とりあえず、平和。
「サラちゃん、大丈夫?」
「お、おう。」
メリッサちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「そお?顔色が悪いみたいだけど…保健室行く?」
「ううん、平気。ありがと。」
ならいいけど、と水色に近い銀髪を揺らしながらメリッサちゃんは微笑む。
ルゥナちゃんとすっかり親友になったメリッサちゃんは、ちょっと神秘的な感じのかわいい子だ。
しかも気遣いのできる優しい子…どうやらルゥナちゃんとは違う方面からモテてるらしい。青春だのう。
「サラ、最近考え事多いよね。」
「そうかな?」
しかし、そこでさらに突っ込んでくるのは鋭い女、グレッチェンちゃん。
いや、彼女はたぶん純粋に心配してくれてるんだと思うが。
「悩みがあるなら聞くよ?」
「うーん、悩みと言うより、心配というか、ビビってるというか。一番安全なはずの王都に魔人が……侵入するなんて。てか、他にはもういないのかな。怖すぎ。」
「まあ、それをこれから調べるんでしょ?でもさー、魔人って組織だって行動するのかな?」
「どうなんだろ。」
仮に、魔人が集まったりしてなんか組織作ったとしたら、そのトップを魔王と呼ぶのか?
それとも、単独でも強力な魔人だったらわざわざ他の魔人とつるむことなく、自力で魔物を使役して組織を作って、そして魔王として君臨するのか?
今回の魔人も魔物を召喚してたみたいだし、魔王が魔物の軍勢を率いて云々って本で読んだ覚えがあるから、どっちか当たってるかもね。
つか、こんな風に私でもそういう考えに及んじゃうんだから、先生とか魔人の成り立ちくらい知ってるんじゃね?
(大人に本気で隠されると、子供の私達じゃ見つけるのは困難だからなー。)
精霊さんがいるとはいえ、彼らは…うん。まあ…聞けば答えてくれるけど…うん。
そんな風に考えてると、グレッチェンちゃんが、私の額をグイっと手で包み込む。
「うぉ、」
「ねえ、ほんと、大丈夫?熱は……無いね。」
「う、うん?」
まるで、お母さんのように心配してくれるグレッチェンちゃん。
鋭く、賢く、包容力のある子だ。
なんとなく、前世のお母さんを思い出す。そういえばこんな感じの人だった。もうだいぶ遠い記憶になってしまったけど。
こんな時に、ふと思い出すと、やっぱり今でも切なくなる。
「グレッチェンちゃん…すき。」
「ばか!!!」
涙が浮かんできそうなのを誤魔化すように、グレッチェンちゃんに告白?すると、今度は額をベチン、と叩かれてしまう。地味に痛い。
「へへ。ありがとう。」
「そう思うなら、早くいつもの調子に戻りなね!」
ぶっきらぼうだけど、優しい。
今世でも私は本当にいい友人に恵まれたな。
いや、友人だけでなく、身内や地域の人にも。
「精霊から聞いたか。」
「はい。知り合いの光の精霊さんから。」
キュミラスさんと会えたのは、王都の魔人討伐騒動から、既に一週間がたった後…、外出禁止令が解かれてからの事だった。
調査の結果、他の魔人の影は見られないということで、一応の安全宣言が出されたのだ。
「ああ、あの傭兵団の精霊か。」
「ご存知でしたか。」
「もちろん。ぜひじっくり話してみたいものだな。」
「はは、向こうも同じこと言ってました。」
そう伝えると、キュミラスさんは少しうれしそうな顔をする。そういえば、最近念話での会話ばっかりだったからこうして直接顔を見て話すのは久しぶりだな。
「って、キュミラスさん、ちょっと痩せました?」
「この忙しさだ。太る要素がない。」
珍しくむくれたようなキュミラスさん。
そりゃ、魔人騒動で王都は大混乱だった。宮廷魔術師団の団長ともなれば、そりゃ寝る間も無いくらい忙しかっただろう。
「まあ、それでも娘と息子が今滞在してくれてな。助かっている。」
「おお、お子さん達がいらっしゃってるんですか。」
「…お前、本当に学生か?」
しまった。いくら何でも子供らしくない。
しかし、キュミラスさんも慣れたもんで、まあいい、とその辺は華麗にスルーしてくださる。ありがたやー。
「キュミラスさんのお子さんたちも宮廷魔術師なんですか?」
「いや、娘は研究者で、息子は冒険者だ。」
ありゃ、そうなんだ!親の七光りは嫌!ってことなのかな。
「へえ!」
「ふふ、どっちもなんでわざわざそんなところに、と思っただろう。」
「いやいや。」
すいません、正直思いました。
父親の名前を出せば、安全で安定したところなんていくらでも見つけられそうなのに、って。
「娘は、なかなかの行動派でな。研究対象……ハルエークの地下都市群跡を調べたくて今の職業に就いたそうだ。」
「ハルエークって、あの沈んだ町ですよね。トルキアとの間にある。」
昔、昔、その昔。旧王都やラクラエンの西側に、ハルエークと言うなかなか栄えた都市があったらしい。
ただ、数日でいきなり町ごと海に沈んでしまったとのこと。
あまりにも昔すぎて詳細不明らしいけど、今でも時海岸にその遺物が上がるとかなんとか。
ちなみに、トルキアはその向こう側になる小さな島国だ。
ハルエークがあればこの大陸と地続きだった島である。噂によると色々独自の文化があって面白い国だとか。
「時々海に潜って採掘しているらしい。全くよくやる。」
「凄いっすね。」
「息子は息子で、国に縛られたくないそうだ。世界中を旅したいと。」
「ほえー。」
「特に息子は親しい仲間以外には、私の息子だとも明かしてない。まあ、幼馴染の子も一緒にパーティーを組んでいるからな。その子の協力もあって今のところ大っぴらにはなっていない。」
幼馴染の子っていう表現からして女の子かね。……幼馴染の女の子か。いいですね、幼馴染(棒読み)……爆発しろ。
まあ、冗談はさておき。
「どっちも結構突き抜けてますね。」
「まったくだ。親の気も知らんで…。」
そう嘆くキュミラスさんは、しかめっ面をして見せるけど、実際は口元が笑ってる。
なんだかんだ自分の道を突っ走る子供たちを応援しているみたいだ。




