その通りだ。」
満足そうな顔のキュミラスさん。
まあ、私も色々疑問点がすっきりして嬉しいです。
しかし、これ、あまり大っぴらに言えない仮説だよね。
伝説の勇者と言っても過言ではないウィチード討伐隊の皆さんが凄まじく強い訳じゃなかったかも!とか。
だからキュミラスさんもこんな二人きりの時に話すんだろうけど。
私はそんなことを思いながら、残りのお茶を飲み干す。
結構な時間が経っているはずのそれは、魔道具のおかげでまだちょうどよい熱さを保っていた。




