昔話をしようか
(まあ、なんとなくは。)
「ふふ、よくわかったわね。」
(狂王アッシュの話、前精霊さん達が言ってた時に、もしかしたらって。)
「それで気づいたの。やっぱり貴女凄いわね。」
褒められた。少し複雑な気分だ。
少し居心地の悪い思いをしながら、ソワソワ座りなおしていると、ルダ様は窓の外を眺めながら懐かしそうに微笑んだ。
「そ。私、ずっとずっと前には、ウィチードにいたこともあったの。48代国王のアッシュ・トゥラ・ウィチードの時ね。」
狂王アッシュ。王国の技術が衰退し始めたころの王様だ。
衰退し始めたからこそ、アッシュ王はかつて王国で盛んに作られていたヤバい魔道具作りに躍起になっていたと、そう習っている。
「その時まで私は、ただの光の精霊だった。ちょっと他の子より力があるくらいの。」
「…。」
「精霊神が精霊を生み出しているけど、時々リーダーというか、少し力の強いのが出るのよ。でも別に珍しくないわ。精霊の宿る木って結構聞くでしょ?」
(あー、聞いたことあるような)
「私もウィチードにいたころは、神殿やそれこそ今回見た聖地と言われる場所にいて、人間の言葉を聞いたり、時々力を貸していたりしていたわ。」
(おお…神の遣いって感じですね!)
「ふふ、面白い事言うわね。そんな風に、私は人間の暮らしを見てたわ。そしてそのアッシュ王の時代。私はウィチードで近衛騎士団の団長をやってた一人の男性と出会ったの。」
(…もしかして、その人が。)
「そう。カナハのご先祖よ。驚いたわ。彼は私が見えたのよ!でも、彼は私しか見えなかった。貴女やキュミラスとはそこが違うわね。」
その時の事を思い出したのだろうか、少し興奮した様子でルダ様は話す。
そしてどうやらカナハさんのご先祖さんも、カナハさんと同じように見えるのはルダ様限定だったらしい。
「運命と思った。ふふ、思っちゃったの。」
(まあ、そう思いますよね。私も同じ立場だったらそう思うと思います。)
これは正直な気持ちだ。
他の人には見えない存在が自分だけに見えたら、そりゃ特別な何かを感じるだろう。その逆もまた然りだ。
「そうよね、そういうもんよね。だから、どんなに時が経っても忘れないわ。彼の名前はマイロ。マイロ・バンデル。……それがカナハのご先祖の名よ。」
そう言って微笑むルダ様の表情は、先ほどのカナハさんを見る目と同じ…いや、ちょっと違うな。
ちょっと、悲しげだ。見ているだけで私の胸も締め付けられるような。
(そのマイロさんも、王族とか貴族出身だったんですか?)
「いいえ。マイロはただの冒険者だったわ。アッシュとは若い時に一緒にダンジョンに潜った時に出会ってね。それから親交が続いていたの。そして王位を継ぐことになった時、信頼できる部下が少なかったアッシュは近衛騎士団長にマイロを推挙したのよ。その前のゴタゴタで貴族の数も減ってたし。」
なるほど。ある意味混乱期だったからこそ、できた人事ともいえるのか。
しかし、ダンジョン?ゴタゴタ?
「元々、研究者気質だったのよ。アッシュって。ダンジョンに籠って色々やるのが好きだったの。ふふ、それこそヒューナみたいに。王位を継がずに、そのまま好きな研究を続けていたら、そっちの方面で大成してたんじゃないかしら。」
あー、だから、ダンジョンに籠って云々って精霊さん達が言ってたのか。今思い出した。
後の世には狂気の王としてしか伝わっていないからな。アッシュ王って。
「アッシュも可哀想な子だったわ。上にお兄さんがたくさんいたし、第一夫人の子じゃない彼は本来なら王位を継ぐような立場じゃなかったのよ。それが王位争奪のゴタゴタとか事故でみんな死んじゃってね。」
(うわー。)
ゴタゴタはそっちのゴタゴタか。なんか、嫌な展開になってきた。雲行きが怪しいというか。
「最終的に彼と弟一人だけが残ったの。その弟は優秀で、優しい子でね。アッシュは本当に彼を可愛がって、王に推していたんだけどね……でもアッシュとは母親が違ったの。そのせいか周りの貴族連中たちはそうじゃなくって。」
(……。)
「…子供に話す内容じゃないかもしれないけど、最終的に弟は妻子共々殺されたの。それがまた、酷い殺され方でね。アッシュは嘆き、悲しんだわ。それからよ。アッシュはどんどん正気を失って、古代魔術に傾倒していったわ。」
酷い殺され方って…可愛がってた弟がそんな殺され方したら、そりゃ、病むわ。アッシュ王…。
学校で習った時、ただのヤバイ王様だと思ってごめんなさい。周りの貴族連中は滅びよ。
「しかも最悪なことに、アッシュの弟一家を殺したのがアッシュの幼いころからの側近だったことが後々判明してね。」
(え。)
「それが最後の引き金になって、もう暴走しちゃってね。」
うえええ、挙句の果てにそれかい!!なんか、前世の歴史とかでもあったね!そーゆーの。その世界でも、どの国でも王族にドロドロした権力争いは付き物なのかもしれない。
そう考えると神様たち、私を一般庶民に転生させてくれてありがとう。何かの間違いで王族なんかに生まれ変わってたら、私みたいなポンコツは即死だろう。
「その後は知ってるんじゃない?マイロは魔人化していたアッシュを倒して、出奔したわ。だけど、それもアッシュにかつて頼まれてたことだったの。自分がもし、道を誤ることがあれば容赦なく自分を斬ってくれって。」
(ええっ!?よ、予想してたんですかねぇ、アッシュ王。)
「かもね。マイロに貴重な宝剣を与えてまで頼んでいたから。あの剣だったから、魔人化していたアッシュを打ち滅ぼせたのよ。これでわかるでしょ?アッシュは愚かな王ではなかったわ。ただ、王には向いていなかったの。本人も自覚していたから、自分は王の器ではないと常々言っていたのよ。」
(ああ、だから弟さんを王様に推してたんですね。)
「そうなんでしょうね。」
話し終えて、私は息をふーっと深く吐く。
なんか、歯車がひとつ狂っただけで、っていう風にどんどん悪くなっていったって感じだな。
そして、私はそこでふと気づく。
(…ん、もしかして、ルダ様の祠にあった剣って。)
「そう。その宝剣。私が村を出る時はすでに朽ち果ててボロボロだったけど、心金は純度の高い魔鋼だったのよ。あれはそう簡単に朽ちないから。今、カナハが使ってる剣は、その心金を使って打ってもらったものなの。」
その言葉に、自然と視線がカナハさんの腰の剣に向く。
そんな貴重な剣だったのか!いや、有名傭兵団の、中心メンバーがそんな半端な武器使ってるとは思ってなかったけど。
滅びた魔導王国の宝剣って、かなりレア装備だよね?国宝レベルじゃね?
まさか国も一傭兵団員がそんな剣を持っているとは思うまい。
(その割に、地味ですね。)
「ハデにする理由がないもの。」
(あ、納得。)
そう言いあって笑いあう私とルダ様。
ふと外を見れば、徐々にすれ違う馬車や人が増えてくる。
王都はもうすぐだ。




