月夜の出会いと別れ
ブクマ・評価感謝いたします!!!
「あ、あそこ。」
「ん?ああ、鎧が見えた。」
良ーく目を凝らさないとわからないところにその人はいた。黒を基調にした軽鎧の男性だ。
怪我のせいで動けないのだろう。木の間に体をねじ込むようにして座り込んでいる。
血の臭いがするのだろうか。ダークソウルウルフが鼻をひくつかせるのが見えた。精霊さんが一緒でよかったね。
「…大丈夫ですか?」
「!!……っっ!」
私の呼びかけに体を動かそうとしたのだろうか。しかし、痛みのせいか小さくうめき声を漏らすとその場に再び崩れ落ちた。
その隙にちょっと観察する。うーむ、結構背が高い。そして若そう。
「あ、動かないで。」
「お前……!!」
「先に名乗ります。私はクルーヴ王国、魔術学校5年のサラ・ゴールデンロッドです。以上。」
「く……っ、なにを?」
「一応敵国になりますが、私自身に敵意はありません。ある人から言われて貴方に回復魔法をかけに来ました。貴方を見つけたのはその人です。ただ、立場上その人が治療をするわけにはいかないので、代わりに私が来ました。」
何か言いたげなその人を無視し早口でまくしたてた私は、そのまま回復魔法をかける。
ちなみに名乗ったのは、私に敵意が無いことを示すためだ。正直このダンジョンにいること自体は別に隠すことじゃないし。
立場上っていう話についても本当の事も言っていないけど、嘘も言っていない。
そして闇の精霊さんと、ダークソウルウルフさんがいるからある程度強気に出ているっていうのもある。おまけに手負い相手だし。
まあ、当の闇の精霊さん(とダークソウルウルフ)は、光の魔力が苦手なのかいつの間にか少し離れている。
相反する属性は精霊さんとはいえ、しんどいのだろうか。むしろ精霊さんだからこそかな。
私も一応色々学んできたつもりだ。中身は結構年数経ってるし。
精霊さんの力を借りなくとも、魔力の変換は一通りできるようになっている。希少な魔法である念話も使える。
だから、こういう役はうってつけなわけだ。
(うーん、したたか…。)
無言のまま数分。
やがて騎士さんからもう大丈夫だ、と小さな声がかかり、私は回復魔法を止めた。
「……礼を言う。」
「どういたしまして。ところで、早い所森を抜けた方がいいですよ。私の学校がしばらく実習で出入りしますから。」
「そうか……ここは、森のどの辺りだ?」
「中間地点より、少し東側の入り口に近い地点です。」
「……くそ…。」
悔しそうにつぶやく騎士さん。
私は念話で闇の精霊さんに尋ねる。
(闇の精霊さん、この人送っていけないの?そちらのウルフさんに頼んで。)
(うーん、できなくはないけど、説明して理解してくれるかな?)
まあ、だよね。
敵じゃないです、なので背中にどうぞ!!って言われても信じられないよね。
(ただ、この森の最深部を更に突っ切ると、インリスの騎士がいるの。)
(それ早く言ってください。)
こういう会話をすると、やっぱり精霊さんだな、と思う。ちょっと感覚が違うというか。
(しかし…それでも夜が明けるな……。)
思ってたよりは近いけど、それでも計算してみると時間が足りないことに変わりはない事実に私は悩む。
さて、どうしたものか。
だが、そこで私は一つの案を思いつく。
(そうだ、ダークソウルウルフさんを、私の従魔ってことにすればいいのでは?)
それなら、さほど警戒されることなく背中に乗せることができるのでは?
まあ私も同行する必要があるけど。
ただ、あの速さなら森を突っ切るくらいさほど時間もかからないだろう。
(あ、そうか!あったまいいー!)
(本気で思ってます?)
(もちろん!じゃあ、私向こうに伝えるから。)
それから話はあっさりついた。
ダークソウルウルフさんを従魔というのは結構無理のある設定&本人(本犬?)に失礼かと思ったけど、しょうがない。
騎士さんも特に何も言わなかったし。まあ、もしかして変だと思っていても怪我で体力消耗してただろうからツッコむ気力も無かっただけなのかもしれないけれど。
無言のままダークソウルウルフさんの背中に揺られること数分。
闇の精霊さんの言ったとおり、森を抜けた先に人の気配がある。しかも複数。
…魔力の感じからしても、インリスの騎士さん達だろうな。
向こうに見つかる前に、私は闇の精霊さん経由でダークソウルウルフさんに止まるようにお願いする。
「じゃあ、この辺で。」
「ああ…世話になった。」
少し目が慣れたのだろうか。月明かりのおかげで騎士さんの顔がはっきり見えた。
あ、やっぱり若い。そしてまたもやこの人もイケメンだった。
「それでは、お気をつけて。」
「ちょっと待て。」
ん、何か用だろうか。
気付かれないよう身構える私に、その騎士さんは改めて頭を下げてくれる。
「そっちが名乗ってくれたんだ。こっちも名乗らないとフェアじゃないだろう?俺はインリス第二騎士団所属、モーリス・テオフィルドだ。」
「あ、はい、ご丁寧にどうも。よろしくお願いします。」
予想外のセリフに、テンパって思わず変な返しをしてしまう。
よろしくってなんだ、よろしくって。
「ふふ、おかしな奴だ……。おっと、向こうも気づいたみたいだな。じゃあな。生きていたら、またいつか会おう。」
小さく、戦場じゃないことを祈る、とつぶやくのが聞こえた。
まあ、一応敵国になるからなぁ。
そこから、他の人たちがやってくる前に、私はそこから素早く撤退した。
向こうも騎士団の人たちだから手練れなんだろうけど、今は夜。
闇に属する上位の魔物、ダークソウルウルフを追うことは不可能だろう。
「今日はありがとう。」
「…まあ、いい経験になりました。」
若干イヤミを混ぜたんだけど、気付かなかったのか、闇の精霊さんはただ楽しげに笑っていた。
「ところで、なんで助けたんですか?」
「ん?だってこの森が荒らされたら困るでしょ?この国の領土で、他の国の騎士が死んだなんて知られたら…。」
つまりは、自分のテリトリーを脅かす要因を取り除きたかったってことか。
全く、本当にしたたかな精霊さん。
それから、何事もなく私は野営地点に戻って、そーっと寝床に戻り、朝まで睡眠をとりました。
…まあ、やっぱり寝不足ではあったけどね。
その日の日中、非常にしんどかったのは言うまでもない。
さて、実習を優秀な(ここ重要)成績で終了した私達。
全ての班の実習が終わってからすでに2週間が経過していた。
森で色々な出会いを経験した私。
色々考えながらも、そのまま森を後にしたはずだったんだが……。
(あの…森に戻らなくていいの?)
(えー?退屈なんだよね、あそこ。)
闇の精霊さん、私のところにいつの間にかいました。
最初見た時はびっくりした。勝手に頭に乗って話しかけてきたんだもん。
しかし、あそこまでして守った森を退屈とは…ひどい話だ。
(サラの髪、真っ黒でいいね。)
(あなたも似たようなもんでしょ。)
最初こそ敬語らしきものを使っていた私だったが、だんだんめんどくさくなって今はタメ口だ。
まあ、気にする様子もないからそのままにしているけど。
私の髪に埋まるようにしながら、肩に乗る精霊さん。
闇の精霊だから、黒髪好きなのかな。
(正直さぁ……前言ったっけ?凄く昔の魔王のお墓があったせいで闇の魔力が強かった森なんだけど、時間が経ちすぎて今はそれほどでもないんだよね。)
それこそ、マノイだっけ?あそこのダンジョンの方がよっぽど闇が濃いよ。と言う闇の精霊さん。ああ、メメリアちゃんとこか。結構人気のダンジョンだって言ってたもんね。
(てかさ、その闇の精霊さんっていうのやめない?)
(え、だって、名前聞いてないし!)
(うん、無いからね!)
そんな誇らしげに言われても。ていうか無いんかい!!
まあ、名前がある方がやっぱり特殊なのかな。
(私も、ルダみたいに呼ばれたーい!!)
ピーピー言いながら、私の髪を引っ張る精霊さん。やめれ。
ルダ様に比べて子供っぽいとは思ってたけど、これじゃまるで駄々っ子じゃないか!!!
まあ、名前を付けるくらい……してもいいっていうなら、するけどさぁ。
そして、やっぱりルダ様は有名なのか。そして特別なのか。
(えー、じゃあ……うーん、)
ただいきなり言われても正直困るなぁ。ゲームとかでも結構悩むタイプだったのを思い出した。
そして、こういうのって結構頭から離れないんだよね。
結局その後、私は授業そっちのけで闇の精霊さんの名前を考えていたのだった。




