団長と副団長
「んー、頭の回転はよさそうだし、度胸もあるみたいだけど、自信がないのかな?」
サーベント副団長さんが、頬の傷跡をさすりながら私の顔を覗き込む。非常に近い。
目を合わせる勇気はないので、視線を横にさりげなーく逸らす。しっかし、中々に遠慮がないな、この人。まあ、分かっちゃいたけど。
「いやいや、頭も体もトロくって。」
「そうなの??」
えー?うっそだぁ、とまるで学生みたいなノリで大げさに驚いてみせる副団長さん。
おいおい、ついさっきまで団長さんの横でピシッとしてたじゃないか。なんだこの砕けっぷり。同一人物とは思えん。
「副団長。その辺に。」
そこで割って入ったのは、またまたポールさん。
しかし、今回もそんなくらいじゃ引き下がらないのがこの人な訳で。
「あーもう、またポールは。相変わらず頭硬すぎ。だからモテないんだよ。」
「貴方がいい加減なんです。そして大きなお世話です。」
「お、言うねぇ。くくっ。」
ちょっとムキになっている様子のポールさんに対し、副団長さんはあからさまに面白がってる。
だが、その表情が突如一変する。それはもうこっちがびっくりするくらいに。
「おっと……これはどうも。」
「!失礼いたしました。」
「あ…。」
そして、少し遅れてそれまでちょっと呆れた様子で二人のやり取りを見ていたディアンとシャルロッテも表情が変わる。
ん?一体なんだろう。
二人の視線の方…私の後ろの方を見てみると。
「魔術師団長殿。」
「全く、相変わらず仲がいいな。」
「…コホン、お見苦しい所を。」
「いやいや、悪い意味で言ったのではない。」
そびえたつ壁……もとい、キュミラスさんがいらっしゃいましたよ。
今日は入学式の時みたいな地味な恰好ではなく、豪奢な刺繍の入ったローブを着用しています。
それでもやっぱり魔法使いには見えない。このまま拳で戦ってても違和感無いぞ。
「サーベントと知り合いだったのか、サラ。」
「あ、はい。」
「フッ。こいつは騎士団の連中の中でも一、二を争う曲者だ。気をつけろよ。」
「ちょ、」
「ふふっ」
「ポール!」
おお、流石のサーベント副団長さんもキュミラスさんには敵わないらしい。
まあ、年齢もずっと上だろうし、地位的にも騎士団長と同じかそれ以上に地位の高い魔術師団長相手だからなー。さっきまでの調子とはいかないようだ。
「人聞きの悪い。将来の人材確保に勤しんでいただけですよ。」
「なるほど。面白い所に目を付けたな。まあ、こいつは優柔不断なところこそあるが、見どころはあるからな……ああ、そういう意味では今のうちから言っておくのは有効なのかもしれんな。ふむ、面白い。」
「そうなんですか。じゃあ、長い目で見ることにしましょうか。じゃあね、サラちゃん。さっきの話覚えておいてねー。」
軽い調子でそう告げると、最後にキュミラスさんに一礼してサーベント副団長さんは去っていった。
ふう。ある意味助かったかも。
「ありがとうございました。」
「礼には及ばん。あいつも悪いやつではないのだがな。」
「はは…。」
乾いた笑いを返していると、ディアンとシャルロッテがさっきからずっと緊張のあまり直立不動だったことに気づく。
「二人とも!」
「キュ、キュミラス様だ…。」
「おお…。凄ぇ……。」
声をかけたけど、二人はまだキュミラスさんを凝視したまま呆然としてる。そんなに!?
「お前の友達か。」
「はい。幼馴染なんです。」
「ああ、以前言っていた二人だな。卒業おめでとう。」
「「あ、ありがとうございます!!!!」」
声がぴったりと揃う。この辺流石双子だなぁ。
「二人とも優秀だと聞いているぞ。」
「そ、そんな、畏れ多い……。」
「優秀だろう。在学中に騎士団入りが決まる者は珍しいし、上級学校と神学校両方に通うことを許可される生徒も珍しい。自信を持って良いのだぞ。もちろん、驕りは禁物だがな。」
「はい!心して参ります。」
「うむ。頼もしいな。……しかし、早いものだな。サラ。お前もあと一年か。」
「そうですね。」
「本当に早いものだな。最後まで気を抜かずに励むようにな。」
「はい!」
そう私に声をかけるキュミラスさんは、いつもとは違い『魔術師団長』の顔だ。
だから私も真面目な生徒として精一杯返事をする。
が。
『ふふ、本当だな?まあ、お前は怪我に気をつけろ。意外と抜けているところがあるからな。』
(ぐっ、)
念話でこっそりそんなことを言うもんだから、つい表情に出そうになる。
そんなやり取りをした後、キュミラスさんも立ち去る。
おお、遠巻きに様子を見ていた人達がきれいに道を開けている…。
肩書のせいか、見た目の迫力のせいか。まあ、どっちもかな?
しばらくその背中を見送った後、ようやく二人は大きなため息とともに体の力を抜いた。
「……お、お疲れ。」
「……。」
疲れのせいか、緊張のせいか二人ともすでに声も出ないらしい。
しばらく座って落ち着かせた後、漸くシャルロッテがぼそりと言葉を発した。
「…ほんとにキュミラス様と知り合いだったんだね。」
「図書室でちょっと挨拶するくらいだよ。」
「ああ、そういやお前、ラクラエンにいた頃から休み時間の度に図書室行ってたもんな。」
ディアンが言ってるのは、小さい頃この世界について調べてた時の事だな。時々遊びの誘い断って図書室行ってたの知ってたのか。
「キュミラス様、結構気さくな方だって聞いてたけど、本当なんだね。」
シャルロッテの話によると、以前同級生が図書室で調べ物をしていたら、通りかかったキュミラスさんに話しかけられた事があったとのこと。
他にも、自主練をしていたらキュミラスさんが来てアドバイスをしてくれたとか、校庭で軽いけがをした子の怪我をその場で治してくれたとか。そういう噂を聞いたことがあるらしい。
「そうみたいだな。しっかし、近くで見ると迫力ヤベェな。見たか、あの肉体。騎士団でもいないぞ、あのレベル。」
ま、まあ、魔法使い離れしてるよね。アレ。
絶対肉弾戦も無茶苦茶強いよね。それでいて魔法も凄いって……恐ろしすぎる。
「宮廷魔術師ってすげえな。」
「あの口ぶりだと、サラに宮廷魔術師になってほしそうじゃない……と、いうことは、サラも宮廷魔術師になったら、ああなるのかな。」
「いや、勘弁してください。」
二人して私を見るんじゃない。
そんなにガチムチの私が見たいのか、この双子は。
「まあ、それはそれは冗談として…あ、」
「シャルロッテぇぇ!」
二人に地味にからかわれ、釈然としない私がぬるくなったお茶をすすってると、突然何かがシャルロッテに激突…ではなくて、飛びついた。
黒い短めの髪…ラディエルさんだ。
彼女にもお祝いの言葉を、と思ったがそれにしても様子が変だ。
なんか、いつもの元気がない気がする。
いや、体自体は元気そうだけどね。なんというか、雰囲気がね。
「はぁ……。ラディ、どうしたの。」
「どうしようぅぅぅ、……。」
とりあえず隣に座らせて宥めるシャルロッテ。
だが、ラディエルさんはシャルロッテにしがみついたままだ。
その様子に私はちょっとピンとくる。
あ、これ、もしかして。




