竜?龍?
呆然と空を見上げる私たちの視線の先には、ぬるりというか、にょろりというか。
まあ、そんなフォルムをした生物が悠然と空を飛んでいた。
「え、なに?あれ。」
「へび?」
「で、でも足あるっぽいよ…?」
皆が呆然とそんな感想を口にする中、私は内心妙に動揺していた。
だって、あれ、見たことある。
まあ、実際にじゃないけど、絵とかで。
「ああ、竜だねえ。」
「へ?あれが?」
と、そこで近くでアイスを食べていたおばさんがそう教えてくれる。
竜。うん。竜。
やっぱりね、と一人納得した私だけど、皆はそうじゃなかったらしい。
「うっそ。だって、あんな…。」
「あんたたちが言ってる竜って、竜騎士とかが乗ってるアレだろ?」
「え、はい。」
「それとはまた別の竜だよ。人里離れた所に住んでいて、人の前にはめったに姿を現さない魔物だよ。人間に感心がないから危害を加えてくることは無いみたいだけどね。」
まあ、逆に手懐けることもできないとも聞いたことがあるけど、とおばさんは苦笑いしながらそう告げた。
私はもう一度空を見上げ、その姿を視界に捉える。
まあ、竜というより、龍だね。
遠目ながら、鱗が陽の光をキラリ、と反射するのが見える。
今空に浮かんでいるのは、それこそ『まんが日●昔ばなし』とか『ドラゴ●ボールの神龍』とか、ああいう見た目をしている『龍』だ。やたら長い。
ちなみに竜騎士さんが乗るのは騎竜と呼ばれる竜だ。胴が短くがっしりしていて、今見ているのとは全然違う。
たぶん明確に別種なんだけどね。なんで両方『竜』なんだろう。
どっちもトカゲっぽいから?わからん。
「…でもそんな竜がなんでこんな町の上に?」
「さぁ?それは知らないね。竜に聞かないと。ただ、昔から一定の期間が経つとああやって移動する生物なんだとか。私も詳しくは知らないけど。」
「へえ…。」
「お、なかなか立派な竜だぁ!」
ざわつく周囲の様子などなんのその。マイペースに龍を興味深そうに観察しているラケル。こら、人の髪を鷲掴みするな。周りの人が変に思うかもしれないだろうが。
「鱗がキレイ!黒い竜だね!おーい。」
ラケルよ、周りが軽くパニクってんのに何暢気に手振ってんだ。まあ、この距離じゃ見えないだろうけど。
「あ、気付いた。」
「!!!」
が、無邪気に放たれたその一言に私の顔から血の気が引く。
ちょ、待て!!
恐る恐る龍の姿を凝視すれば、なんか、龍さん、こっちに体向けてません?
ひぃぃ、シャレにならん!!!!
(いや、やめて呼ばないで。ほんとお願いします。こんな町中にあんなでっかい龍が下りたらそれこそ大パニック、大惨事です。)
「えー?そう?…もう、分かったよ。……あ、ごめんね引き留めて。気を付けてねー。」
ラケルがそう言うと、空の竜はその場で円を描くように大きく二、三回廻ると、そのままどこかに飛び去って行ってしまった。
どうやら物分かりのいい龍さんだったようで。
……それに引き換え、この精霊は……。
「行っちゃったね。」
「いやー、竜にもいろんな種類があるんだね!ちょっと怖かったけど、綺麗といえば綺麗だった。」
「レアってことなのかな。ある意味ラッキーか。」
龍が飛び去ったことに安堵したのか、皆ほっとした様子で今見た光景について語り合い始めた。
まあ、おばさんの言葉からして、めったに見れるもんじゃないみたいだしね。実際私達も知らなかったし。
危険性もない、個体数もたぶん少ない、もし出会えても手懐けることもできないとなると、特に学ぶ必要もないってことなのかね…。それはそれで寂しい気もするが。
ヒューナさん辺り好きそうな生物だけどね……龍ってちょっと神秘的な気がするし。
今度聞いてみようかな。
私は、そんなことを考えながら、残りのアイスを口に放り込んだ。
あ、すっごくドロドロになってる……。




