様々な過去
「ううん、お世辞とか冗談じゃなくて本当なんだ。私達では本当の意味での理解はできないから。」
ヒューナさんの表情は運転中だから見えないけれど、声の様子から真剣さがわかる。
だから私もそれ以上何か言うのはやめた。
「サラちゃんが入学したころのはずだよ。帰省した時、あの父が嬉しそうに同志が現れたって話してたんだ。」
ひぃぃ、前本人にも言われたけど、まさかご家族にまで同志なんて言ってたのか!キュミラスさん!
内心修羅場の私に気づかず、ヒューナさんは続ける。
「父は子供の頃そのことでだいぶ苦労してたみたいだから、サラちゃんのことも心配だったみたい。」
「ああ…以前おっしゃってましたね。だいぶ苦労なさったと。」
「うん。凄く大変だったみたい。周りの人に言っても誰も理解してくれないのは辛いよね。精霊自体は見えない物っていうのが常識だから。」
まあ、そうなんだよね。魔法を使う関係で皆精霊の存在自体は疑っていないけど、人と同じようにコミュニケーションをとったり、見ることができるという対象としては認識していないんだよなぁ。
前世で言う原子とか?そういう感覚に近いのかも。知ってるし習うけど、実際目にそれ自体は見えないみたいな。
「そう自分に言い聞かせても、やっぱり精霊は相変わらず見えるし聞こえるし…、だけど、それを周りに言ったところで……ねえ。奇異の目で見られたり、色々言われたりで散々だったみたい。」
ああ、確かに他の人に見えない何かと話してたら、そりゃ変な目で見られるよね。なんとなく想像つく。だから私も口に出さないよう気を付けてたんだ。
「だから以前私にも能力について話す相手は慎重に選べとアドバイスしてくれたんですね。ご本人もご家族とガラドゥール老師と、あと今の陛下にしかご自分の能力について話してないのだとおっしゃってました。」
「んー、家族と言っても正確には母と弟と私だね。父の両親はわかってくれなかったらしいし。」
「え!?」
ヒューナさんの言葉に私は心底びっくりする。
ご両親は知らないのか!?あ、でもそういえば、以前私とその話をしたときご両親については言っていなかった気がする。ということは……私の思い込みか。いやー、当然親は知ってるものだと。
「だから父は幼い頃かなり悩んだんだって。王都でガラドゥール老師に会わなかったらきっと自分は腐ってしまってだろうって、そう言ってたなぁ。」
「…そう、ですか。」
「うちの祖父は堅物だからね。がんこじじい。祖母はもう亡くなってるけど、そっちも一緒だったみたい。だから今も父は実家とは疎遠なの。蔑ろにはしてないけどね。」
あー、元々キュミラスさんの話を信じてくれなかったならそれも納得。しかし、今の地位を得てからも同じ状態ってことは、もうキュミラスさんも理解をぶん投げてるのかも。
しっかし、子供の時に両親からそんな扱い受けたら私だったら立ち直れないかも。他が信じなくても、親は信じてやれよ…。
まあ、当の私も両親には何も言わなかったけどさ。
いや、私は信じてるよ。今の両親の事。もし自分の能力の事を正直に言ってたとしても、きっと信じてくれただろうって。
でも、万が一ってこともある。だから私は周囲の反応を見た結果、何も言わなかったんだ。
そして今の話を聞いて改めて思ったよ。本当、不用意に口にしなくて良かったなと。ずるいのかもしれないけれど。
キュミラスさんの幼少時に同情しつつそんな話をしていると、やがて、ヒューナさんがわざとらしいほどに明るい声を上げた。
「まあ、暗い話はこのくらいにして。もうすぐ到着だよ。」
言われた通りに前方を見てみると、そこには高さこそ程々ではあるが、綺麗な円錐型をした美しい山が木々の合間から姿を現すところだった。
「おお。綺麗。」
「でしょ?」
「何百年ぶりかしら。」
ルダ様が懐かしー、と山を眺めながら微笑む。
……が、すぐに表情を曇らせる。
「でも、淀んでるわね…。」
近づくにつれてわかる、渦巻く闇の魔力。
だんだん私にもはっきりと感じ取れるくらいになってきた。
それはカナハさん、そしてヒューナさんも同じようで、どんどん二人の表情も険しくなっていく。
「これは、早く何とかしないとね。」
「そんなに危険ですか。」
「もちろん。今すぐにどうってことは無いけれど、問題はこの闇の魔力が王都に次々と流れ込んでいること。あんな風に結界をずっと張っておくわけにはいかないからね。」
まあ、コストも人手もかかるよね。早いとこ原因を絶たないと。
「あれ、でも今日はもう調査しないんですよね?」
当初の予測通り、現在はもう夕方だ。あと1時間ほどすれば日が落ちてしまう。
魔力の強さは周囲の環境にも左右される。
だから、闇の魔力を持つ魔物が強化される夜に、闇の力の強いダンジョンに行くのは自殺行為だと言われるのだ。
「もちろん。流石の私でも闇の魔物に会う可能性の高い場所にこれから行くなんて無茶はしないよ。」
「でも、この辺って宿とかあるんですか?」
だいぶ山には近づいている。
しかし、見た感じでは周辺に村などは無い。町など論外だ。
「え、このまま泊るよ?」
「え。」
何か問題でも?という表情でヒューナさんが首をかしげる。
あ、はい、もう何も言いません。
「私も一応上級魔術学校出てるんだけど、こーゆーフィールドワークの方が好きでね。だから今のところで働いてるの。」
「普段はハルエークの調査をなさってるんですっけ?」
「そ。失われた古代都市ハルエーク。ていうか、サラちゃん、そんな気遣わないでよー!タメ口で全然いいってー!」
子供なんだからさー、と私の背中をバンバン叩くヒューナさん。
ああ、細身の割に結構力が強い。流石、あのムッキムキのキュミラスさんのお嬢様である。
食事を終え明日の準備などを済ませた後、私達は車に積まれていた簡易テントのような物を張りその中で休んでいた。
こんなものまであるとは…町で新しく買っている様子は無かったから、常備してるんだろう。ほんとこの人こーゆーのに慣れてるんだな。
まあ、冒険者にとっては当たり前だろうし、カナハさんやルダ様も何も言わなかったから彼らも慣れてるのだろう。つまり、野営初心者は私だけだ。
ちなみに学校でも泊りがけの授業はあったけど、夜はちゃんとした建物で就寝した。むしろ前世のキャンプの方が余程今の状況に近いくらいだ。
「半分伝説化してますよね、ハルエークって。」
「100年くらい前までは本当に伝説上の都市だと思われてたんだよ。でも、トルキアの海岸に今の様式とは全く異なった遺物が打ち上げられてね。それで、本格的に研究が始まったの。」
へえ。昔は伝説化してたのか。アトランティスとかムーみたいな扱いだったのだろうか。
ちなみにトルキアとは、この大陸の隣にある小さな島国の事である。
「あ、そういえば、いい機会だ!ねえ、精霊さん達は何か知らないかな?」
「ん、ハルエークの事ですか?」
「そうそう。ルダ様、何かご存知ですか?ハルエークの事。」
横になったカナハさんのお腹の上に腰かけるように私たちの話を聞いていたルダ様だったが、うーんと唸り考え込む。
「…ハルエーク…聞いたころはあるけど……うーん、いつ頃に沈んだんだっけ?かなり昔よね?」
「え、た、たぶん。」
そう聞かれても、流石に名前は知ってても具体的にどのくらい前かはパっと思い出せない。
ここは専門家に聞こう。
「えと、ハルエークが沈んだって言われてるのっていつ頃でしたっけ?」
「正確には不明だけど、1000年以上経ってるはず。確か3代目くらいだったかな?その頃のウィチード王の記録に、失われた都市ハルエークの記述があったんだよね。そこから名前だけは知られてたの。」
「あ、そうなの?というと、ウィチードができた前後かぁ。あの頃は、大陸中めちゃくちゃだったからなぁ。」
懐かしそうに話すルダ様。時間の感覚のスケールが違い過ぎで訳が分からない。
ちなみに今使われている暦はウィチード建国年を元年としている。そして今年は1414年である。
「私が今の感じになったのはだいたい500年くらい前でしょ?えー、それより前だと…何があったけっけなぁ……。」
「…。」
だが、さりげなく呟かれたルダ様の言葉に胸がちょっとキュッっとする。
精霊さんが言ってた、狂王アッシュを倒した騎士団長さん。
カナハさんのご先祖じゃね?と思ったから後で調べたんだよね。狂王アッシュがいつ頃の王様だったかを。
そしたら今から大体500年前の王様だった。
今のルダ様の言葉からして、やっぱり私の考え、合ってるんじゃないか?
でも、それを本人?に聞いていいものか。
国を追放されたとしたら、いい話じゃないだろうし。
「ん?」
だが、そこで疑問が浮かぶ。
「ルダ様って、昔から今みたいな感じってわけじゃなかったんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
聞いてない!
光の精霊のリーダーみたいなものって言ってたから、最初からこーゆーもんだとばかり!!
「ふふ、色々あって、今みたいになってるのよ……まあ、その話は今度ね。」
「あ、はい。」
なんかはぐらかされたような気がするけど、確かに今はハルエークについてだ。
大陸の一部がそこだけすっぽ抜けるように沈むなんて、一体何が起こったというのか。




