姿の見えない謎の声
翌朝は、予定通り早い出発だ。
寝起きの悪いソーン君をベリリアント君が文字通り布団から引きずり出し、朝日の下に連れて行く。母ちゃんか。
「よし、出発しよう。」
「ああ。」
「水、よし。荷物も持った。」
「地図よし。装備よし。」
持ち物を指さしながら最終確認し、私たちは出発する。
強化魔法をかけなおし、私は重い荷物をぐいっと持ち上げた。
昨日と同じように森を進んでいく。
途中では再びポイズンフロッグと遭遇したので、昨日と同じように毒液を採取した。
そして、ポイズンフロッグを倒した後すぐ、レッドバイパーという蛇の魔物が出てきたからそっちも倒しておく。
もしかしてポイズンフロッグを狙ってたんだろうか?獲物取っちゃった上に倒しちゃったよ。ついでだからこっちの毒も採取しておくことにした。
レッドバイパーの方がポイズンフロッグより毒腺がわかりやすい状態で存在しているので採取は非常に楽だった。牙も一応ゲット。課題には無い素材なんだけどね。まあ、一応。
「うーん、連続で遭遇するとは。」
「はは、グレッチェンちゃんにはちょっと嫌なコンボだったね。」
「サラは結構平気なんだな。」
「得意でもないよ。」
これは本当だ。私だって別に虫やは虫類みたいな生物が得意ってわけじゃない。
だけど、叫んで逃げたところでどうにもならないからなぁ。
対処できるレベルの魔物や魔獣は気合を入れて対処することにしているのだ。
「結構図太い…。」
「お前に言われたくないと思うぞ。」
ベリリアント君のツッコミに、ソーン君は納得いかない顔をしている。
天然だよなぁ。彼。
「蛇系の敵の対処は、もう少し改善できるかな?」
「まあ、今は魔法を連続で打ち込めるだけの余裕があったが、別に刃物の攻撃が通りにくいわけじゃないからなぁ。魔力も節約できるならしたい。」
「ただ、弓矢だと狙いにくいなー。まだ私が慣れないのもあるけど。」
体が比較的細くうねうね動く蛇類は、非常に狙いづらそうだ。
ちなみに私は弓はあまり得意じゃない。なので今回も短剣を持ってきたのだ。
「足止めしてから、斬るか?」
「火?」
「氷もいいと思う。」
「じゃあ、次に遭遇したら、試してみるか。」
そう決めて、私たちは奥を目指す。
途中、レッドバイパーに遭遇することはもうなかったけど、昨日の到達地点もすんなり通り過ぎ、どんどん進んでいく。
中間の野営目標地点の少し手前。
地図を持っているグレッチェンちゃんがぴたり、と足を止めた。
「このあたりで左に曲がると、ヤミキノコの群生地だって。」
「お、そうだった。ヤミキノコ。」
魔法薬の材料となるヤミキノコ。
見た目が信じられないくらい真っ黒な茸だから、他と間違えることはない。だからこそ初心者向けの素材として扱われるのだが。
「左の道…。」
「他のパーティーが通ってるだろうから、道が隠れてるってことは無いと思うけどな。」
ベリリアント君の言う通り、その可能性は低い。注視すれば見つけられるはずだ。
地図を頼りに道の周辺を見ながらゆっくり進むと、それらしい脇道が程なくして見つかった。
「お、これだな。」
「うん。方角からしても間違いないね。」
地図と見比べながらグレッチェンちゃんがうなづく。
「『ヤミキノコは採取したら胞子が飛ばないよう、素早く密閉する…。』」
今度はソーン君が、出発前にまとめた採取する時の注意事項を読み上げてくれる。
ヤミキノコは当然ながら茸の一種なのでカサから胞子を出すことがある。
この胞子が目に入ると、視力を一時的にだけど低下させてしまうのだ。魔法薬はその効果を更に高め、使いやすくしたものである。
「『カサの開いていない茸を根本から採取する。できれば手袋推奨。』」
「うん。そうだね。念には念を。」
うっかり胞子の付いた手で目をこすりでもしたら大変だ。特にぼーっとしてる私とソーン君は危険である。
さて、そんな風に会話しながら脇道を進むと、折れ曲がった大木が作った影の部分に、いかにも怪しげな真っ黒い茸が数本生えているのが見えた。
ああ、間違いなくヤミキノコだわ。
小さい袋を手袋代わりにして茸を採取する。そしてある程度取ったら、手袋ごと保存袋にインした。
そして念のため水で手を洗い流す。暗闇怖い。
「よし!ヤミキノコゲット!」
「お疲れ!」
「じゃあ、戻ろうか。」
うむ、順調である。
ヤミキノコを採取すればもうこの脇道に用はない。さっさと元の道に戻ろう。
そう考え、今来た道を引き返そうとした時だった。
「あ、もったいない……。」
私の耳元で、そんな声がした。
「ん?」
聞き覚えの無いその声に、私は歩みを止める。
皆の方を見るけれど、どんどん先に進んでいるところを見ると聞こえていないようだ。
(え、皆には聞こえてない?てことは……。)
精霊さんだろうか。
だけど、皆がまだ近くにいるのであまりキョロキョロもできない。
しょうがないので念話で尋ねてみた。相手の正体がわからないのがちょっと怖いけど、声や周囲の雰囲気から敵意は感じない。
(あの、聞こえます?)
「うん。」
おお、どうやら大丈夫そうだ。
しかし、あまり悠長に話している暇はない。私はちょっと焦りながらも相手に尋ねた。
(あの、単刀直入に聞きますね。もったいないってどういうことですか?)
「ああ、あのね、あの茸ね、魔法薬にしなくても、そのままでもいざという時役に立つの。」
(え、加工しなくても?)
「うん。少しカサの開いた茸を選んだら、袋に入れて。あ、その青い袋がいいかな。」
謎の精霊さん?の声に従って、私は少しカサの開いた茸を五本ほど指定された袋に入れる。
防水加工のされた、薄い袋だ。
「そしたら、空気を少し袋に入れた状態できっちり袋を縛って。それから少し振って。」
(うんうん。)
「刺激されて胞子が出たのがわかるでしょ?簡易だけど目つぶしになるの。敵に襲われた時に袋ごと投げるといいよ。袋が破けるようにすると完璧。」
口調こそ少し子供っぽいが、この謎の精霊さんの説明、普段私が会話してる精霊さん達よりずっと分かりやすい!!
ちょっと失礼とも思える謎の感動を感じながら、私は茸入り袋を荷物の中に丁寧にしまった。
(確かに役に立ちそう!ありがとうございます!えと……。)
「私は……あ、ほら、置いて行かれちゃうよ。」
(あ。)
詳しい話を聞きたかったんだけど、謎の精霊さん?の言葉で私は皆の背中が見えなくなっていることに気づく。
おお、まずいぞ。
(ああ、あわただしくてすみません。)
「ふふ、頑張ってね。」
(あ、はい。本当にありがとうございました!)
未だ姿の見えないその声に軽く頭を下げると私は走った。
後ろ髪を引かれる思いだが、しょうがない。あとで周囲の精霊さん達に聞いてみよう。




