強引でしたたかな精霊
「ごめんね。どうしても話がしたかったの。」
その割にはちょっと楽しそうですね。
あと、すぐに気づいたよ。
昼間にアドバイスをくれた人?精霊さん?と声が一緒っぽいことに。もしかしなくてもご本人さんですか。
色々気づいて固まってしまった私とは対照的に、彼女?は相変わらずダークラビットちゃんをナデナデしてる。う、うらやましい。私にも撫でさせて。
「この子は喋れないけど…ふふ、だからこそ、この子がいきなりどこかに行ったら貴方が気にするかなー、って思って。」
「まあ、この通り。」
まんまとつられたわけだ。私チョロすぎだろう。
というか、可愛らしい見た目に反してなかなかの策士だな。
「でも、どうやって話しかけたんですか?」
「ああ、私は闇の精霊だから。同じ闇に属するこの子達とは、言葉が無くても意思が通じるの。」
闇の精霊!!
あ、だから黒いのね。黒髪ストレートで姫カットっぽいのね。納得。
そして、改めて探ってみれば、うん、確かに闇の魔力。ダークラビットちゃんとはまた違った闇の魔力の気配がする。
1人でうんうん頷いていると、周囲に精霊さん達が集まってくる。
「あー、闇の精霊だー。」
「めずらしー。」
「この森、居心地いいの?」
「まあまあかな。」
わいわいと楽しそうだ。
光と闇の精霊はレアだもんね。
しかも、この精霊さんはその中でも特別な存在っぽい。
特別っていうより個性的で、一言で言えばルダ様みたい。
だけど、彼女はルダ様よりずいぶん少女っぽい。
とうか、それ以前に彼女?彼?
ああああああ、相変わらず生態というか、存在が謎過ぎる!!精霊さん!!
と、そこで私はふと気づく。
他の精霊さんには性別らしいものはない。
だけど、ルダ様はサイズこそリ●ちゃんサイズだが、綺麗なちょっと色っぽいお姉さんだ。
無邪気な子供のような他の精霊さんの中で、ルダ様だけが大人の女性といえる見た目をしている。
つまり、ルダ様の方が異質なのだ。
この闇の精霊さんはどうだろう。
姫カットと可愛い顔からして女の子?でも、うーん。
「一応、闇の精霊のリーダーの一人みたいなものかな?とはいえ、この森は土の魔力も水の魔力も強いけど。」
「ヤミキノコの生えてるところって、闇の魔力が溜まる所なんですか?」
「うん。近くに昔の魔王の亡骸が埋まってるからね。」
……まーた、サラっと(だからシャレではない)怖いこと言うし。
「大丈夫。もうかなり前だから魔力もだいぶ散ってるよ。」
「そうっすか。」
表情が固まった私に対してそうフォローを入れてくれる闇の精霊さん。
私は深く考えないことにした。
「ああ、そうだ。」
と、そこで闇の精霊さんは何かを思い出したようで私の方にフヨフヨと寄ってくる。
「用があって貴女を呼んだんだった。いけない、いけない。」
「え、私に用が?」
ただの挨拶とかじゃなかったんだ。
しかし、精霊さんからの用事って一体なんぞや。
「あのね、森に一緒に来てほしいの。」
「え。」
森?
私は目を見開いたまま、森の方へ視線を向ける。
あの、森って、真っ暗なんですけど。
しかも昼間よりもタチの悪い魔物いるでしょ?この時間。
野営地として整備されてるから今もこうしてられるけど、ここから出たら普通にヤバイでしょ。
「大丈夫。足は用意してあるから。」
私の心中を察したのか、そう言って森の方を見る闇の精霊さん……あ、茂みからなんかチラ見えしてる。
……あれ、ダークソウルウルフじゃね?初心者向けじゃない魔物だったはず。
私は正直寒気がした。
だって、アレを足扱いするってことは、この精霊さんアレより強いってことだよね。少なくとも上位の存在ってことだよね。
「……でも、他の人にバレないですか?」
「ふふ、今は夜。闇の力が深くなる時間だからね。皆にはいつもより深い眠りについてもらってるから朝までぐっすりだよ!」
「………はぁ……。」
ヤベえ。無意識にやってるのかもしれないけど、退路を確実に潰してこっちが断れない状況作ってるよ。
しかも、皆に魔力干渉してまで。眠りを深くするくらいだからいいものの、やろうと思えばそれ以上の影響を与えることだってできるってことだ。
精霊さん……恐ろしい子。
「わかりました。何をすればいいんですか?」
「うんとね、貴女、回復魔法使えるよね?」
「あ、はい。」
「森で怪我して動けない人がいるの。で、その人の怪我を治してほしいの。」
「え?怪我人?」
そりゃ大変だ!
一応初心者向けとはいえダンジョン、しかも夜。魔物に襲われないとも限らない。
闇の精霊さんに対して不信感のようなものはぬぐえないけど、流石に話を聞いた以上見捨てるわけにはいかんだろ。人として。
「あれ、でも他の精霊さんたちは?光の精霊さんに来てもらうとか。」
「それがね、倒れてる場所があのヤミキノコの群生地の近くだから、光の精霊が簡単に近寄れないの。貴女なら光の精霊がいなくても十分な回復魔法、使えるでしょ?」
「ああ、そういう訳か……。」
精霊さんだから、そのことも知っていても無理はない。
ぶっちゃけ、呼べば光の精霊さんも来てくれるんだろう。けど、辺りに闇の魔力が充満している状態だと色々しんどいんだろう。
以前、火のダンジョンで実習した時水の精霊さんがしんどそうにしていたのを見た覚えがある。
「だから、貴女にお願いしたくって。」
「そういう理由ならしょうがな……ん、でもなんでこんな時間に。」
森の中で、しかも夜。
正直、この精霊さんのしたたかさなら、私達をうまく誘導して怪我人を発見させるくらいできそうなのに。
実際そうした方がこっちの人数も揃ってる分都合はよさそうだけど?
だが、そんな私の疑問は闇の精霊さんの一言で一蹴される。
「その怪我人、インリス王国?の騎士の人なの。」
「あ、そりゃ、こっそりだわ。」
なんと、隣国であるリレグラ王国どころか、そのまた向こうにある国、インリス王国の騎士ときたか!!!!
インリス王国。
一応別大陸となっているけど、実はこの国のある大陸とは地続きだ。
最初地図見た時、ユーラシア大陸とアフリカ大陸みたいにちょびっとつながっていることに驚いた。
まあ、それはさておき、こっちの大陸とそっちの大陸との間にはこういった森があったり、山があったりでそう簡単には行き来できない状態になっている。
勿論全く道が無いわけじゃないんだけど、地形が厳しく、整備が難しいことから軍隊が通れるほどの広さがない、と習った覚えがある。だからそっちの大陸とのやり取りは戦闘も含めて基本的に海路を使っているのだ。
まあ、もっと広い道で繋がってたら今頃どっちかの国は無かったかもね。
休戦中とはいえ、まだまだ友好的とは言い難いのだ。
というか、以前はドンパチやってたはずなのに、今インリス王国、リレグラ王国、コスリア王国は比較的仲がいいらしい。お互い近いからか?
…あれ、うちの国やばくね?
「さあ、時間もあまりないし行くよ!」
「あ、はい。」
まあ、考えてもしょうがない。
第一、私に断るという選択肢はあるようで実際は無いのだ。
私は意を決して、恐る恐るダークソウルウルフに近づく。
うーわ、近くで見るとでか!!こわ!!!
大きい馬サイズの漆黒の犬です。
そして、暗闇でもわかる赤く光る眼と、同じように赤く光る額の模様。これもまるで馬の流星模様みたいだ。
「し、失礼します……。」
「……。」
敵意はないっぽいけど、反応が薄いのがぶっちゃけ怖い。
精霊さんに促され、何とかその体によじ登ると、びくつきながらその毛を掴む。
乗り心地はいいとは言えないけど、向こうなりに気を使ってくれていたのか速度の割に振り落とされそうになることは無かった。
おかげであっという間に到着です。
たぶんヤミキノコ群生地より少し入り口側かな?道から少し入ったところ…道の無い茂みの中だった。




