記録と記憶
「あなたたち、いつ頃か覚えてる?」
「えー?ハルエーク?どれ?」
「トルキアとこの大陸の間にあった町よ。」
「トルキアって、あの島だよね!」
「コーディー様のところ!」
「ずっとあそこにいるの!!」
どうやら記憶が曖昧らしいルダ様が、周囲にふよふよしている精霊さん達に尋ねる……が、精霊さん達の話はやはりグリグリと脱線していく。
これはもうわざとやってるんじゃないか?レベルに脱線していく。おい!!!てか、コーディー様って誰じゃ!
「……。」
「私が、今みたいな光の精霊として覚醒する前のことだからね。ごめんなさい。」
「いえ……。」
謝られた。いや、別にルダ様が悪いわけじゃない。
しかし、知れば知るほど精霊という存在が謎だ。いや、今それを考えてもしょうがないんだけど。
「もしかしたら、ウィチードができる前かもしれないわね。カッツもアーバンもウィチードができてしばらくたってからの魔王だし。そうなると……魔王ダッズの頃かしら。力の規模からしても。」
魔王ダッズ?はて?
ちなみに魔王カッツとアーバンは知ってる。
魔王カッツはわが故郷、ラクラエンにある分断の森を作った魔王で、魔王アーバンは大陸を破壊しまくり国を二つ滅ぼしたけど、最後は勇者たちに倒されるというテンプレのような魔王だ。
とにかくルダ様の言葉を、そっくりそのままヒューナさんに伝える私。まあ、それが役目なので。
「魔王ダッズの時代じゃないかと。」
「魔王ダッズ?」
聞いたことない名前だ、と眉間に皺を寄せるヒューナさん。流石に1000年を軽く超える程前の人名は記録に残っていないのかも。
ウィチード関係の資料は結構きっちり残っているらしいけど、成立前の小国が乱立していた時代とかはその後の戦争とか、文化技術の未発達のせいでろくに記録が残っていないらしい。
「あのねー、ダッズはねー、みんな殺しちゃったの!」
「町もね、いっぱい無くなったの…。」
精霊さん達が、口々に当時の事を話してくれる。情報量が多すぎて半分以上聞き取れないけど。
「町も人もたくさんなくなったらしいですが……。」
「1000年以上前で魔王、大規模な破壊活動…となると、殲滅の魔王の名前なのかな?ダッズって。」
「殲滅の魔王って、あの?」
「そう。あの。」
うーわ、殲滅の魔王ってアレだ。歴史でも絶対に習うアレだ。
この大陸どころかそれこそ世界中を破壊しまくり、殺しまくったっていう魔王だね。一説によると人口は約半分になったとか。混血が進んだのもそれが原因と言われている。
つまり、最悪と言われる魔王だ。
「ダッズはね、龍といっしょだったんだよ!!」
「おっきいの!」
「黒いの!!」
「……大きくて、黒い龍をと一緒だったらしいです。」
「龍…?しかも黒い……なるほど、大陸が沈むほどの大惨事といい…魔王の仕業なら……あり得る話だね。確か、ハルエークから見つかった遺跡に龍を彫った物があったはず…。ふむふむ、しかし、殲滅の魔王の名前がまさか今判明するとは。」
意外な収穫だ、とあごをさするヒューナさん。
ついそこでキュミラスさんとか全部知ってるんじゃ、と口にしかけたけど、やめた。
そりゃそーだ。私とかキュミラスさんみたいな精霊さんと話せる人が彼らから情報を得たとしても、ちゃんとした記録が見つからなきゃ他の人からしたらただの妄言だ。
それをわかってるから、キュミラスさんはヒューナさんに特に言わないんだろう。ヒントくらいは出したとしても。
それに大体彼らの情報は広く深すぎる。必要な情報を特定するのが一番困難なのだ。
そしてたぶん、そんな情報を下手にヒューナさんに与えた、らそれこそもっと遺跡にのめりこんでしまうだろう。
親としたら、できればそれは避けたいだろうなぁ。
と、既に自分の世界に入り込んでブツブツ言い始めたヒューナさんの姿を見ながら私はそんなことを考えていた。
「闇の魔力があっちの方から来てるね。」
翌日、思ったよりぐっすり眠った私は食事をとりながら皆と今日の予定について相談をしていた。
ちなみに、昨日私が寝る時まだブツブツ色々考え込んでいたヒューナさん、思ったより全然元気だ。流石というか、なんというか。旅慣れているとでも表現すればいいのか。
「となると、ルートとしては西回りかな。」
「そうね。そっちの方が闇の魔力の気配が強いわ。」
ヒューナさんとルダ様の意見が一致し、カナハさんも無言でうなづく。
私?私は皆さんの意見に従うだけです。だってまだ学生だもの。
テキパキと後始末を終え、とうとう出発の時間になった。
ああ、登山だ、これ。前世の子供時代に何回か地元の山に登らされたのを思い出す。
前世と違うのは、そこに魔物の出現の恐れと、探索というエッセンスが加わったところだろうか。
…うん、別物だな。それ。
「あ、」
「ま、魔物。」
そんなことを考えながら一人でテンションを下げてると、目の前にフツーに魔物が現れる。
ああ、学校の授業で見る小さい魔物と違って、でかい!コワイ!!
大型犬レベルの大きさはある。いや、顔つきは犬…というか、狼?ハイエナ?ってかんじの魔物だ。角あるけど。
「一角ウルフか。雑魚だね。」
ヒューナさんが言うが早いか、魔物がこちらに気づき牙をむいて飛び掛かってくる…が、ヒューナさんは、手に持っていた短めの剣でそれを切り払う。
「ギャッ!」
「一応道なのに普通に魔物が出てくるみたいだね。人がほとんど来ないのかな?」
「ここはダンジョン扱いとかされていないんですか?」
「無いね。遺跡とはみなされてなかったし、資源も無いし、特に強い魔物が出るとも聞いたことない。」
要するに、ただの山扱いだね、とヒューナさんは魔物の死体を道路の脇に投げる。
ちなみに、討伐対象だったり、素材目的だったりで持ち帰る必要がある場合を除き、魔物の死体は倒した後も基本そのままだ。
流石に人通りの多い所ところでは、死体目当てで出る魔物対策や衛生問題があるからそのまま放置はしないけど、こういうところでは勝手に他の魔物や動物が処理してくれる。
さて、強い皆さんのおかげで、サクサクと目的地に近づいていく。
ああ、だんだん魔力が強まっているね。と、思っていると、木々の向こうに開けた場所があるのが見えてくる。今までとは様子の違う場所のようだ。
「おっと、ちょっと注意しないと、かな。」
「……ああ。」
二人に合わせて私も足を止める。
うん。闇の魔力が湧いているのもあるけど、魔物の魔力も感じるね。
恐る恐る木々の間からその場の様子を窺う私。
「おお…。」
その光景に、思わずため息がこぼれる。
そこはまるで、童話に出てくるシーンのようだった。
木々の合間から日が差し、中心にある泉の水面はキラキラと輝いている。
短く生えた草に囲まれた水辺には、様々な生き物が争うことも無くただ群がっている。まさに憩いの場といったところか。
まあ実際のところは、泉の水は闇の魔力を含んでいるようなので、実際はそんなに暗くないはずなのに、なんか辺り一帯どよーんとした感じなんだけどね。
非常に残念な泉である。
「……多いな。」
そして問題は、そこにいる魔物の種類だ。先ほどの一角ウルフもいるけど、それだけじゃない。
例のロックベアレベルに危険と言われている魔物まで普通にいるみたいだ。
「ほんとに。魔物がいるにしても、種類の違う魔物があんなふうに群れるのは不自然だね。」
「まるで乾いた土地で貴重な水辺に集まってるみたい。」
サバンナとかの映像で見たことがある。わずかな水場にいろんな動物が集まってるの。
「お、サラちゃん鋭いね。たぶんあれ、魔力に引き寄せられてるんだよ。」
「え、もしかして、魔力を取り込むんですか?」
「知能の高い魔物はそうかも。低級な魔物は純粋に引き寄せられる。んで魔力に中てられて強化されたりする。」
「へ、へぇー。」
なんか、中てられて強化って、ある意味そっちの方が危険な気がする。何するか分かんない感じが特に。
「うーん、ここも確かに気になるんだけど、肝心の闇の魔力は上の方が更に濃そうなんだよねー。そっちに向かうにもとりあえずこいつらが邪魔だし、危険だね。よし、倒そう。」
「え、アレを?」
「うん。そんなに強いヤツいないし。」
…ヒューナさんはそう言うけど、私が見てわかるヤツだけでも
「マッドウルフ。」
「うん。」
「ブラウンベア。」
「うんうん。」
「サーベルタイガー。」
「あー、惜しい。ポイズンタイガーだね。」
最後は不正解か。
ちなみに私が読み上げた中には前世で普通に存在してたのと同じ名前のもあるけど、見た目は違う。似てたりするけど色々違う。正直最初は混乱した。
まあいい、とにかくどれもこれも初心者向けではない魔物って事。
だが、カナハさんは当然として、ヒューナさんもそれが何か?みたいな反応をしている。マジかよ…。
「私が攻撃魔法ぶち込んでいい?」
「…ああ。怯んだところに斬りこむ。」
「よろしく頼みます。ふふ、サラちゃん、援護頼んだよ。」
「ううう、頑張ります…。」
ここまで来たらやるしかない。
まあ、さりげなくカナハさんが私を背後にかばってくれてるから大丈夫だろう……たぶん。まあ、精霊センサーも一応あることはあるしね。




