原因判明!
「じゃあ行くね。とりゃっ!」
ヒューナさんはためらうことなく、先制攻撃を放つ。
はい、当然ながら呪文なんて使いませんね。
スタンダード?に炎の魔法にするのかと思いきや、氷だった。無数の氷の槍が魔物の頭上から降り注ぐ。
もしかして、森林火災を避けるために氷なのだろうか。そうだとしたら、突っ走っているように見えて根っこの部分は冷静な人なのかもしれない。
私は、一応全員に防御魔法をかけた。攻撃が来ませんように。お祈りお祈り。
「討ち漏らしはお願いね!」
「…わかった。」
短く答えた直後、足に補助魔法を施したカナハさんが体勢を低くして飛び出す。
そして魔物の群れに飛び込んだかと思えば、目にも止まらぬ速さで次々と倒していく。
流れるような動作に、私はビビるのも忘れて感心する。知ってたけどマジ強いな。
文字通り作業のように、魔物が切り伏せられていくのだから。
「さっすが。」
軽口を叩きながらも、ヒューナさんは次に空中の鳥っぽい魔物……ウインドイーグルかな?を小さめの氷の矢で撃ち落とす。
こっちも凄いな。無駄打ちが一切無いんだもん。…正直、そこらの冒険者とかより全然強いでしょ、この人たち。
分かっちゃいたけど、私いらないんじゃないかな。まあ、最初から役に立つなんて思っちゃいないんだけどね。
「よし、もういないね。お疲れ。」
「…ああ。」
周囲の魔物を一掃した後、私たちは魔物たちが群がっていたところに近づく。
足元には魔物の残骸があるけれど、ヒューナさんが風の魔法で邪魔にならないところにまとめて吹き飛ばして文字通り一掃する。おお、こういう使い方もあるのか。
「この泉……これもあの噴水と同じ状態か…うーん、でもやっぱりここ自体に魔力の固まってるところはないみたいだから、ここが大元ではなさそうだね。」
「ということは、この元を探すと。」
「うん。まあ、大体見当は付いてるんだけどね。」
そこで皆、示し合わせたようにある方角に顔を向ける。
ここより少し高くなっている場所。崖の上と言っていいだろう。
この距離なら私にもはっきりわかる。強い闇の気配はこの崖を上がって、更に奥だ。
「問題はどう行くかだね。さて…。」
流石のヒューナさんもこのまま登ります!とはいかないみたいだ。確かに、ちょっとよじ登るにはキツイ段差である。どうするんだろう。回り道を更に探すのかな?
どうするんだろう、と私がキョロキョロしている間に、ヒューナさんは壁のようにそびえたつ崖に近づき、細かく調べ始める。
そして周辺の足元をグッグッと何回か踏み込んでいたかと思えばやがてその場でしゃがみこみ、今度は手で足元をガサガサと探り始めた。何かあったのかな?
「どうしました?」
「見て。もしかしたらこれは階段じゃないかな。」
「…ほんとですね。」
指さされた方を見ると、自然ではありえない位ピシッとした断面の石が足元に埋まっている。
なんかこれも見おぼえある。そうそう、神社とかお寺にある石段と一緒だ。
ということは、ここが神殿跡地だろうか。
私とカナハさんも手伝って少しその周辺を探ってみると、草に埋もれた同じような石がいくつも見つかった。
「どうやら正解みたい。」
「凄い……。」
石は小さいものから順に並べられているようだ。これをたどっていけば、この高さの崖も楽に乗り越えられるだろう。ていうか、普通に階段である。
「神殿は、神聖な湧き水を守るように作られたのかもね。よし、行こう。」
ヒューナさんはそう宣言すると、あっという間にその石段らしきものを踏み越えて進んでいく。途中、流石に長年の風雨で崩れてしまい危険な個所もあったけれど、ヒューナさんはものともせず補助魔法を駆使し軽々と飛び越えていく。
ああ、戦闘だけじゃなくてこういう使い方もできるのか。さっきの風魔法と言い、本当に参考になる。
とはいえ、いきなりやるのはちょっと怖い…と思っていたら。
「…すまん。」
「え?ぅお!?」
カナハさんは荷物のように私を一瞬で抱き上げると、そのまま段差をひょいっと飛び越えた。
ちなみにこれ、例えじゃない。
マジで荷物抱きです。肩に担ぐアレです。
「カナハ、あんたねぇ…。」
ルダ様の呆れる声が聞こえるが、まあ、助かった。同じように補助魔法使ってあの段差を突破しろって言われたらどうしようかと思ってたので。
それにお姫様抱っことかされても困る。色々な意味で。
「ほら、あったよ!!」
カナハさんに崖の上までお届けされてすぐに、少し離れた所からヒューナさんのはしゃぐ声が聞こえてきた。
おお、見つけたのか、例の水源。流石プロだ。
「この泉っぽいね!魔力が他より強いよ!!」
急いで私達もそこに向かうと、ブンブンと手を振って私達を呼ぶヒューナさんの姿。テンション超上がってる。
なんかうれしそうだなぁと半ば呆れながら、私達も示されたところを並んで覗き込んだ。
「おおっ、」
「ああ、これだわね…。」
「………わずかに光の魔力が残っているな。」
先ほどの泉よりずっと小さな泉。
そこには大きな天然の魔石が水に沈んでいた。
闇の魔力を纏ってはいるが、注意してみるとカナハさんの言う通り奥の方に光の魔力が残っているのが感じられる。
ということは、聖属性の魔石が湧き水の水源にあったため、聖水が生み出されていた、が正解だったんだね。
「ふーん、王都の方向からすると、さっきの泉とは別に地下水路が引いてあるんだね。」
「そう考えると、凄い距離ですね。」
「そうなんだよ。ウィチードの遺跡とかにも結構あるんだよ。この時代にこの規模の工事したの!??っていうのが。」
これもその類だね、と、興奮を隠しきれない様子でヒューナさんが水路があると思われる方向を目で追う。まあ、専門家としてはさぞかし興味深いことだろう。
私は、水をこんこんを吐き出し続けるその小さな泉を眺める。
王都からの距離を考えると、湧出量はかなり多そうだ。溜まって溢れる様子がないから、見えないだけで下の方に水路があるのだろう。
「あの魔人……王都のあの場所から、ここまで闇の魔力逆流させて送り込むって考えると…つくづく人間業じゃないね。」
まあ、既に人間やめてたけどさ。
そう呟きながら、ヒューナさんは懐から再び魔道具を取りだした。例の通信機だね。
「おつかれさまです。早速ですが、大元、見つけました。はい。パッツェロ山の中腹、遺跡と思われる場所です。はい。はい。」
今までの雰囲気とはガラリと変わって、真面目な様子で通信をするヒューナさん。お相手は上司かな。
「専門部隊の派遣をお願いします。はい。応急処置だけして、あとは周辺の調査をして戻ります。」
報告を終えるとヒューナさんは通信を切り、私達に向きなおる。
「さて、本格的な解呪は専門部隊にお願いするとして、一応応急処置だけしていくね。サラちゃん、手伝ってもらえる?」
「はい。」
「この魔石、そこに置いて。もうちょっと右。うん、そこでいいよ。」
光の魔力を纏った魔石を渡されて、場所の指定を受ける。
ちなみに光の魔石は超高価である。触るのは私も初めてだ。正直緊張する。
「これは、光の魔石を砕いたやつね。」
瓶からキラキラした粉を出して、置いた魔石の間をつなぐようにさらさらと線を引くように落としていく。
「サラちゃん、カナハさん、それぞれ魔石に触れて、魔力流してくれるかな。」
「はい。」
「…。」
魔石と、撒いた粉が淡く輝き、中心の石を含む囲まれた部分に光の魔力が充満していく。心なしか水中にある魔石の闇の魔力が弱まったように感じる。
「よし。これ以上の浸食は防げるはず。」
満足そうな顔をしたヒューナさん。腰に手を当て大きく深呼吸をした後、周囲を見渡している。
そして、私達に向きあうと、やたらいい笑顔で言い放った。
「と、いうわけで、日が暮れるまで調査、付き合ってくれる?」
「…そうくると思ってました。」
たった二日間の付き合いだけど、なんとなくヒューナさんの性格がわかってきた私達である。
私はカナハさんと無言のまま顔を見合わせると、しょうがないといった様子でうなづくのであった。




