帰り道と、思い出と
「疲れたでしょ、サラ。」
(まあ、そりゃ。はい。)
結局もう一泊して次の日。
ルダ様の言葉に、私は正直に答える。まあ、ぐったりと車の座席に腰を下ろしているからね。
隣では腕組をしたカナハさんが目をつむってじっとしている。まあ、疲れるよね。というわけで、寝ているっぽいカナハさんに気を使って私も念話で返事をする。
いやー、流石に魔物との戦闘ありの登山は疲れた。精神的にも肉体的にも。
まさか学生時代にこんな体験をするとは…。
上級学校に行くと、宮廷魔術師団や騎士団と一緒に討伐作戦をこなすこともあるらしいけど…まさか…ふふ……(疲れてます)。
あの後、私とカナハさんは引き続きヒューナさんの調査を手伝った。
パッツェロ山中腹で見つけたあの泉。そしてそれを生み出した魔石にヒューナさんは大興奮だった。
一応この山に神殿跡があるということは今までも知られていたのだけれど、それは山のてっぺん付近にある遺跡の事だったらしい。
だからそっちも調査する!と気合の入ったヒューナさんに引っ張られて私たちは頂上まで登った。ええ。登りましたよ。途中で魔物に遭遇しながらもね!!!
泉周辺で出た魔物と同じかそれ以上に強力な魔物が出た。
ダークリザードとか、ダークウルフとか。ジャイアントスパイダーには寒気がした。だって、自動車サイズの蜘蛛ですよ?昆虫が極端に苦手なわけじゃない私でも流石にちょっとアレです。
まあ、その辺はお二人のおかげで何の問題も無かったのですが。
素材を嬉々として剥ぎ取るヒューナさんにドン引きしたのは内緒です。
さて、山の頂上の神殿跡と言われていたところには朽ち果てた建物の跡がかろうじて残る程度で、まさに何も価値のありそうなものは無い、といった状態でした。まあ、これじゃ調査の価値無し!と切り捨てられても無理ないわ。
尤も、当時を知るルダ様曰く、何もないのはおかしい!とのこと。おそらくウィチード崩壊時の混乱に乗じて、ご神体とか、魔石とか、価値のありそうなものは根こそぎ持ち去られたんじゃないか、と。
なるほど、火事場泥棒と同じ感覚なのかね。どの世界でもそういう輩は現れるもんなのか。まったく、けしからん。
それでも、中腹には例の魔石がある。山に近づいただけで闇の魔力を感じたように、光の魔力も山の外から分かったのでは?
なのにどうして今まであの泉も魔石も誰にも気づかれなかったのか?……と私はヒューナさんに聞いてみたんだけど。
「山全体が、微弱な魔力を発しているってのは結構あるんだよ。だから、それと同じと思われたんじゃないかな。」
ヒューナさんの推測では、例の魔人が自分の魔力を流し込んだことで、魔石から放出される魔力の量自体が元の量より増えているのではないか?とのこと。
どうやらあのでかい魔石は、魔力を一気に放出するタイプではなく、じわりじわりと長い間安定した少量の魔力を吐き出すタイプである可能性が高いらしい。
成程、だからそれこそ長い年月、大量の水を聖水として変え続けることができたのか。
「そんな状態だから浄化しても魔石自体の質が変わってしまってる可能性があるんだ。噴水の水もどうなることやら…。」
魔人め、余計なことを……と舌打ちするヒューナさんの顔は、御父上であるキュミラスさんを髣髴とさせる渋い顔になってしまっていた。
それにしても心配なのは、学校の方はどうなってるんだろう。
キュミラスさんに(半ば)強引にどうにかするようにヒューナさんが頼んでたみたいだけど。本当に大丈夫か!?
むしろ先生より、周りの友人たちへの説明をどうしようかと今更悩んでいる。
特に鋭い女、グレッチェンちゃん辺りには誤魔化しきれない気がする。
「なんか、悩んでる様子ね。」
(いや…まさか王都の噴水調査のお手伝いがパッツェロ登山になってしまうとは。しかも泊りがけで。)
日帰りのはずが、まさかの二泊三日だ。しかも何の準備もなしに。
「その辺は………まあ、お疲れ様。ふふ。カナハがこんなじゃ無けりゃね。」
目を閉じたままのカナハさんを見るルダ様の視線は、本当にお姉さんとか、お母さんみたいに優しい。
まあ、何らかの事情で故郷に居られなくなったカナハさんをずっと見守ってきたんだから、当然かもしれない。
カナハさんの年齢は不明だけど、まあ、10年以上は一緒にいるのではないかと思われる。
(まあ、最後の方はカナハさんもヒューナさんにだいぶ慣れた様子ですよね。良かった、良かった。)
最初こそ全くもって全然話さなかったカナハさんだけど、一緒に行動するうち…特に戦闘を重ねるたびに慣れていった様子だった。
最終的には私に対する態度と同じ程度になっていた。まあ、それでも無口に変わりは無いんだけど。
そういえば、私には初対面の時から無口ではあるがだんまりではなかったな。私みたいな地味な子供は大丈夫だけど、綺麗なお姉さん相手だとやっぱり緊張するのかな。
ルダ様に軽い調子でそんな風に聞いてみると、ルダ様はちょっと難しい表情でカナハさんの髪をなでる。
「ていうより、カナハは年上の女性がちょっと苦手なのよ。特に美人で物静かな女性らしいタイプ。」
そこでチラリ、と運転をするヒューナさんに視線を向けるルダ様。聞こえないはずだけど、気分的な物だろうか。念話の声が少し小さくなる。
「彼女に対しても最初はそんな風に警戒してたみたいだけど……この調査でだいぶ慣れたみたいね。」
まあ、マジでヒューナさんは第一印象と中身のギャップが凄い。見た目こそ、クールですらっとしたできる女風美女だけど、中身は今ルダ様が言ってた物静かで女性らしいタイプとは正反対だろう。
だって物静かで女性らしいタイプの人は、調査のために強行軍したりとか、泊る所が近くにないから野宿するとか、魔法で魔物をバンバン仕留めるとか…選択肢に上がることはまずないだろうから。
でも、人任せにしないで、それでいて頼るべきところは頼るから、嫌じゃないんだよね。いや、強引ではあるけど。
憎めないタイプとでも言うのか。それでいてきっちり結果を出すという…。ある意味幸運な人なのかもね。
「この子も、あの人も……苦労するのよねぇ。」
と、そこで懐かしむように目を細め、遠くを見るルダ様。
この子とは、カナハさんの事だろう。
(あの人……。)
と、言うことは…。
「だいたい感づいているんじゃないの?この子のご先祖の事よ。」
うぉう、ストレートに来たか!
一瞬しらばっくれようかと思ったけど、正直ここでそうする意味はぶっちゃけ、無いな。
私は覚悟を決め、うなづいた。




