いつもより暑く、穏やかな夏の日。
「暑い…。」
「学校終わったら、メディス屋行かない?」
「「「「「行く!!!」」」」」
カリナちゃんのお誘いに声がそろい、皆でケラケラと笑う。
季節は過ぎ、今は夏。
前世の世界より四季はぼんやりしているイメージだったけど、今年は特別。超蒸し暑い。
この世界の夏は比較的カラっとしていると思ってたのに……騙された。
まあ私の個人的な恨みはさておき、メディス屋さんとは学校に結構近い所にあるお菓子屋さんだ。この時期はアイスもやっている。
味の種類も結構あるんだよねー。うーん、私は果実のシャーベット(月によって違う)かな、やっぱり。
夏はシャーベット、涼しくなったらクリーミーなアイスクリームを食べたくなるのは今も昔も変わらない。
「あら、今日は大勢で。」
「だって暑いんですもん!」
「確かに今年は凄いわねぇ。ふふ、うちも毎日フル稼働よ。」
授業終了後すぐ私たちは外出届を提出し、お目当てのお店へ直行した。
毎年何度も通っているせいか、すっかりお店のお姉さんとも顔見知りだ。
ちなみに、今日のメンバーはカリナちゃんにルカちゃん、グレッチェンちゃんにメメリアちゃん、ピアちゃん、そして私。
総勢6人。まあ、結構な人数だね。
でも、別におかしなことじゃない。女子の放課後といえば、今も昔もどの世界でも……甘い物食べ歩きで決まりでしょ!!異論は認めない。
さて、改めてメニューを眺めてみると…今月のシャーベットはキュアンベリーかぁ。
前世で近いのは、イチゴ。つまり、甘酸っぱくて美味しいのだ。
あ、でもこっちにあるブルームーンシトラスもいい!こっちはレモンっぽい果物。夏にぴったりなフレーバーなので、夏の間ずっとあるはず…けど、またすぐ来れるかはわからないしー。うーん悩む。
「サラ、どうする?」
「え?じゃあ、今月のシャーベットとブルームーンシトラスのレギュラーをダブルで!カップで!!」
「好きだねー。」
と言いながらルカちゃんもダブルを頼んでいる。
たくさんのフレーバーとにらめっこしながら、あーでもない、こーでもないと選んでいるその姿は、昔も見た光景だ。
もう朧げな記憶になりかけているけど。
そんな風に私がちょっとメランコリックな気分になっている間に、皆思い思いのアイスを手にし、テーブルに向かって行った。
その姿を見て私も慌てて後を追う。
「あー、美味しそう。」
(…また今度ね。ラケル。)
私の頭でブーブー文句を言うのは、闇の精霊さん……改め、ラケル。
そう。名前決まったんですよ。
一応考えに考えた名前だったけど、本人?に提案するときはさすがに緊張した。
幸いなことに、喜んでくれたようだけど。
ちなみに、恐る恐る聞いたところによるとやっぱり彼でも彼女でもないらしい。ほえー。
驚く私の心中を察したのか、その時ラケルは一言こう言った。
「それでもやっぱり、ルダは特別なんだよねー。」
……どういう意味なんだろうなぁ。
「うーん、おいしぃぃ!」
上ずったカリナちゃんの声で私ははっと我に返る。
手元を見るとアイスがちょっと溶けている。
あぶねえあぶねえ。カップにしていてよかった。さっきからぼーっとしすぎだ、私。
気を取り直して、私も一口…。
「おお、うまい!」
「おっさんか!!!」
爽やかな風味に思わず感動の声が出る。
そんな風に笑いあいながら、私達はおしゃべりに花を咲かせる。
「進学も決まったし、もう後は消化試合だね。」
「だね。」
「カリナ、マジ良かったねぇ。」
「しみじみ言わないで!!!」
まあ、ルカちゃんが言うように、カリナちゃん、ちょっと成績ギリだったらしいからね。
私?私は本気出したおかげか上級学校決まりましたよ。イエイ。
ルカちゃんは以前言っていた通り、神学校に行って回復魔法を学び、その後は実家の宿屋を継ぐとのこと。相変わらずしっかりしている。
他の子はほとんど上級魔術学校だね。
「この間の局長さんの講演会は面白かった。あそこの仕事って古代技術の再現だけじゃないんだね。」
「開発もしてたんだねー。うーん、グレッチェンちゃんなら研究室でも活躍できそう。」
お世辞ではない。鋭く賢い女、グレッチェンちゃん。きっと研究員でも成果を上げることだろう。
先日、技術開発局の局長さんによる学生向けの講演会があったのだ。
仕事についての講演なんて退屈だろうなぁ、と思っていたら、とんでもない。
40代後半くらいの局長さんは、真面目な話と笑える話を上手に織り交ぜながら私達に色々な話をしてくれた。
グレッチェンちゃん以外にも食い入るように話を聞いている子が何人もいたなぁ。局長さん、実に有能である。
国立古代魔術研究所の一部門である技術開発局だが、古代魔道具や技術の復活だけかと思いきや、それをヒントに更に新しい技術や道具を作り出しているらしい。
ちなみにヒューナさんは、調査局の所属である。まあ、あの人現場大好きっぽかったもんなぁ……。
見た目とは裏腹に、行動力に満ち溢れたヒューナさんの姿を思い浮かべ、私は何とも言えない笑いがこみあげてくるのを感じた。
「あれ?」
(ん?)
と、口の中の甘さと冷たさを楽しんでいた私の髪を、ラケルがぐいぐい引っ張る。やめい。
(なに?)
「あっち…。」
ラケルの示す方向を、私は不自然にならない動作でゆっくりと窺う。
なんだなんだ、誰か来るのか?
多少のめんどくささを感じながら、私はそちらに視線を向けたのだが……。
「……なに、あれ。」
「ん?サラ?」
あ、やば、声漏れてた。
だけど、どっちにしろ誰かすぐ気づくわな。
そう諦めた私は、無言で西方向の空を指さす。うん、見てもらった方が早い。
そして、同じように無言のまま、釣られるようにそちらに視線を向けるカリナちゃん。
だが、その表情はそのままぴしりと固まった。




