体中が痛む理由
イル隊長さんに文字通りフルボッコにされて数日。
「…あ、あった、インリス王国建国の…いてて…。」
手に取った本の重みで右腕がじんわりと痛む。もちろん先日やられた怪我のせい+筋肉痛の痛みである。
え?回復魔法使えばいいじゃんって?
うん、そりゃ当然回復魔法を使えば、もっと怪我からの回復は早い。
だけど、よほどの重症じゃない限り、この学校では怪我をしたとき回復魔法を使わないことを推奨されている。
これは別に根性論などではなく、ちゃんとした理由がある。
回復魔法ばかりに頼ることなく、ちゃんと自分の体が本来持つ回復機能を使えるようにするためだ。
通常自分の体が持つ自己治癒力はもちろん、それを高める魔力の巡らせ方を学ぶのだ。
その魔力の巡らせ方というのもある意味、自己強化魔法の一つである。
強化魔法は自分の魔力を体に巡らせる魔法だから、一般的に詠唱無しでできる唯一の魔法である。
つまり魔力自体が枯渇したとかじゃなきゃ、常に使える魔法なのだ。イコール、上達すればするほど戦いや生活が楽になる。
というわけで、私は数日間このしんどい状態で過ごすわけですよ。あはは。
……まあ、というわけで、鈍く痛む手をかばうように、私はゆっくりとページを捲った。
「へえ、インリスってクルーヴより少し後に建国してるんだ……。」
知らんかった。
あたりまえだけど、他国の歴史は自国の歴史より詳しくは習わない。
そして調べる手段は、前世よりずっと少ない。
…便利だったな、前は。それこそ過ぎる程に。
「インリスは、マンドル女王国が元となり建国された国…。」
マンドル…やべえ、あんまり覚えてない。どういった国だったかな。世界史で習ったとは思うんだけど。
ウィチードを打倒した数か国から成る連合軍の中にも確か名前があった……はず。まあ、それは後で調べよう。
「ふむふむ…。」
最近は歴史書にまたハマっています。しかし、以前とは動機が異なっている。
昔は、突然転生させられたこの世界について色々知りたいという、ある意味生きるためで必要な知識を仕入れるためだったけど、最近のは単純な好奇心です。
いやー、私もしかしてそーゆー職業に向いてるんじゃね?研究とか、発掘とか、調査とか。
あ、でもヒューナさんを見てるとああいう職業の人もある程度の戦闘力を求められるっぽいんだよねぇ…。
やっぱりもっと戦闘訓練にも力を入れなきゃダメかぁ。
そんなことを考えながら目をつむると、私の脳裏には先日の訓練の光景が浮かんでくる。
アルフェ様が私を裏切った、あの訓練ですよ。この体が痛い原因ですよ。
「ん?あんた……面白い魔力の流れしてるね。」
イル隊長さん。
アルフェ様や、カナハさんと同じく一個中隊をあずかる隊長さんとのことだった。
キリッとした美人さんではあるが、私を眺めるその眼はまるで子供のようにキラキラと輝いていた。好奇心で。
なんか、ローズ隊長さんといい、イル隊長さんといい…、なんなんだろうね!!強烈な赤毛の美女に縁のある時期なんだろうかね!!まさか連続で遭遇するとは思わなかった。濃い。
それにしても、ラケルの乗っかってる左肩について指摘された時は肝が冷えた。マジで何者なんだろう。
同級生や先生方にも今まで指摘されたことなんてなかったのに。いったい何に違和感を持ったんだろう。単純な魔力云々じゃなさそうだ。
「あれ、この人私の気配感じてるのかなぁ。」
すごーい、とのんきに私の肩に座りながら手をパチパチと叩くラケルだけどさぁ……お前、他人事だけど私今結構なピンチなんだぞ。
お前の存在バレかけてるんだぞ!!
精霊連れてるなんて、私だってカナハさん以外見たことないから珍しいのは確実だ!!
…そういえば、ルダ様についてはどうなんだろう…まさか気づいてるのかな…、って今はそんなことを暢気に考えてる状況じゃない!!!
そんなことを考えながらソワソワする私に対し、イル隊長さんは容赦なく攻撃を加えてくる。笑いながら。
怖い、この人。
しかし、その一撃はラケルの助言で何とか躱すことができた。
そして、いきなり剣を打ち込まれてビビってる私にイル隊長さんは休まず剣を振り下ろし続ける。うわ、速度も凄いけど、一撃が重い!!
「ほら、剣そのものだけ見るな!私の腕の動き、体全体の動きを見ろ!!」
「くっ、」
手加減はしてくれているんだろう。何とか目で追える程度の速度だから。
だけど、それに体が反応できているかと言えば答えはノーだ。
振り下ろされた剣をなんとか受けたものの、やっぱり凄い力だ。腕がビーンとする。
かと思えば、すぐさま横なぎ。あ、ヤベ。
「あだっ、」
「ダメだよ!こーゆー時の為の強化魔法だろ!」
確かにおっしゃる通りだけど、魔力の集束が間に合わないよー!!
普通に痛い!!わき腹が!!折れちゃいないだろうけど、内出血は確実にしているだろう。
「無駄にあちこち固めろとは言わん!だが、自分の体だろ!瞬時に魔力を移動させるくらいできなきゃだめだ!」
「は、はい!!」
「ほら、こっちも!!」
ひいい!この分だと絶対容赦はしてくれないだろう!!目を見りゃわかる!!!
私は唇を噛みしめ、彼女の四肢の動き、魔力の動きに集中する。
(あ、右上、かな?)
先ほど言われた通り、強化魔法と防御魔法を素早く移動させ、私は身を護る。
……実は、ラケルからも少し指示が入っていたりする。意外とその指示が的確で、私は内心驚いていた。
「お、防いだね!!でもほらほら、防戦だけじゃどうにもならないぞ!!」
「と、言っても…。」
息の上がっている私に対し、イル隊長さんは余裕の表情。
そして大声で指示を出しつつ、手加減しながら攻撃を加えつつ、それでいて私を誘導している。
まあ、レベルが違うってヤツですな。
まっとうな方法ではまず一撃入れるのも難しい。
さて、どうしたものか…。
私はしばらく考えたのち、剣に炎の魔法を纏わせ、右上から袈裟切りにする。
しかし、軽く剣で払われ、あしらわれてしまう。
「なんだ!そのしょぼい攻撃は!!遠慮はいらんって!!!」
「くっ!!」
こりゃ、納得する攻撃をできないと解放してもらえないヤツだ。
私は、ラケルの指示に従い、左半身の強化を固めると、右腕にも魔力を集める。
「むっ!」
「てりゃ!!」
地面を擦るような位置から剣を振り上げるが、軽く躱される。空中に砂塵が舞った。
少し顔をしかめるイル隊長。
だけど、狙いはそっちじゃない。
「水よ、土よ、混じり合い、解け合え。」
「えー、なに言ってるの、サラったら…。」
…こいつらの野次にももう慣れたわ。
小声で適当に詠唱しているふりをして、私は魔法を発動させる。
「!!」
「はっ!!」
この訓練所は屋外だ。
そして足元は特に舗装されていない。
土を固めただけなのだ。
「お、サラちゃん、やるね。」
私を見捨てた()人の声が聞こえて一瞬イラっとしたけど、それは後回しだ。
私は、足元を泥に取られてわずかによろけたイル隊長さんの方へ溜めていた本命の魔法を放つ。
「貫け、炎の矢!」
一応、私が一番得意とするのは火の魔法である。
この炎の矢はその中でも一番速度が出る。
そして、私の放つこの魔法は、速度も威力も先生のお墨付きだ。
私自身も目で追うのが困難なくらいのスピードで、魔法は一直線にイル隊長さんへ向かって行く。
これで少しは……。
「…ガァァァッ!!!」
バシィィィン!!!
直後に聞こえた、咆哮のような音と、何かがはじける音。
耳をつんざくような激しいその音に、私は眉間に皺を寄せる。
そして、同時に悟ったのだ。
ブクマ・評価ありがとうございます。
暑くなってきましたが、頑張りましょう!!




