最大の悩み
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入浴を済ませ、部屋のベッドに倒れこむ。
ぼふん、という音とともに体に鈍い衝撃を感じるが、頭はぼーっとしたままだ。
同じ部屋の子はまだ会場にいるのか戻っていない。卒業生に知り合いがいるのは他の子も一緒だからね。まだまだ一緒に盛り上がっているのだろう。
明日は学校も休みだし、特別なイベントだからこのくらいの時間じゃまだ先生も何も言わないのだ。
寮全体がいつもより静かだから、耳を澄ませると遠くの喧騒がわずかに聞こえてくる。
私はあの後、ディアンに手を引かれてシャルロッテ達のところに戻った。
だけどそれからのことはよく覚えていない。
二人きりになった時の事は、お互いまるで無かった事のように振舞ったはずだ。
まあ、シャルロッテは付き合い長いし、鋭いから何か気づいた可能性が高いけど。
他にも皆で色々話したはずなんだけど、見事に内容が頭からすっぽ抜けている。
ああ、そうだ。あんまりぼーっとしてる私に疲れてるだろうから、もう寝たら?ってシャルロッテが言って、ディアンが寮の入り口まで送ってくれたんだ。
その間も、ディアンはいつも通りだった。
別れ際も、じゃあな、って一言だけだった。
凄くいつも通りに。
いつもより静かな部屋の中。
のそのそと布団に潜り込み目をつむると、頭の中に色々ぐるぐると浮かんでくる。
騎士団の人達にお誘いを受けたこと。
キュミラスさんに激励を受けたこと。
いつもと違うラディエルさんに驚いたこと。
…ディアンに騎士団入りをすすめられたこと。
思い出したら、また恥ずかしくなってきた。思い出し恥ずかしとでも言うのか。
まあ、そればっかりじゃないんだけどね。思考が止まらない理由は。
「もったいない、かぁ……。」
ディアンから言われた言葉を口に出して言えば、更にそれが深くのしかかってくるような感覚に陥る。
と、同時に妙にソワソワした感覚も湧き上がってくるのだ。
(上級学校に進学して普通に卒業して地元で仕事をして、穏やかに、長生きをする。)
結構な夢じゃないか。平穏な生活を送って長生きするって、実は尊いものなんだから。
それなりに平穏な生活は遅れていたけど、長生きする事はできなかった私が言うんだから間違いない。
でも…。
(このまま、終わっていいのか?本当に?)
自分で自分に問いかける。
それは私が考えないようにしてきたこと…一言で言えば逃げてきたことなんだろう。
それをディアンにはっきり言われた。私は答えられなかった。
核心を衝かれたからこそ、私はそれから何も言えなかったんだと思う。
思い起こせば、ディアンだけじゃない。
シャルロッテにも、キュミラスさんにも、友達にも…他にもいろんな人にも将来について尋ねられた。
だけどそのたび、私は避けて……逃げていたんだ。
分かってはいたんだ。
平和に暮らすためには、突出した物でなくともある程度の力があった方がいいというということは。
前世と今は、似ているようで違う。
人を襲う魔物だっているし、戦争だってある。
要は危険の種類が多いのだ。だから、他の町に比べて平和だというラクラエンだって、これからどうなるかわからない。
そうなった時、無力なままでは周囲どころか自分の身すら守れない事態に陥る可能性だってある。
なのに、私はその事実から目を逸らし続けていた。
何故?
自分の為にも力は必要なのに?
そこまで考えて、私は大きく息をする。
あれだ、あれ。
一言で言うと、「疎外感」ってヤツだ。
自分はここにいていいのか?こんなに良くしてもらっていいのか?
自分が受けている恩恵は、他の誰かのためにあるんじゃないのか。
根本にその疑問があるんだ。
私は、皆に言っていないことがたくさんある。
勿論、他の人だってすべてを他人に晒しているわけじゃない。
それでも、私はちょっと人よりそれが多くて、ちょっと変わったものだという自覚はある。
精霊さんが見えることについては、この数年で複数の人に言ったりバレたりした。
だけど、一回死んで神様に会って、前とは全く違う世界に記憶を持ったまま再び生まれたこと。これだけは本当に誰にも言っていない。
(秘密を守り続けるって、しんどい事だ。)
いや、だからといって流石にキュミラスさんにもこれは言えんわ。
それこそ『墓場まで持っていく』類の話だわ。
だいいち、神様に会ったっていうこと自体がね。
神様の存在自体は精霊さんと同じで知られてはいるけど、直接会って話せる存在とは思われていないんだよね。
口に出した瞬間、ヤバい人扱いです。
だからこれだけは、私しか知らないこと。
私だけのもの。うん。
そう改めて決意して、私は布団を再度引っ張り上げる。
とりあえず、寝よう。
寝る前にあれこれ考えてもしょうがない。
1人で納得して考えるのをやめた私は、そうやって眠りについた。
はずだったのだが。
「久しぶりだな。」
「!!!??」
聞いたことのある声に驚いて目を開けると。
そこにはあの少年……フォウ様がいました。
真っ白な空間に、ただ、一人で。




