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動き出していく時間


「ディアン、ちょっと。」

「なんだよ。」

「あのさー、ちょっと校舎の方に行きたいんだけど、一緒に来てくれない?」


唐突な私の言葉に、ディアンが一瞬目を見開く。

その反応に私もちょっと罪悪感。ごめん。マジごめん。

でも、たぶんこのままだと話が進まない。だからちょっと強引だけど、この場から連れ出させてもらう!


「はぁ?」

「暗くなってきちゃったしさ。ほら。私ビビりだから。」


マジお願い、と手を合わせて頼み込むと、ディアンは深ーーーーいため息をつく。

……お疲れのとこマジすいません。

そしてシャルロッテも察してくれたようだ。こっそり私にアイコンタクトしてくる。



「お前なぁー。」

「……行ってあげなさいよ、ディアン。騎士になるんでしょ?」


私の意味不明なお願いに戸惑いながらも、シャルロッテの後押しもありディアンが渋々と言った様子で腰を上げる。いいヤツ。


「ごめんね。」

「……しょうがねえな。」

「じゃあ、ちょっと行ってくるね。またあとで。シャルロッテ、ラディエルさん。」


二人に声をかけると、シャルロッテと、顔を上げないままのラディエルさんが手を振ってくれた。

彼女も察してくれたようだ。その事実に安心して、私はディアンとともに急いで席を離れた。





「いったいどうしたんだよ。」


やがて二人が見えないところまで行くと、ディアンが私にそう尋ねてくる。その表情は、はよ説明しろ、と言っている。まあ、ここまで離れればもう大丈夫だろう。


「いや、ラディエルさん、私達がいたんじゃ話しづらそうだったからさ。」

「んあ?」

「たぶん、シャルロッテにしか相談できない事だったんだよ。」

「なんだよそれ…。」

「ほら、きっと恋愛相談とか、」

「女ってそういうの好きだよな…。」


ディアンがため息とともにそう吐き出す。

失礼な。女性がみんな恋バナ好きというわけじゃないんですよ。私?私は程々です(何が)。


「ごめんごめん。まあ、しばらく時間潰そう?」

「わかったよ。まあ、あのラディエルの様子からしてただごとじゃないよなぁ。」


まあ、いつも元気なラディエルさんのあんな様子見ちゃぁね。

そのまま二人で人のあまりいない会場のはずれの方へ移動する。


一応会場の明かりは届くから真っ暗ではないけれど、本を読むのはちょっと難しそうなくらいには暗い。

1人だったら、ビビリの私はちょっと遠慮させていただきたい場所である。しかし、そこはラディエルさんのため。我慢我慢。


無理やり連れだされたディアンはというと、広場を囲むフェンスにもたれかかって、ははぁーっと大きなため息を吐いた。

陽が落ちて気温が下がってきているせいか、吐いた息が少し白い。

私も隣に陣取って、ぼーっと会場を眺めていると、隣のディアンがやがて口を開いた。



「なあ。」

「ん?」

「さっきキュミラス様にも言われてたけど。」

「うん。」

「お前もあと一年で卒業なわけじゃん。」

「だねー。」

「…上級学校には行くんだろ?そのあとどーするんだ?マジでラクラエンに戻るのか?」


ああ、ディアン覚えてたか。私がラクラエンに戻りたがってたの。

迷ってばかりでブレッブレの私の話、よく覚えてたな。

早いうちから目標が決まっていた二人からしたら、さぞかしもどかしかっただろう。


「成績次第ではね。」

「誤魔化すなよ。迷ってんだろ。まだ。」


適当にはぐらかしたつもりが、見抜かれてた。流石長い付き合い。

流石にバツが悪くなった私が黙り込めば、ディアンは私の頭をぐしゃぐしゃとかきまわした。うお、何をする!御髪が乱れるじゃないか!


「ちょ、え、いきなり何す「なあ、上級学校に進めよ。そんで、騎士団の魔術師部隊に入ればいいじゃねえか。」


が、突然そんな提案をされて私はポカーンとしてしまう。いや、ディアンは至極真面目な様子だけど。


「ディアン、いきなりどうしたの?」

「いや……。俺は騎士団に入るだろ?」

「?うん。」

「で、お前も魔術師枠で騎士団に入る。」

「はあ。」

「………そうすれば、頻繁に会えるだろ。」


そこまで言うと、ディアンは組んだ腕の間に顔をうずめてしまった。




あ、察し。




ギャルゲーやら少女漫画の主人公じゃないんで、私もそこまで鈍くない。

いくら幼馴染で、仲が良くても普通はそんな言い方はしないだろうし。


それに、いくら会場の隅の方とは言え明かりは届くし、目も慣れてきたからお互いの姿ははっきり見える。

だから、ディアンの耳が真っ赤なのもよく見える。




それに気づいた瞬間、私も同じように体が熱くなるのがわかった。

と、同時になんていうか、戸惑いと罪悪感のようなものが湧いてくるのがわかる。


私にとって、ディアンは年上の幼馴染になるわけだけど、前世の記憶があるせいで私の中でディアンはどこかで「年下の子」だった。

前世で生きてきた年月を足せば、30年位だから。



だけど、生きてきた年数=精神年齢じゃない。環境はまだ私を「子供」でいさせる。

そうなると、ある程度の経験は積めてもそれ以上に中身が成長するかと言われれば答えはNOだろう。


だが、しかし、それでも計算しちゃうんだよ。年齢とか。

よく死んだ子の歳を数えるなっていうけど、自分の年齢はやっぱり数えちゃうよ。


まあ、普通は死んだらそれっきりだから数えるもなにもないんだけどさ。




「ディアン。」

「…なんだよ。今俺、すっげー恥ずかしいんだからな!!!」


顔を伏せたままやけくそぎみに叫ぶディアン。

彼はもっとスマートに言いたかったのかもしれない。


だけど、私からしたら凄いと思う。この年齢でここまで素直に気持ちをぶつけてくれるなんて。


なんか、やっぱりすごいなぁ。

私なんかより、ずっと大人だ。

そして私は、やっぱりまだ、未熟者もいいとこだ。



「ありがと。」

「ん?」

「いや、私さ、平穏無事とか、平和とか、スローライフとか、そういうのが夢だったんだよね。」

「…お前、いきなり何言ってんの。」



ジト目で見てくるディアンの視線を真正面で受けながら、私は気持ちを吐き出す。

いや、ほんと、前世の終わりがあんなふうだったから、今度こそ長生きする=平穏な暮らしを送るって小さいころからそればっかり考えてたんだよね。


「いや、本気で。私、王都の学校なんか行く気全くなかった。最低限生活で必要な知識があればいいと思ってた。だから将来の夢とか、全然なかった。」

「枯れすぎだろ!!」

「うん。そうかも。」

「はー。お前…まあ、確かに言われてみれば、お前うっかりでアホだけど、時々冷めてるっていうか、覇気がないというか。」


なんと、ディアンは私の雰囲気に 違和感のようなものを覚えていたようだ。意外と鋭いな。しかし酷い言われようである。


「でもお前がいいやつなのは、知ってる。」

「ディアン。」

「なんだかんだ文句言いつつ、ちゃんとやり遂げるだけの力があるのも知ってる。」

「そ、そう?」

「だから、もったいないと思う。」

「……。」

「誰かの為とか、国の為とか大層な事俺だって言えないけどさ、せっかくこうして王都の学校まで来れる実力があるのに、それを全然使わないまま終わるなんて。」

「……。」

「……悪ぃ、急に変な話したな。ほら、冷えるから、あっち行こう。」

「…うん。」


私の冷えた手をディアンがとって、ちょっと速足で歩き出す。


ぎゅっと手に力がこもると、気恥ずかしさと、あと、なんとも言えない浮遊感が私を襲う。

握られた手と、私を引っ張るディアンの後頭部。

こうして改めて見ると、ずいぶんと大きくなったもんだ。



(せっかくこうして王都の学校まで来れる実力があるのに、それを全然使わないまま終わるなんて。)



そして、先ほどディアンに言われた言葉が頭の中でリフレインする。

もしかしたら、考えないようにしていたのかもしれない。



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