さよならの時間
そんなこんなで、日々は穏やかに過ぎ、ついに私達にも卒業の日が近づいてきた。
私は当初の予定どおり上級魔術学校へ。
クラスの友人たちも、皆それぞれの進路に向かって進み始めている。
あー、長かったようで、振り返ると短かった。
最後の一年になっても大きな環境の変化は無かったから、このままの日々が続くような気すらしていたけれど、寮の自室の荷物を整理し始めたり、卒業の式典の準備が進むのを見ると改めて実感する。
確実に終わりの日は近づいているのだ。
いや、まだ一緒に学ぶ子はいるよ?
でも、実家に戻る子も結構いるんだ。
家業を継ぐ予定の子は、ルカちゃんのように家業のために学べるところまで学ぶ子と、ある程度の技能を身に付けたらもう家に戻る子がいる。
そう考えると、私なんて自由がある方なんだよね。
今年の夏に帰った時、両親からは『やりたいところまでとことんやれ』というありがたいお言葉を頂きましたから。
「手紙、書くね。」
「うん……うん。」
エニーデちゃんが泣きながらデボラちゃんの手を握っている。
デボラちゃんは実家の呉服屋さんを手伝うため、上級学校には通わずに、実家に戻るのだ。
「ポーツエンに来ることがあったら、寄って行ってね。」
「うん。」
「お店の名前と場所、あとで教えて!!絶対行く!」
クラスの皆も涙目だ。
デボラちゃんの地元、ポーツエンは王都から結構離れているからなぁ。
仲の良かったエニーデちゃんはもうボロ泣きだ。
「私達もあと三年あるけど…今までを振り返ると、すごく短く感じそうな気がする。」
「うん。」
「同じ上級学校でも、今までとは違って皆に会える機会も減るだろうしなぁ。」
「だろーね。」
上級学校は、基本的に単位制なのだ。
各々がやりたいこと、必要なことを選択して授業を受けるので、目指すものが違えばどうしても一緒になる機会は少なくなる。
そう言えば、私の遠い記憶にある十代前半くらいの女の子って、それこそトイレに行くのも一緒!!!みたいな事をやっていた子がそれなりにいた覚えがあるけれども、こっちの子達は基本それ無いわ。
前々から思っていたけれど、皆自立心が結構強い。大人し目な子でも、その辺は結構しっかりしているのだ。
「グレッチェンちゃんは、特に忙しいそうだよねぇ。」
「まー、でも自分で選んだことだからねー。」
冷静で、頭も運動神経もいいグレッチェンちゃんは、上級魔術学校に通いながら騎士団にも仮所属するというちょっと変わった進路を選んだのだ。
でも、彼女ならうまくやれるだろう。根拠はないけど、断言はできる。信頼というやつだ。
「あ、そうだそうだ……ねえサラ、最後に聞いていい?」
「ん?なに?」
「見つかった?」
それだけで私も理解する。
ああ、最後まで鋭い女、グレッチェンちゃんだ。
本当に、グレッチェンちゃんの観察眼には驚かされた学生生活だったなぁ。
「まだ曖昧っちゃぁ、曖昧なんだけど、」
「うん。」
「魔物とか、魔獣の調査をしたいって。あとは、かつての戦いの痕跡や古代文明の遺跡とかも見てみたい。」
「あー、サラ、歴史も好きなんだっけ。」
「うん。興味持ったことについて、色々調べてみるのも好き。」
前世の事を置いておいても、私はこの数年で色々な経験をさせてもらった。
時には命の危険!みたいなことを感じることもあったけど、どこかで好奇心を抑えられない自分がいることにも気づいたのだ。
傭兵団の人との出会いに、魔人の痕跡から、まさかの忘れられた神殿跡の発見、実習で行くような森にまさかのかつての魔人の痕跡、そして珍しい龍の目撃……。
うん、挙げだしたらキリがないね。
そしてまだまだ調べたりない。
正直、精霊さんについてはいまだに謎の存在ということしかわからないし、龍についての調査もまだまだ中途半端だ。
古代文明なんかは驚かされることばかりだし、種族についてもまだまだ知りたいことがある。
「そーゆーことか。あれだけ迷ってたサラが、今年になっていきなり気合入ったように見えたからさー。」
「サラ、優柔不断だもんねー。」
「えー、酷い!カリナちゃん!」
「事実でしょー?でも、ぴったりだと思うよ。足使って調査して、そこから色々調べるの。意外とじっとしてられないよね。サラって。」
「うんうん、私もそう思う。実習とか終えるたびに図書館に入り浸るでしょ?うん、ぴったり!」
そ、そんな風に思われてたのか?しかし、改めて自分の行動を思い起こしてみると、否定できないのが辛い。
だって、気になったものを放置するともっと気になるんだもん!それこそ眠れないほどに!!
「あちこち行くなら、冒険者の方がいいかもね。あ、その場合シュノーブルに来たらうちに泊まっていってね!!!」
少しだけ目を潤ませながらも宣伝を忘れないルカちゃん。実にしっかりしてらっしゃる。
カリナちゃんも隣でケラケラと笑っている。
グレッチェンちゃんはまるで母親のような視線で私を眺め、ルゥナちゃんはため息をつきながらも笑っている。
本当に、本当に私は今回もいい友達に恵まれたなぁ。
だけど、もう数日でお別れなんだよなぁ。
あらためてそう考えると、自然と涙が浮かんでくる。
そしてそれは皆も一緒だったようで、私たちは誰からともなくお互いグッと抱き合うと、堰をきったようにわんわんと泣き出してしまった。
ああ、いつもクールなメメリアちゃん、グレッチェンちゃん、そしてルゥナちゃんまで泣いている。
それを見た瞬間、更に涙がこみあげてくる。
皆と同じように涙を流しながら、私はこのクラスで本当に良かったと、改めて思ったのだった。




