命の重み
「有名な人なんですね。」
「有名も有名。超有名。昔に比べると女性の軍人も多いけどさ、それでもまだ流石に女性の将軍は少ないからね。」
つまり、とんでもなく有能ってことか。
「そして普通に強い。前、撤退戦でちらっと見たことあるけど………よく逃げ切れたと自分をほめてやりたい。」
珍しくしかめっ面で、吐き出すようにアルフェ様がそう語る。どうやらお世辞じゃないみたいだ。
ていうか、対戦したことがあるのか。
真正面から激突したわけではないみたいだけど、それでもヤバさを感じるって…。
「……本当に、よく無事だった。」
「まあ、あの森にいたってことは、斥候部隊か何かの可能性が高いだろうから、あの女将軍が近くにいた可能性は低いけど、ね。」
石膏…じゃなくて、斥候……えーっと、敵の動向を探ったりする偵察部隊ってやつか。
忍者みたいなもん?わからん。
「森でなんかの調査してたんですかねぇ。ちなみに、モーリスさんは知らない人ですか?」
「知らないな。流石にトップと二番手の名前は知ってても他の士官の名前までは中々な。」
そこはやっぱりあっさりと断言される。
まあ、そうだよね。年齢からしたら士官どころか一兵卒かもしれないし。
大体、斥候部隊だとしたら、余計そういう情報は広まらないだろうし。
……あれ、でもそれなら、何故私に名前を名乗ってくれたんだろう。
顔を隠すわけでもなく……口封じをするわけでもなく。
……口封じ……。
「ん、サラちゃんどうしたの、黙り込んで……もしかして、今更怖くなっちゃった?」
「…はい。」
「ははは、落ち着いてるようでも、まだ子供だね、サラちゃん。」
アルフェ様が揶揄うように笑いかけてくる。くそ。
腹立つなぁ。しょうがないじゃん!改めて考えたら怖くなってきたんだよ!!
「そーですよ。子供ですー。」
開き直ってやる。ちきしょうめ。
中身含めたら、あんたらより年上なんだぞ!!その分成長しているかどうかは物凄く疑問だが。
「そーそ。子供は子供らしく。それでいいんだよ。」
「……だな。」
「でも、そう言うお二人だって私くらいの頃から傭兵団にいたんじゃないんですか?」
いろんな話を聞く限り、彼らはかなり昔から傭兵団にいたみたいだし。
そんな私の質問に、二人は顔を見合わせると、揃って苦笑いをする。
「俺らの場合は、まあ、やむを得ないというか。」
「……流石に入団直後は後方支援が主だ。」
あ、そうなのか。でも、後方支援って無茶苦茶大事だよね。
物資の用意や振り分け、または怪我人の収容や治療。やることはすごくいっぱいある。
いくら軍隊が強くとも、後方支援が上手くいかないと普通に負けることだって多いとかつて習った覚えがある。
「俺もカナハも、他に行く場所もなかったしな。」
そうつぶやくと、アルフェ様は紅茶を一口飲んだ。
あれ、そういえばアルフェ様はどうして傭兵団に入ったんだろう。カナハさんについては前ルダ様から簡単には聞いたけど。
私のそんな疑問が伝わったのか、アルフェ様は目を少し見開くと、あごを擦りながらうーん、と唸り始めた。
「俺もカナハも、リレグラの出身だけど、まあ、二人とも故郷を出ざるを得なくてな。あ、うちの傭兵団、昔はリレグラに近い地域を中心にして動いてたからさ。」
そう言えば、リレグラに滅ぼされた国の出身なんだっけ、団長さん。
「自分から入団を希望したんですか?」
「そ。俺は、とにかく家を出たくて。」
「…家出少年?」
「あはは、まー、そういうことかな。」
ん、なんか煮え切らない答え。
まあ、でも、これ以上追求はやめておこう。色々事情があるだろうし。
言葉を濁したことからも、あまり触れられたくはないのだろう。
「だからさ、ガキのうちから戦場になんて行くべきじゃないんだ。本来なら。」
私の頭を撫でながらアルフェ様がそう言えば、レヌールさんもその意見に同意する。
「そうかもね。しかもそれだけじゃなく、一部の大人なんかは、責任すら子供に押し付ける……彼女もそうだし、もう一人の女性の将軍さんなんかは、それこそあなたたちと同世代でしょ?この国だって、ベルセバルダ将軍とかね。」
「ああ。しかもそんな状態でガンガン前線に立たせた。その結果が飛翔騎士団のアレだ。」
「……アレって?」
「聞いたことないか?前の戦争で飛翔騎士団の副団長は二人死んでいる。短期間で。」
あ、そういえば聞いたことある。
「あ、はい。飛翔騎士団は特に死亡率が高いって聞いたことがあります。前の副団長さんが、命がけでリレグラ王を倒したって話も昔聞きました。」
「美談みたいに語られていただろう?ハッ、とんでもねぇ…その死んだ副団長はまだ18やそこらの女の子だったんだぞ?しかも副団長になってからまだ日の浅い。」
「!!!」
「その二年前くらいに、前の副団長も若くして死んでるしな。おかげでベルセバルダ将軍についたあだ名が、『死神』だぞ。子供に付けるあだ名じゃねえよ。あの人だって、まだその時16くらいだぞ。」
アルフェ様が珍しく感情をむき出しにしている。
まあ、いくら人材不足とはいえ、20歳にもならない人間にさせることじゃないか。
「いくら英雄扱いされてもさ、死んだら意味ねえよ。」
「アルフェ。」
「……悪い、熱くなった。」
自分を落ち着かせるように、残った紅茶を飲み干すアルフェ様を、私はただじっと見つめることしかできなかった。




