緊張と決意
「ダンジョンに着いたら、まずどうしよう?」
水場に行って冷たくて綺麗な水を汲んでいると、隣のグレッチェンちゃんが尋ねてきた。
もしかしたら不安なのかな?ちょっと意外である。
「さっきマップをちらっと見てみたけど、ダンジョンの入り口から結構行かないと野営できそうな場所が無かったんだよね。」
「そうなんだよねー。着くのはこのペースだと明日の昼くらいかな?そこから、その野営できるスポットまで日中に着くのは難しそうじゃなかった?距離的に。」
「だな。ということは、ダンジョン入り口で明日は野営して、更に翌日の朝に突入した方がいいか。」
「だね。」
現在の場所は、出発地点から大体半分位。
明日の朝、よほど早くに出発して、そこから休息なしでダンジョンに突入すれば野営目標地点に到達するのはもしかしたら難しくないかもしれないけれど、ダンジョンに本格的に潜るのは初めての私達だ。
正真正銘の初心者パーティーだ。
「流石に初心者向けとはいえ、いきなりダンジョンの深部にまで突っ走る勇気はないわ。」
うん。私もそう思う。
「うん。ダンジョンのモンスターがどんなものかも見ておきたい。入り口付近で何回か戦ってみるのもイイかも。」
「確かに初めての事だからな。いきなり深部にまで突入するのは確かに無謀すぎる。連携の確認も実戦でしておきたい。」
「うんうん。慣れないうちに中で魔物に遭遇したらたぶん結構時間喰うよ。野営地点に到達する前に夜になったら怖いしね。」
魔物によっては、夜にのみ活動するものもいる。
出発前に打ち合わせた時確認済みだけど、私たちのパーティーには夜目の利く人はいない。その時初めて知ったんだけど、ベリリアント君は鳥人族の血をひいているらしい。
昔のぼんやりとした記憶で鳥は夜が苦手な種類が多いって聞いたけど、彼は特に大丈夫らしいけどね
水を汲んで、集合場所に戻ると他のパーティーの人に話しかけられた。
彼らのパーティーは私達とは違って、夜目の利く獣人の子が三人いるため、夕方からの行軍も考えているらしい。
しかも、攻撃魔法が得意だったり、魔法剣が得意だったりで突破力に自信があるため、勢いで突っ切る方がむしろ安全だと判断したとのこと。
作戦もそれぞれである。
そうこうしているうちに、本日の野営場所まで到着した私たち一行は、パーティーごとに野営の準備をする。
といっても、ここは設備が充実している方なのでやることは少ない。食事の用意ぐらいである。
準備と食事の後は、またまた作戦会議。
自分たちの泊る小屋に集まって話し合いをするのだ。
「リレグラの国境に結構近いんだな。」
「南に少し行くと、旧王都があるね。」
地図を囲んで、地形の再確認。
旧王都と言えば、かつてそこから魔王が炎の魔法を放ち、わが故郷ラクラエンの方面を一直線に焼き払った…と入学の時かな、先生に聞かされたある意味縁の深い場所である。
放棄されて久しく、まさに廃墟と化していたらしいけど、先代の王様の時取り壊しが進みそれに伴って淀んだ魔力もだいぶ散ったらしい。
だからこそ、比較的近くにあるドゥーラの森も私たちのような学生の演習に使われる程度のレベルなのだろう。
まあ、だからと言って誰も旧王都には住みたがらないだろうけど。
「今はもう、強い魔物は出ないって聞いたけど……一応用心しよう。」
「だね。」
「んー、了解。」
流石のソーン君もその辺はわきまえてるらしい。まあ、下手すると命の危険だからね。
「通信機は誰が持つ?」
「えー、私とソーン君以外かな?」
「なに、その答え…。まあいいや、じゃあ、通信機は私が持つね。」
「わかった。重めの荷物は俺たちが持つ。」
その後もすんなり会議は進み、私たちは少し早めに寝ることにした。
戸締りを確認するときに他の小屋も見たけど、半分くらいは明かりが消えてるな。
「サラ、緊張する?」
「うーん、まあね。」
数か月前に、カナハさん、ルダ様、そしてヒューナさんと一応ダンジョンに行った訳だけど、あの時は後方支援だけだったし、クッソ強いお二人がいたからなぁ。
だが、今回は違う。
去年あたりから校外での実習……それこそ例のお化け屋敷こと、魔法研究所みたいなところに行くことが一気に増えた。
だが、今までの実習は深部には行かず、しかも一日で終わる程度のものばかりだった。
それがいきなりやや長めの日程での実習。
しかも普通にダンジョンだ。
緊張しないと言ったらウソになる。
でも、それは皆一緒だろう(ソーン君は不明だけど)
「慎重かつ、大胆に、頑張る。」
「はは、だね。」
そう。
誰にも頼れないけど、協力して頑張ることはできるんだ。
頼ると、協力は似ているようで違う。
私は、私のできること、やるべきことをやるだけ。
難しいことは考えなくていいんだ。
そう自分に言い聞かせた後、私はそっと目を閉じた。




