山へ行こう
さて、皆でパッツェロ山まで行くことになったものの、ヒューナさんが言った通り簡単な準備は必要だ。途中の商店みたいなところでヒューナさんが車を止める。
「ほら、カナハも降りなさい。荷物があるでしょ。」
「……。」
ルダ様にせっつかれて、カナハさんが車から降りる。私が続いて降りようとすれば、当然のようにカナハさんが手を貸してくれた。
ほんと、今のカナハさんもそうだし、前にディアンの時も思ったけど騎士って大変だよな。こーゆーのが自然にできないと、高貴なご婦人とかからヒソヒソされるのかな。かわいそ。
「あ、皆も来る?」
「…手伝おう。」
「私も荷物持ち位なら。」
「ありがとう…とはいっても、そんなにたくさんは買わないけどね。いつもこの車で現場に行ってるから。」
ヒューナさん曰く、いつでもすぐ遺跡に向かったり場合によっては籠ったりできるように色々車に積んでいるらしい。
そ、そんなに遺跡が好きなんですね…。聞いてはいるけどさ。思った以上でしたよ、ほんと。
「とは言ってもね。ただ闇雲に荷物増やせばいいってもんじゃないから。」
なんか、旅に慣れた人ほど荷物が少ないっていう話を思い出した。なるほど、その地域でしか必要にならない物は、その都度用意しろって事か。
近くに町があるなら現地調達した方がいい場合もあるだろうし。
「いらっしゃいませ。」
ぞろぞろとお店に入っていうと、ニコニコしたやせ形のおじさん店員さんが出迎えてくれる。
このお店は、簡単だけど薬も置いてある道具屋さんのようだ。あ、武器もあるね。マニアックなものでなければこの店で全部揃っちゃいそうなラインナップだ。冒険者や旅人にとってはコンビニみたいに便利なお店なんじゃなかろうか。
「買うものとしては……うーん、靴は皆大丈夫だし、あー、上着があった方がいいね。程々の高さとはいえ、山だから。」
「……俺は持っている。」
「おお、流石傭兵団員。じゃあ、サラちゃんの分だね。だいじょーぶ。お代は後からあっちに請求するから。」
あっちというのは、キュミラスさん…というか、国だろう。流石抜け目ない。
「これくらいの厚みのある上着なら大丈夫だと思う。あとは…まあ、私と彼がいれば万が一魔物が出てきても大丈夫だと思うけど…一応武器用意しておくか。」
扱えるでしょ?と指さされた先には、短剣といっていいサイズの剣がたくさん置いてある。
「た、たぶん。」
魔術学校でも一応剣術や体術の授業はある。まあ、補助ぐらいの位置づけだからもちろん騎士学校のように本格的にやったりはしないのだが。
「どれがいい?」
「…いざという時の為だ。振るいやすい形状がいい。これはどうだ。」
カナハさんは傭兵という職業のせいか、武器を見るのが好きなのだろうか。さっきから武器を中心に眺めていたようだ。
そんなカナハさんが指さしたのは、大きめのナイフといったサイズだけど、先端に重心が来るような形をしたナイフだ。鉈みたいといえばいいのかな?
勧められて持ってみれば、思ったより持ちやすい。
「どお?グリップ太すぎたり、指に合わないとかない?」
「大丈夫ですね。」
「よし、これにしよう。材質も……少し魔鋼が混じってるかな。いいね。」
魔鋼は貴重な材料だが、魔力を通しやすいので魔法使いが持つ武器としては相性がいい。
恐る恐る値段を見るけど、あれ、思ったほどには高くない。いや、学生のお小遣いとしては十分お高いんだけどね。
魔鋼の含有量はそれほど多くないということか。まあでも、ただの鉄より優れているのは確かである。
あとは少し薬等を買い足して、私たちは店を後にする。
さて、これから長い旅路になりそうだ。
「じゃあ、出発するよ。ちゃんと座った?道中長いけどちょっと我慢してね。あ、そうそう。途中で休憩挟むけど、なんかあったら遠慮なく言ってね。」
あ、やっぱりこの世界でも連続の運転は良くないっていう感覚はあるんだね。
それにしても途中休憩か……この世界にも道の駅みたいのはあるのだろうか。
道の駅…なんか懐かしい響きだなー。そんな場合じゃないけど、お土産とか売ってる場所があるのかなー。
ご当地云々とかあるのかなー?
ヤバイ、ちょっと楽しみな自分がいる。
十数年ぶりの車の旅に、私はそんなことを考えていた。
「そうそう。そのまま…。」
「うーん。」
「相手の魔力を感じるの。そして波長を合わせて。」
「…よし。」
「おお!」
「どう?わかった?補助魔法も魔力の波長を合わせるとちょっとだけど効果が強まるの。」
途中でうとうとしたり、休憩をはさんだりしたものの、やっぱり約5時間は長かった。
あ、ちなみに道の駅はさすがに無かったけど、各地の名産品を売る売店みたいなのは街道沿いにありました。長くて広く整備されている道には結構あるらしいとのこと。ラクラエンから王都までの間には無かったものだからこういうのは新鮮だ。
さて、時間を持て余した私は、ヒューナさんからの勧めもあってルダ様からの特別授業を受けていた。
凄いね。普通の精霊さん達と違って、ふわっとした表現じゃなくてちゃんとわかりやすく教えてくれた。いや、本当に分かりやすかった。正直学校の先生以上かも。
素直に感動してお礼を言いまくってたら、周りの精霊さんがわちゃわちゃ文句言ってきたけどしょうがない。こればっかしはしょうがない。
「筋がいいじゃない。教えた甲斐があったわ。ふふ、補助魔法は任せたわよ。」
「あ、頑張ります。」
どうせ通常の戦闘には役に立たないんだ。それくらいはさせていただきます。
決意を新たにする私に、ヒューナさんもお褒めの言葉をかけてくれる。
「凄いねー。私でもわかったよ。魔力の流れがスムーズになった。」
「ありがとうございます。」
「精霊さんってすごいね。いいなー。私もお話してみたい。……ねえ、サラちゃん。これからも時々でいいから、父の話し相手になってやってね。なんだかんだで物凄く嬉しいんだよ、あの人。」
「え!???いやいやいやいや、私なんかに、そんな。」
恐れ多くて、と私はブンブンと首を振る。
いくら未来の国の人材育成のため推奨されているとはいえ、一生徒に過ぎない私に声をかけてくれる今の状態でもありがたいのだ。本来はそんな気軽に声をかけていい相手ではないと私だってわかっている。
…まあ、ずいぶん気軽に色々聞いたりしてた気がするけど。だってこっちから言う前にバレるんだもん(精霊さん経由で)
だけど、私のその言葉にヒューナさんはちょっと声のトーンを落とし、少しだけ寂しそうな声で続けた。




